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『新事業の発表に、麻王グループの専務として出る』


そんなイベントがあると知ったのは、『|Fill《フィル》』の打ち合わせが終わった後だった。

ショーで採用するモデルを決める必要があり、イメージと合うかどうか、議論が繰り広げられていた。


――中性的なイメージの人っているけど、なんだか自分の中で、しっくりきてないのよね。


理世をモデルに作ったからか、私はまだ決めかねている。


――リセは理世で、麻王グループの専務。私の服を着てくださいなんて頼めない。


こればっかりは、いくら結婚したからといって、気軽に頼めるものではない。

そんなことを悩んでいると、理世からメッセージがきていて、事業発表をする場所まで書いてあった。


「もしかして、心細いとか?」


――心細いなんて、思いそうにない。


でも、ここに来て欲しいと思っているから、書いたのではないだろうか。


「心細いって誰のこと?」


|恩未《めぐみ》さんは、私のつぶやきを聞いていたらしい。

その手には、新しい生地カタログがあった。

|麻王《あさお》グループ傘下の子会社には、繊維会社もある。

その繊維会社が取り扱う生地を使えるようになったため、今までより、ずっと自由に素材を試せる。

恩未さんはそれに夢中だった。


「理世が新事業の発表で、メディアに顔を出す予定になっているみたいなんです」

「ふぅん。それって、週刊誌のことも聞かれたりするのかしら?」


恩未さんも私と同じことを思ったらしい。


「そ、そうですよね。事業内容より、そっちのほうが、気になる情報ですよね」

「しかたないわよ。麻王グループの次期社長だし、仕事関係者の手前、なにかしらのコメントを求められてもおかしくないわ」


恩未さんの言葉にうなずいた。


「そうなんです。きっと週刊誌が出たせいで理世は……」

「ニヤニヤしてそう」

「え? 恩未さん?」


私が思っていた反応と違っていた。

通りすがりの|紡生《つむぎ》さんまで、理世のニヤニヤ顔に同意していく。


「してるだろうね。結婚相手を報告する手間がはぶけたなって、思ってるかも」


紡生さんまで加わって、そんなことを言い出した。


「二人とも理世を誤解してます」

「理解してるの間違いだよ!」

「心配なら見てきたら? 今日は急ぎの仕事もないことだし」

「うん。ついでに店舗を回ってきて」

「はあ……そうさせてもらいます……」


理世のイメージって、『|Fill《フィル》』のメンバーから見たら、どんなイメージなのか、不安になってきた。

そのあたり、詳しく追及したかったけど、理世のことが気になり、事務所を出て、会場へ向かった。


「おかしいと思っていたのよね……」


今日の朝、理世はいつもより早く出て、麻王の本邸に行った。

私のことで、両親から、いろいろ聞かれたに違いないと思っている。


――やっぱり、きちんと挨拶に行かなきゃ。


ショーが終わってからでいいって、理世は言っていたから、後回しになってしまっていた。


――そんなわけにはいかないわ。私が理世をどれくらい好きで、必要なのか、ちゃんとわかってもらいたい。


理世が送った住所まで、急いで行くと、会場はホテルで、私が着いた頃には、すでに大勢の人だかりができていた。


――こんなに人がいたら埋もれて、私がいても、どこにいるかわからないわ。


しかも、週刊誌を見ている人たちのはずなのに、私が理世の妻だと誰も気づかない。


――平凡でよかったような悪かったような。


複雑な心境だったけど、そっと人の隙間を縫ってもぐりこんだ。

なんとか理世の顔が見える場所まで、移動できた。


「新事業がうまくいくように願っております」

「ありがとうございます」


すでにやり取りが始まっているようで、理世の声が聞こえてくる。


「社長と会長は、ご結婚相手のことについて、なにかおっしゃられていましたか?」

「父と祖父は、静かに見守ってくれていますね」


理世のほうはまったく動じず、逆に美しい顔立ちに圧倒された質問者が、自然と丁寧な態度になっていた。


「では、お金目当ての女性に、騙されたと週刊誌に書かれていましたが、専務自身は、ご結婚相手に対して、どう思っていらっしゃいますか?」


理世はそこで初めて微笑んだ。

その微笑みに、誰もが動きを止めた。

あまりに綺麗だったから、見惚れてしまったのだとわかった。


――美人すぎる。


見慣れているはずの微笑みなのに、私までぼうっとなってしまった。

さすが、モデルのリセをやっていただけある。


「そうですね。逆に俺のほうが、彼女を金と権力で、縛りつけてしまった気がして、後ろめたさを感じます」


憂いを帯びた顔は色っぽく、カメラのシャッター音が消え、ボタンを押すのを誰もが忘れてしまっている。


「病気の妹を助けたいと願う彼女の優しい気持ちにつけこんだのは、俺のほうでした」

「そ、それでは、プロポーズされたのは、専務からということでしょうか」


顔を赤らめた女性記者が、質問すると、理世はにっこり微笑んだ。


「それはもちろん、俺からですね」


完全に理世の虜にされた女性記者は、うっとりとして、『なんて、素敵な話……』とつぶやいている。

そんな理世に、負けない男記者が、ずいっと前へ出た。


「彼女はブランド『|Fill《フィル》』のデザイナーですが、結婚してから、『|Fill《フィル》』を|麻王《あさお》グループ傘下に置きましたよね? それは彼女からの要望ですか?」

「信じていただけないかもしれませんが、提案したのはこちらです。『|Fill《フィル》』に入る前から、彼女のことはデザイナーとして、目をかけ、気に入っていました」


――入る前?


それだと、学生の私と理世が会っていたことになる。


「学生の頃から、狙っていたということですか?」

「ええ。そうです。いつか彼女の力になりたいと思っていました。たとえ、男として好きになってもらえなくても、ですが」


私が意識する前から、理世は私を知っていたという事実を知り、胸が苦しくなった。


――偶然の出会いじゃなくて、理世はずっと私を見守ってくれていたの?


「『|Fill《フィル》』はこの先、確実伸びていく若いブランドです。俺が『|Fill《フィル》』を買収するために、彼女を利用したと思われてもしかたないことでしょうね。これを聞いて、彼女は俺を嫌いになるかもしれない」


理世の言葉を聞いて、私は飛び出していた。

理世は自分を悪く言うけど違う。

助けられたのは私のほう。


「理世は私を助けてくれた。利用されたなんて思ってない!」

「|琉永《るな》」


人の中から飛び出してきた私を理世は抱き締めた。

うるさいシャッター音の中で、理世がくすりと笑う声がした。


「知ってる」

「えっ!?」


理世がカメラに私の顔が見えないようにして、私の唇をふさいだ。

わぁっという歓声とさっきよりうるさくなったシャッター音。

そして、唇を離した理世が低い声で言った。


「俺はそんな善人じゃない。知ってるだろ?」


――あれは演技!?


さっきとは、まるで別人の悪い顔をして、私にささやく。

それは誰も知らない顔だ。

私にだけ見せる顔。

私も記者も――全員が理世の罠にはめられてしまった。

でも、騙されたことに気づいたのは、この場で私だけだった……

一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~

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