テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#男装女子
98
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ラウワ王城を「サクラ帝国(仮)」の拠点として支配し、
奇跡の合流を果たしてから約1ヶ月が経った。
玉座の間は現在、私の執務室兼、
幼馴染たちの溜まり場と化している。
「あー……やっと書類から解放されたわ。……ん? なによこれ」
私は机の端にあった紙束の中から、
一枚の報告書を引き抜いた。
《ダンジョン“奈落の縫い目”にて、
魔王と酷似する魔力反応を感知。詳細は未解析。》
「サクラ、お疲れ様! はい、お茶! あと焼きそばパン食べる?」
カエデが呑気に焼きそばパンをかじりながら、
私のデスクにマグカップを置いた。
「ククク……狂王よ、紙の束に封印されしその姿……
滑稽だな。我のように、ただ深淵を見つめていれば良いものを」
ツバキが玉座の隣で、
無駄にキマったポーズで包帯(眼帯)を押さえている。
「『聖女様、玉座の横で深淵を覗く』……追記せねば!」
ローザが猛スピードで聖典にペンを走らせる。
「あんたたち、居候の分際でくつろぎすぎじゃない?
バイトしろよ?……まぁいいけど」
私はマグカップの紅茶をすすりながら、
改めて報告書に目を落とした。
「……この魔力痕、気になるのよね」
「えっ、それって……」
私の膝の上に座って絵本を読んでいたエスト様が、顔を上げた。
「ほう……奈落の縫い目……。
いにしえの王が遺せし、魔の残滓(ざんし)か……」
ツバキが勝手にそれっぽいルビを振る。
「知らない魔王の残したダンジョン? 魔力付き?
……はい、ワンチャンお宝ルートのやつ」
私はツバキの中二病を完全にスルーして結論を出した。
「そんな雑な表現!?」
エスト様がツッコむ。
私は紅茶をもう一口すすってごまかした。
「まぁ、エスト様の魔力を通じて、
その魔王の力は私にも流れてるはず?
なので、他人とも言い切れないし?
言うなれば私のパパ、ってやつ?
まぁ何か残ってるなら、見て損はないわ」
「じゃあ……その『奈落の縫い目』に行くの?
…行きたい!……パパに、会いたい。」
エスト様の紅い瞳が、期待に輝いた。
「ええ。魔王の痕跡。ついでにお宝が転がってれば一石二鳥」
「やった〜☆ お姉ちゃん! 準備しておくね!」
笑顔でパタパタと走っていくエスト様を見送る。
あの子の素直さは、時に武器になる。
……いや、割と爆弾かもしれない。
「お宝かぁ。食べ物だと良いなぁ。餃子とか。あと餃子とか。」
カエデがのほほんと言う。
「……愚かな。奈落に眠るのは、
我らのような選ばれし者の真の力……!」
「『聖女様、奈落に真の力を予見する』……!」
「よし、じゃあツバキは最前線(タンク)ね」
私は決定事項として告げた。
「いや、ちょっと待って!?
私行かないからね!? 絶対行かないよ!?」
ツバキが急に玉座の柱に抱きつき、
完全に素のトーン(標準語)で叫び出した。
さっきまでの深淵キャラはどこへ行った。
「は? あんた今、選ばれし者がどうとか……」
「あんなのただのノリじゃん! 雰囲気作りじゃん!
『奈落の縫い目』とか名前からして絶対にヤバいモンスター出るやつでしょ!?
暗いしジメジメしてるし、絶対でっかい虫とか出るもん!
私はこのお城で安全にパン食べて暮らすの!!」
「おお……! 聖女様はあえて危険な奈落を避け、
この城(聖域)を守り抜くというのですね……!」
ローザが感動しながらメモを取る。
「ローザは黙ってて!
っていうかあんたも王国に帰っていいから!
私は何があっても絶対にこの柱から離れないからね!!」
「……へぇ。離れないんだ」
私はチャリン、と親指で刀の鍔を弾いた。
「はい! すぐに行きましょう!」
ツバキは爆速で柱から離れ、直立不動で良い返事をした。
「はい。ツバキがアイテム枠にINしました」
私はニヤリと笑った。
「アイテム扱い……」
ツバキはガクッと膝をついて床に崩れ落ちた。
「消費アイテム:うるさい偽聖女(レア度:呪い)」
「呪われてるの!? 捨てられないやつじゃん!!」
ツバキは床をバンバン叩いた。
そんな騒がしいなか、玉座の間の重厚な扉が開いた。
「──サクラ殿、ただいまバイトから戻りました!
