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「っはぁ〜!間に合った!」「オリヴィエはまだしも、サラまでこんなギリギリって珍しいね?」
「あはは、少し寄り道してたらこんな時間に…笑。」
サラがなぜか僕の目を見ながら言う。
「あっはっは笑!絶対オリヴィエのせいでしょ!」
「マリア、大正解!」
それが言いたくて僕の目を見ながら言っただろ…。
「ところで2人とも、今日は能力測定があるけど大丈夫?準備とかしてきた?」
「もっちろーん!今日は珍しくオリヴィエも朝から練習してたみたいだし、みんなでいい結果が出せるといいね!」
…ん?能力…測定…?……え?
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
では次!オリヴィエ・クローマン!!
…
─────今日、測定の日じゃん…!!!
まてまてまてまて、まてまてまてまてまて!
やばいやばいやばいかなりやばい!!
今まで能力測定の日はサラたちに僕の本気が”あれ”ってバレないように「適当に終わらせるわ〜」とかなんとか言って誤魔化してきたのに!!
…今日はサラに練習してたところしっかり見られてるじゃん!!!!!!
やばいやばいやばい、これはやばい、どうする!?
素直に「僕、実は本気でこれなんだよね笑」って告白して笑って誤魔化すか?
それとも「今日もやっぱり適当でいいや〜」って情けなすぎる大嘘をつくか?
どうする!!!やばい!!
「オリヴィエ!早くしなさい!」
「…はっ!はい!」
───アイシクルスペース!!
クラスメイト全員が見守る中、僕は今出せる力の全てを指先に集中させてその能力を放った。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
「…ん…。」
「あ、やっと目覚ました!オリヴィエ、聞こえる?」
「…マリア?」
「良かった!もー、本当にびっくりしたよ!オリヴィエったら能力測定の最中に体力切らしてその場に倒れ込むんだから!」
そんなことがあったのか…確かにあれ以降の記憶が全く残っていない…。
「ご、ごめん。マリア。」
なんというか、自分があまりにも惨めで息苦しい。
これまで弱い自分を知られたくなくて、その為に平気で周りに嘘を吐き続けていた。
でもそんな脆い皮も結局はすぐに剥がれる。
「ん?なにが?」
「なにがって、ほら、僕って実は本気の出力があれなんだ。」
情けない、情けない情けない情けない。
情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない─────!
「うん、知ってたよ?」
「…え?」
情けなくてどうしようもない僕の顔を見て、マリアは優しい笑みを浮かべる。
「だって私も一緒だからね!分かるよ!」
「一緒…?」
「うん、ほら私もオリヴィエもお父さんがギルド直属の優秀な能力者さんでしょ?で、私もオリヴィエも同じ初級能力者。世間からの目が痛くて仕方ないよね〜、別に直接何か言われるってわけじゃないけどさ、なんて言うか、勝手に期待されて勝手に失望されて。最悪のループ!みたいな?笑」
そう。彼女、マリア・テンラはサラと同じく僕と幼馴染かつ現クラスメイトの初期能力者。
能力は水泡属性の泡粒子弾【バブルショット】で、水から強固な泡を生成し、それに初速を乗せることで弾として撃つことが出来る。
父親のパージさんは僕の父さんと同じゴルゴンギルド所属の上級能力者で、父親同士の仲が良いからかマリアとは昔からよく一緒に出かけることも多かった。
「マリアにはバレてたか…笑。本当、情けないな。」
「そうかな?私は今日、自分が倒れるほどの力を込めて能力を発動させたオリヴィエを賞賛したいと思ったけどなぁ〜?」
そういう言い方をすれば確かに聞こえは良いかもしれないが、単に僕が自分の限界を知らなかったという自己分析能力の不足が招いた結果とも言えるんだよなぁ。
「そ、それで、僕、どうだった?」
「5度!」
「…え?」
「マイナス5度、周りの空気が下がってた!」
