テラーノベル
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「100日後に消える街」という絶望的な現実が、新宿の表層を薄い氷のように覆い始めていた。
一方で、俺の呼びかけに応じた新宿の「鼠」たちは、地下に張り巡らされた古い血管へと吸い込まれていく。
「……信じられねえ。こんな場所があったなんて」
山城が懐中電灯をかざし、呆然と呟く。
そこは、新宿駅の真下から都庁方面へと伸びる
戦時中の防空壕と昭和の高度経済成長期に放棄された地下通路が複雑に絡み合う「未登記」の巨大空間だった。
集まったのは、親父の代からの古い知り合いだけではない。
神崎の合理化で切り捨てられ、三和会の崩壊で居場所を失った、文字通りの「持たざる者」たちだ。
「佐藤だか黒嵜だか知らねえが、本当にここで国から逃げ切れるのかよ?」
一人の若い浮浪者が、疑いの眼差しを向けてくる。
「逃げるんじゃない。……奪い返すために、牙を研ぐんだ」
俺は暗闇の中で、集まった百人近い男たちを見据えた。
「公安が動けば、この街の電気も水も止まるだろう。だが、ここには古い井戸があり、地上に通じる無数の『隙間』がある。奴らが新宿を更地にするその瞬間、俺たちが地面の下からその喉元を掻き切んだ」
山城が各地からかき集めてきた発電機と食料
そして志摩が警察の備蓄庫から「紛失」させた医療物資が、次々と地下へと運び込まれる。
その時、通路の奥から一人の老人が現れた。
かつて親父と縄張りを争い、今は引退して地下の配管工をしていた男、通称「モグラの源蔵」だ。
「和貴、面白えことを考えたな……。だが、組織も馬鹿じゃねえ。奴らはすでに、この街の『音』を拾い始めてるぞ」
源蔵が壁に耳を当てると、遠くから微かな振動が伝わってきた。
それは工事の音ではない。
超高感度の振動センサーが、地中の動きを監視するために設置され始めている音だった。
「……監視の網を広げてるってわけか」
「ああ。奴らは鼠一匹逃さないつもりらしいな」
俺は腰の脇差を握りしめた。
地上では公安と『黒い百合』が冷酷な包囲網を完成させようとし、地下では俺たちが反撃の狼煙を上げる準備を進める。
残された時間は、あと98日。
静寂を装った新宿の街で、地底の温度だけが確実に上がり始めていた。
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