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「なに仲良しっぷりアピールしてるんだか。首にキスマークたくさんつけて」
カイは笑いながらコーヒーを飲む。
李仁は彼の言葉を無視して契約書にサインをしていた。
もう李仁は腹を括っていた。
カイとはキッパリ別れて湊音だけを愛すると。
「あんだけ俺を求めていたのに簡単に鞍替えか。俺の代わりになるのか、その男は」
「代わりだなんて。僕は純粋にミナくんを愛してる……」
「ついこないだまで俺が好き好きって尻をフリフリしていたクセに」
カイのその言葉に湊音は口をクッとする。今回、マンションを譲り渡されるのはカイから李仁への慰謝料代わりでもあった。
湊音はマンションも受け取らずきっぱり縁を切ったほうがいいと李仁に言ったが他にいい条件の場所が見つからないのと、愛着もあってこのまま譲り受けることに同意したのだ。
「まぁいい、おままごとごっこになるだろうな。そしてまた俺のところに戻ってくると言ってもダメだからね、李仁」
「戻らない、絶対戻らないから」
李仁は机の下で湊音の手を握る。
強く。少し震えてる。
『李仁……大丈夫だよ。僕も絶対李仁を離さない。守る、今度こそ』
湊音は手を握り返した。カイは書類を見てそれをしまった。
「連絡は僕にください。それを李仁に伝えます。会う時は必ず僕と李仁で2人で会います」
湊音がそういうと李仁はびっくりして湊音を見つめた。
「ああ、はい……そうしましょうか。そうしたいならどうぞ」
カイは少し呆れていたが彼の中でも諦めはついたようだ。
少し去り際の背中は寂しそうだったが、振り向くことはしなかった。
「李仁……」
李仁の目から涙が出ていた。
「大丈夫、僕がいるから。彼は君にとって大切な存在だったかもしれないけど、もう壊れたものだから戻すことはできない。戻ってはいけない……」
「そうだね、カイも別の相手いるし……僕も幸せなところ見せつけてやればいいのよね」
カイは李仁から別れた後、有名女優と付き合っている。李仁と同時期に付き合っていた女性の中の1人でもある。
李仁もだがカイも浮気をしていた。しかも全員女性だったという。
『遊びで付き合ってたのだろうか、別れるだけでこんないい部屋渡すなんて……普通そんなことしないのに』
数年後、カイが自伝を出して同性愛者と告白したが大手企業の御曹司でもある彼は家族に反対されたことや李仁のことと思われる最愛の人という文章を見ることになるがそれはだいぶ先の話である。
李仁は涙を拭い、湊音を見る。
「よし……掃除する! 残ってるカイの荷物はこのスペースに置いて。送りつけてやるから。で、カイの部屋はミナくんのお部屋にする。さー、泣いてる場合じゃない!」
「おう、やるか!」
と、掃除を始めるが数時間後2人は喧嘩をする。寝室の前で。
「ベッドは捨てて」
「処分するとお金がかかるんだよね」
「いやだ!お金払うからあのベッドは捨てて」
ベッドを捨てる捨てないで喧嘩。湊音曰く、他の男と李仁が寝たベッドには寝たくないとのこと。
李仁は高級ベッドでこれもカイから買ってもらったもので気に入っていた。
「じゃあ……布団だけ処分なら……」
「マットレスも。他の男の汗とか何まで染み込んでたら嫌だ」
湊音の頑固で嫉妬さには李仁もタジタジ。
こんなにもきついとは思わなかったようでだんだん口数も減っていく。
「シーツも捨てる。タオルも捨てる!」
「……いい加減にして。好きにすれば?」
いい加減李仁も頭に来たようだ。
だがふとここで過ごした日々を李仁は思い出したようだ。
「まだ未練たらたらじゃん。僕」
と独り言。
こんな気持ちで湊音と暮らしてまたさっきみたいな喧嘩が起きてしまったらもうどうにもならないだろう。
気持ちを落ち着かせて李仁は部屋に入ると湊音はペタンと床に座っていた。
「ミナくん?」
その声で湊音は振り返った。元気のない顔である。
『僕いくらなんでも嫉妬しすぎたよね……李仁困らせちゃったよ』
李仁は湊音を後ろから抱きしめた。甘い香水の匂いがふと香る。
「どーしたの? 掃除また始めるよ」
「ごめんね、李仁……ベッドはあのままでいいよ。しばらく一緒に暮らしてシーツもタオルも2人で気に入ったのを見つけて買おうね。わがまま言ってごめん」
湊音は李仁の手を掴む。
ギュッと。さっきのカイと話をしているときとは掴む感じが違う。
「わかる、僕がフワフワしてるから不安になっちゃうんだよね。よし、もうシーツ捨てる!」
「えっ……」
「マットレスも捨てる!」
「ちょ、ちょっと……」
「捨てたら家具屋に行くわよ」
「……李仁ぉ……」
「んで、その新しいマットレス、シーツの上でセックスするからね」
「そうきたか……」
2人は見つめあって笑った。