なんというか、喜んで良いのか悪いのか微妙すぎるラインだ。マイナス10度くらいまで行ければ実用性も少しは高まるんだけどな…。
「オリヴィエ、動けそう?」
「え?ああ、うん。動けるよ。」
「ならサラ達も外で待ってるし、オリヴィエの調子も戻ったみたいだしもうそろそろ帰ろっか〜!」
「え!?外で待ってるの!?」
「え?うん!待っててくれてるよ〜!」
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
外に出ると、既に夕陽が沈みかけて空は綺麗な橙色に染まっていた。
「あ、やっときた。」
「お待たせ〜!オリヴィエの調子も戻ったみたいだし、帰ろっか!」
「オリヴィエ、次からは気をつけろよ?」
「ゼラス…ごめん。」
「謝ることじゃねえよ。気をつけろ。」
彼はゼラス・ホーリー。僕たち3人と幼馴染の中級能力者で、能力は空間属性の位置固定【ポジションフィックス】。
補助型の能力で、対象をその位置に固定させるというシンプルながら汎用性の高い能力だ。
今はクラスが離れてしまったが、僕たち4人は幼馴染4人組としてほぼ毎日一緒に生活している。
「ま、まぁまぁ!結局無事だったわけだし、一件落着でいいんじゃない?ね!サラ!」
「そうね。とりあえず無事で何よりだわ。」
マリアだけじゃなく、サラやゼラスにも心配と迷惑をかけてしまった。
それにこれまでの嘘もバレてしまっただろうし、もしかしたら凄く怒ってるかもな…。
…
うわぁ。気まずい。マリアが必死に場を和ませようとしてくれてたけど、なんて言うか…重いな…。
「あ、あのさ!みんなは測定結果、どうだったの?」
「私は安定に初級のままだったよ!でも出力火力が少しだけ上がったから個人的には満足かな〜!」
「俺も変わらず中級のまま。同時固定人数が1人増えたくらいで他は特に変わらないな。」
みんな意外とそう簡単には変わらないもんなんだな。
「僕は下げられる温度が2度伸びたくらいかな?笑」
「オリヴィエお前、意識あったのか?」
「あー、いや!さっきマリアから聞いたんだ!」
サラが全く話題に入ってこない。
絶対怒ってるよな…どうするか…。
「えっと、サラはどうだったっけ?」
ナイスマリア!さすが!空気読みの達人!
「私も特には変わりないよ。」
「───それよりオリヴィエ、あなた先に私たちに何か言うことがあるんじゃないの?」
───あ、終わった。
いや、でもここで正直に言わなきゃこれからもずっと、きっとお互い苦しむことになる。
これまでの関係にもヒビが入ることになる。
もういい、プライドなんか捨てろ。
「うん。ごめん、みんな。」
「僕、ずっと自分が弱いってバレるのが怖くて、みんなに嘘付き続けてた。ごめんなさい。」
なんだろう、凄く清々しい。
これで許してくれるかは分からないけど、少なくとも僕の心の中にあった悪い何かは取り除かれた気がする。
「はぁ。本当、悲しくなるからやめなさいよね。」
ん…?悲しく?
「私たちがそんな事で何か言うとでも思ったの?」
「…え?」
「まぁいいわ!重い空気は私も嫌だし、次からそういう隠し事はナシだからね!分かった!?」
サラはきっと、単に「僕が嘘をついていた」という事よりも僕が本音を吐けばサラ達に笑われるから「自己防衛として嘘をついていた」という事に怒っていたんだ。
勝手に期待されて、勝手に失望される。
これは確かに世間から僕に対する正当な評価の一環で、僕が恐れた最悪のループでもあった。
でも、この4人組の中に限ればそんな評価は存在しなかった。
僕が間違っていた。失礼な事をしたな…。
「それじゃ、また明日ね!」
「うん、また!」「また明日〜!」「また明日。」
こうして僕たちはお互いの気持ちを再確認し、それぞれ家路についた。
「ただいまー!」
「…おかえり。オリヴィエ。」
そういや今日は外食の日だった…!魚もいいけどやっぱり肉もいいな…父さんはまだ帰ってきてないのかな?
「母さん、父さんはまだ帰ってきてないの?」
「…」
「母さん?」
母さんは大きく息を吸って、震えた声でただその一言だけを口にした。
───お父さんは、亡くなったわ。