(よし、完璧だ…)
阿部の心の中のガッツポーズとは裏腹に、ここから、佐久間による怒涛の先制攻撃が始まることを彼はまだ知らなかった。
コンビニに向かう道すがら。
「ねえ、あの雲なんかのアニメのキャラに似てない?」
「えー?そうかな?」
「俺が先に見つけたから、はい!俺の勝ちー!」
「……。」
コンビニに到着し、お菓子コーナーで。
「うわ!このグミ新作じゃん!ねぇ阿部ちゃん、知ってた?」
「いや、知らなかったな」
「俺の方が情報が早かった!はい!俺の勝ちー!」
「………。」
ジュースを選んでいる時も。
「俺もう決まった!阿部ちゃんは?」
「うーん…僕はまだ…」
「決断力で、俺の勝ちー!」
「…………。」
そして極めつけは、会計の時だった。
阿部が財布を出そうとする、その一瞬早く。
佐久間がスマホ決済の画面を、ピッと店員にかざした。
「え、佐久間!?」
「はい!お会計のスピード勝負、俺の勝ちー!」
「…………………。」
家に着くまでの、ほんの10数分の間に、阿部は一体、何度「俺の勝ち」という言葉を聞かされたかもう分からない。
その度に、佐久間は心の底から楽しそうに、ケラケラと笑うのだった。
(…くっ…!見てろよ、佐久間…!)
阿部は、怒りを通り越して、もはや感心すらしていた。
この男は、日常の全てを「勝負」に変換し、そして、全ての勝負に「勝利」する天才なのかもしれない。
そしてようやく阿部の自宅に到着した。
ガチャリ、と鍵を開け部屋の明かりをつける。
「おじゃましまーす!わーい!阿部ちゃんち、めっちゃ久しぶり!」
買ってきたお菓子をテーブルに広げ、早速アニメを見る準備を始める、無邪気な佐久間。
その背中を見ながら、阿部は、静かに、そして固く、決意を固めた。
(もう、負けない)
今日この家に来てから、すでに4敗。
これ以上、彼のペースに巻き込まれてたまるか。
(絶対に、だ)
今夜このベッドの上で、全てをひっくり返す。
今まで受けた、全ての「完敗」の屈辱を、ここで晴らす。
阿部は玄関のドアを閉めると、まるで戦場に向かう兵士のように、覚悟を決めた表情で、リビングへと足を踏み入れたのだった。
コメント
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コンビニだけでめっちゃ負けてるw ここまで来たらかわいいわ 続き楽しみにしてます!