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新宿の地上では、異様な光景が広がっていた。
「再開発に伴う安全点検」という名目で、主要な交差点には高いフェンスが設置され
黒いバイザーで顔を隠した特別警備隊が24時間体制で街を巡回し始めている。
それは治安維持というより、巨大な檻の鍵を閉めていく作業に近かった。
「兄貴、上の連中、本気ですよ。さっき偵察に行かせた奴の話じゃ、歌舞伎町に入る全ての車が検問を受けてる。物資の運び込みが、これまでの倍以上の時間がかかるようになってます」
地下の作戦室――
埃を被った通信機が並ぶ狭い部屋で、山城が顔を歪めた。
「物資だけじゃない。……奴らは『音』で俺たちを追い詰めるつもりだ」
俺は源蔵が指摘した壁の微かな振動を指差した。
志摩から暗号通信が入る。
『黒嵜、公安の内部で動きがあった。奴らは最新型の地中レーダーを導入したらしい。地下10メートルまでの空洞と、そこにある動体の「心拍数」まで正確に割り出す』
『……今のお前たちの規模だと、あと数日で場所を特定されるぞ』
「……徹底してやがるな」
組織は、新宿という街を単に壊すのではない。
そこに潜む反抗の種を「一粒残らず」デジタルで選別し、抹殺しようとしているのだ。
「源蔵さん。この地下道のさらに下、昔の廃坑道は生きてるか?」
俺の問いに、源蔵は渋い顔で首を振った。
「あそこはガスが溜まってて、人間が長居できる場所じゃねえ。だが、レーダーの目を誤魔化すには、それなりの『ノイズ』が必要だ」
「ノイズか……。なら、俺にいい考えがある」
俺は山城と源蔵を呼び寄せ、作戦を伝えた。
「山城、街中のジャンク屋から古いスピーカーとモーターをかき集めろ。源蔵さんはそれを、地下のあちこちにある鉄管に取り付けてくれ。……100年前のメトロノームみたいにな」
作戦は単純だ。
街の至る所に「偽の心拍音」をバラ撒き、レーダーを攪乱する。
組織が一点に絞り込もうとする
その瞬間、俺たちは千の影となって闇に散る。
地上では、着々と「死の更地」への準備が進む。
だが、地下では何千という「偽の鼓動」が、組織の神経を逆撫でするように響き始めた。
残された時間は、あと2328時間
黒い百合の刺客たちが、ついにマンホールの蓋に手をかけようとしていた。