急いで洗濯しますので、洗いたいものはこのカゴまで!!」
辰夫が慌ただしく登場した。
退職届を出して家出騒動を起こし、
居酒屋でビームを食らいながらも雨の中向かったバイトを終え、律儀に帰ってきたのだ。
一応伝えておくと、
彼は本来“リンドヴルム”という名の竜王だった。
今は接客業のバイトと、私たちの家事をこなしている。
誰がこうしたのか? 私だ。
その後ろから、辰美がカバンを抱えてスキップしてくる。
「サクラさーん! ダンジョンでしょ!?
冒険でしょ!? やったー!
私の爆炎で久しぶりに燃やし尽くしていい?」
「辰美はストレス溜まってる?」
「だって、サクラさんが行くダンジョンってさ……
なんか、ただのダンジョンじゃ終わらないって感じ、
するんだよねぇ」
辰美は、うっとりとした表情で嬉しそうに言った。
「……変なフラグ立てないでくれる?」
「我は遠慮しておきます。夜もバイトがありますゆえ」
そう言うと辰夫は深く一礼をし、
スッとその場を去ろうとした。
「うるせー!来い。選択肢は無い。」
「お断りします!辰夫ロケットするし!辰夫シールドするし!
だいたい、サクラ殿とエスト殿がノリノリの時は、
ろくなことが起きないんですよ!絶対トラブルが起きます!」
辰夫は意を決したように私を真っ直ぐに見た。
「……それに……
サクラ殿と食べるご飯は……味がしないんです……。
本当に、何も感じないんです……
バイトに行きたい! 行かせてください!
賄いが出るんです……美味しい……味がするんです!
みんな優しいんです!
……賄いは……温かいんです……(震え声)」
「……」「……」
見つめ合う私と辰夫。
(沈黙)
「……へぇ?そうなんだ」
震える辰夫を見つめ、私は静かに答えた。
「た、たまに味は感じますが、
全て“熱くて辛い”のです……!」
「お姉ちゃんをディスってて笑うw」
エスト様が楽しそうだ。
「……私が優しく言ってるうちに、準備して来いよ?」
私はチャリン、と親指で刀の鍔を弾いた。(本日2回目)
「はい! すぐに行きましょう!」
辰夫は震えながら、ツバキと全く同じ軍人のような良い返事をした。(デジャブ)
「はい。辰夫が装備枠にINしました」
私はニヤリと笑った。
「装備扱い……」
辰夫はガクッと膝をついた。
「装備品:竜王(レア度:N)」
「レア度がノーマル……」
辰夫はゆっくりと床に頭を擦り付けた。
「ツバキ……」
「辰夫さん……」
変わり果てた親友と竜王の姿に、
エスト様も辰美も哀れむように震えていた。
さて。
私は報告書をもう一度見つめ直す。
“奈落の縫い目”──魔王の痕跡。
もしそれが本物だったとしたら、
そこに待っているのは父親か、
あるいは──もっと厄介なもの。
まぁどうせロクなものは出てこない。
だから行く。
どっちでもいい。ぶっ叩いて帰るだけ。
「よーし、全員タクシーに乗ったわね?」
「タクシー扱い!?」
城の中庭で、私たちはドラゴンフォームになった辰夫(通称タク夫)と辰美(通称タク美)の背に乗った。
*乗用時は“タク夫・タク美”と呼ぶ文化がある(サクラ命名)
サクラ、エスト、辰美チームと、
カエデ、ツバキ、ローザ、辰夫チームだ。
「行きたくない!高いの怖い!」
ツバキが辰夫にしがみついて泣きながら叫ぶ。
「ていうかサクラ殿!!
我の背中だけ明らかに重量オーバーじゃないですか!?
とくにローザ殿の愛と聖典が重い!!」
辰夫が咆哮を上げた。
「辰夫さんひどい!!
乙女に向かって重いって言った!!
カエデ激おこだよ!?
略してカエデ激──あ!サクラ!お弁当は?」
カエデが相変わらず。
「竜王、乙女心読めず……」
ローザがペンを走らせる。
「楽しみだねー辰美ー?」
「ですねーわくわくしますねー」
楽しそうにお喋りするエスト様と辰美。
「お前らうるせー!ノリと勢いで突っ込むぞ!」
私は刀を天に掲げ、ムダ様の言葉を叫んだ。
「『正解にするまでが正解だ』ッ!! 行けぇぇぇ!!」
(家族……かな。これ。なんか嬉しいね。)
(つづく)
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──
『正解にするまでが正解だ』
解説:
間違いと呼ばれるものは、途中経過の別名に過ぎない。
やめた瞬間にそれは“失敗”になる。
やめなければ、それはずっと“正解の途中”だ。
だから進め。
正解は、止まった奴の前から消える。