その日は、するりと目が覚めた。朝の六時。……決して早すぎるという時間帯でもないし、せっかくなのでとシャワーを浴びた。肌の手入れも入念に。
本日の主役はわたしなのだ。ビバわたし。誰に見られても恥ずかしくのない自分でいたい!
腕毛なし! お顔もつるつる! 髪もばっちしー! ネイルもきらっきら☆
さてさてお肌をコットンでパッティングしてるとあなたは起きてきた。「おはよー」
「……おはよう莉子。今日も可愛いねえ」
「課長も、今日もとっても格好いい……!」
バカップル上等☆ 本日はこのバカップルぶりをお披露目する日にございます!
「えへへー課長。だぁいすきー」
「うん。うん。……出る前に荷物確認しないとね。下着と……お泊りグッズと、あとペンライト……」
「一応昨日チェックしといたけど。念のため課長チェックして貰っていい?」
「いいよー」
べたべた絡むとわたしたちは、どちらからともなくキスをする。今日が最高の一日になるようにと、願いながら。
* * *
ホテルに到着すると、真っ先に黒石さんが出迎えてくれた。わたしたちの結婚式と披露宴をお世話してくれるブライダルコーディネーターだ。
「本日はおめでとうございます」とにこにこと笑い、「それでは、早速ですがメイクに参りましょう。ご案内致します」
きらびやかな会場に、しっかりと、『三田家 桐島家 結婚披露宴会場』と出ているのを確認した。なんだか誇らしい気持ちになった。
* * *
「わあ……すごくきれい。ありがとうございます……!」
メイク室に通され、メイクをされているところを、しっかりとカメラさんに撮られている。アルバムや動画にはいろいろなオプションがあったが、やはり、課長のことだから、グレードの高いものにした。こういう化粧シーンも撮って貰える。
そして鏡のなかの女は、顔も髪も綺麗に整えられている。ティアラは、迷ったがこれもやはり、いいものにした。なんと、ミキ〇トの〇百万円もするもの……! 試着会でいろいろ試したけれど、やはり、輝きが違うもの……! 高嶺も目の色を変えて眺めていた。
カメラに向かってピース。メンズエステもして貰い、ヘアセットも顔も整えて貰った課長が。
それから……ホテルの大階段近くに移動し、両親や、義理両親一家と写真を撮って貰う。勿論この間もカメラは回りっぱなしで。いちいちキョドるうちの父や、こっそり涙する母の姿も記録している。……結婚って、なんか、いいな、と。
引っ越しもして。入籍もして。確かに……課長とは、正式な伴侶になったわけだけれど。こうしてお披露目する機会があると、改めて認識するというか。どうしても、会社と家との往復だけだと、認識が足らないというか。そこそこの認識で満足してしまう。
「莉子さん……。すっごく綺麗……」
「綾音ちゃんこそ綺麗だよ。ピンクのドレス、すっごく似合ってる……」
「ありがとう莉子さん。あのね……莉子さん。お願いしたいことが……」
「なぁに? なんでもいいよ?」
「ふ、……ふた、ふた、りで……」
「うん」
「しゃ、しゃし……写真を。撮って貰えないかと……」
「勿論いいよ!」
そうして、綾音ちゃんのカメラにも収まった。
それから、ふたりでたっぷり写真を撮って貰った。ドレスのドレープが目立つように、カメラに背を向けて、振り向きざまにこりと笑うショット。……うん。綺麗。これ、絶対綺麗に違いない。
素敵な会場に負けないように、ドレープが何メートルもあるドレスにした。動くのはなかなか大変だが、それだけの価値がある。父も母も喜んで、わたしたちの写真を撮ってくれている。――感無量。
感無量とはこういうことを言うのか……。階段の下で、みんながわたしたちに注目してくれている。早めに来てくれている高嶺や……会社の面々。みんなが揃ってカメラを向けている。携帯やデジカメで。
「こっち向いて! 莉子!」
ひときわ大きな声に応じ、わたしは笑みを向ける。そしてセレブのごとく手を振るのだ。――ナルシスト万歳。セレブ上等。この日を迎えるために生まれてきたのだとしたらもうこれでいいと思えるくらいに。後悔の残らない道へと――歩みだしていた。
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