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#主人公最強
しめさば
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辰夫(タク夫)と辰美(タク美)の背に乗り数時間。
私たちは目的地であるダンジョン『奈落の縫い目』に着いた。
感想? 不気味。寒い。
喉の奥がピリつく。
魔力を吸い込むだけで、肺の内側がざらつく感じ。
あと魔力が多すぎて髪が微妙に静電気で浮いてる。最悪。
目の前には、谷底に続く深い裂け目。
そこから、じわじわと瘴気のような魔力が吹き上がってきている。
「……縫い目って言葉……納得したわ……」
私は静電気で広がる髪を押さえながら呟いた。
「魔力の濃度が異常です。
……ここは、自然のダンジョンじゃない」
真剣な表情で辰夫が補足してくる。
「知ってる。肌がヒリヒリしてきた」
私が不快感に眉をひそめると、
膝の辺りから能天気な声がした。
「あのね〜、魔力がビリビリしてる!
なんかね、うどん食べてたのに、
気付いたらおそば食べてる感じ!」
エスト様が無邪気に例え話をする。
「……店長呼ぶレベル」
クレーム級の環境に私がボソッとツッコミを入れると、
背後で悲鳴が上がった。
「ええー!? 私は絶対行かないからね!?
帰る!! 帰ってパン食べる!!」
往生際悪く叫ぶツバキの横で、カエデがポツリと呟く。
「餃子は?」
「カエデの性格羨ましいわ……
はいはい、ツバキは私と一緒に後ろ歩こうねー」
エスト様の頭をぽふっと叩き、
泣き叫ぶツバキをカエデに任せ、
私は振り返って辰美に指示を出す。
「辰美!上空索敵。構造把握できる?」
「はいー!サクラさんに頼られたーやったー!」
*
辰美が探索から戻ると首を傾げていた。
「辰美どうだった?」
「うーん? “何か”に目を逸らされた感じがした……かな?」
「うん……つまり?」
私が首を傾げると、辰夫が代わりに説明する。
「結界……ですかね……?
“踏み入れてからでないと構造が確定しない”
タイプの不確定ダンジョンですね」
「一番めんどくさいタイプきた……」
「……お姉ちゃん? ……もう入る?」
「そうね。入ろうか。
待ってても何か変わるわけじゃないし?
“先代魔王の痕跡”とお宝探しますかー!」
「おお! 聖女様の新たなる試練の地……!
『奈落の不確定領域』、追記せねば!」
ローザが猛スピードでペンを走らせるのを横目に、
エスト様が両手を握りしめ、期待に目を輝かせる。
……でも…その声が、ほんの少しだけ震えていた。
「パパに、会えるかな?」
「……会えるといいわね」
心の中では、違う予感がしている。
先代魔王がいるかもしれない……
でも──もっと厄介なものが待っている気がする。
裂け目の奥から、ぬめるような風が這い出してきた。
腐った魔力の匂いが、髪の奥にまとわりつく。
私は、ふぅ、と息を吐く。
「辰夫、乗せて降ろして」
「……はい」
タク夫とタク美が全員を背に乗せたまま谷底へと降りていく。
「また高いよー!!」
ツバキが辰夫の背中にへばりつきながら叫ぶ。
「目閉じてれば?」
「閉じた! 閉じたけど余計怖い!!」
「ローザ殿、ツバキ殿が落ちそうです」
「聖女様の御体は私が守護する……!
『第◯章:奈落への降下と聖女の勇気』……追記せねば!」
「勇気!? 今ガタガタ震えてるんだけど!?」
そんな騒ぎをよそに、
辰夫と辰美はゆっくりと谷底へ降りていった。
着地した瞬間、空気が変わった。
重い。
地表とは比べものにならない魔力の密度。
息を吸うたびに、胸の奥が鈍く疼く。
「うわ……下の方がもっとヤバい」
「お姉ちゃん……ここ、変な匂いがする」
エスト様が私にピッタリとくっつく。
──魔王の記憶が眠る場所。
──封印が歪みを孕む場所。
──そして、世界の”底”。
面倒くさい匂いしかしない。
──でも、面倒くさいのは私の得意分野だ。
*
見回すと、岩壁に細長い裂け目があった。
人が一人通れるかどうか、というくらいの幅。
奥から、瘴気が滲み出るように漏れてきている。
「……あれが入口かしら」
「そうですね。……行きますか」
「当然」
「辰夫と辰美はここから人型だね」
「ふむ」
「うん」
「待って待って待って!
その細い隙間に入るの!?
入ったら出られなくなるやつじゃん!?
閉所恐怖症が発動するんですけど!?」
「ツバキ閉所恐怖症だったの……」
「高所も苦手だし閉所も苦手だし虫も苦手なのよ!!
なんでダンジョンに来てるの私!?」
私が呆れながら言い放つ。
「あんた巻き込まれ体質じゃん」
「返す言葉が無い!!」
「はい。聖女様はよく巻き込まれます」
ローザが真顔で頷いた。
「ローザ!?だいたいあんたのせいぃいいい!!」
ツバキの悲鳴が谷底の入り口に空しく響いた。
そして、真顔で呟いた。
「いや、それよりもさ……」
ツバキが、つばを飲み込む。
「ここ……笑えないやつじゃない?」
ふぅ。と、私はため息。
そして──
「……ムダ様は言ってたわよ。
『牛を見たら立ち止まれ。でも焼き肉の匂いがしたら全力で走れ』って」
「……どういう意味?」
「焼き肉の匂いがしたら行くってこと」
「……?」
ツバキが変顔をした。
頭の上にハテナが三個くらい見えたけど、知らん。行くか。
「焼き肉の匂いする?」
カエデが真剣な顔で鼻をクンクンさせた。
「しないわよ」
「じゃあなんで行くの」
「……」
*
「お姉ちゃん、手つなご〜!」
エスト様が手を差し出してくる。
「あ! 私も! 私もー!」
辰美も反対の手を握ってきた。
「ふふ」
……ああ、まったく。
いつの間に、こんなにも。
守るつもりなんて、なかったのに。
なのに、気づいたら……離せなくなって……
……いや、違うか。
……私が、もう離したくなくなってたんだ。
それが、こんなにも怖いことだとは──
「……我も、手をつなぎたいです……」
背後から辰夫の寂しそうな声と──
「やめて! 私に触らないでケダモノ!!」
カエデの理不尽な拒絶。
「辛辣ぅううう!!」
辰夫の叫び声が響いた。
……その声に、少しだけ緊張がほどけた。
(つづく)
◇◇◇
──今週のムダ様語録──
『牛を見たら立ち止まれ。でも焼き肉の匂いがしたら全力で走れ』
解説 :
牛を見るのは慎重さ。
焼き肉の匂いで走るのは本能。
なんの話だっけ?元気か?
……でも、立ち止まってたら焼き肉にはありつけない。