テラーノベル
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まだまだ終わらないのでご安心を
カナダの家には、まだ私が愛用していたグランドピアノが残っていた。
音楽にも励んでほしいという考えからアメリカとカナダに与えようと思い、アメリカには新しいものを、カナダには私の愛用していたものを買い与えたのだ。
GB(殆ど無理矢理音楽もやらせたようなものですがね…。)
結局アメリカもカナダもピアノは弾かなかった。
強いていうならば、アメリカはドラムを、カナダはアコースティックギターに勤しんだ。
ぼーっとピアノを眺める私に気を遣ってか、カナダが私に声をかける。
CA「グランドピアノは好きに弾いてよ。僕父さんの演奏好きだったし」
彼らが小さい頃、確か1度だけ彼らの前でピアノを弾いた。何を弾いたかまでは覚えていないけれど…。
だが、それっきり___その後の私にピアノを弾く時間も余裕もなかったのだ。
もう二度と弾くこともないとまで思っていた。
GB「ありがとうございます。」
GB「アメリカが来るまで暇ですし失礼しますね」
CA「いえいえ。僕も久しぶりに聞けて嬉しいよ」
カナダに背を向け、ピアノの屋根を開ける。突上棒を立てて、鍵盤台を開ける。
ピアノは驚くほどきれいで、埃一つなかった。
きっとカナダが定期的に掃除していたのだろう。
GB「…別に私の自己満だったのに」
過去に思いを馳せてしまえば、それしか考えられなくなると分かっているから。
今だけは、鍵盤に、音に集中しよう。
気付けば右手と左手が勝手に動いていた。
私が一番最初にお父様に教わった曲。
「主よ人の望よ喜びよ」
結婚式やクリスマスでもメジャーな曲。
昔からずっと聞いて生きてきた。
約4分の曲。
弾き終えて、次に弾くのは
「ハンマークラヴィーア」
ベートヴェンのピアノソナタ29番。
不安になる音と11分ほどの演奏は、私の心に寄り添ってくれる気がする。
弾き終えて、少しだけ息を吐く。流石に疲れた。
あまり成長しなかった私の体。手も小さいから、伴う疲労も大きい。
GB「……はぁっ」
ゆっくり深呼吸をしたその時。
US「やっぱ親父、ピアノうまいな!」
GB「ビクッ」
大きく、高らかな声が後ろで鳴り響いた。
よく響くその声は電話越しよりも透き通っている。
GB「あ、アメリカ…、」
US「久しぶりだな、親父!」
サングラスをくいっと上げて、青い目を見せるアメリカ。
昔の姿からは考えられないほど明るくなった彼。
やはり私は必要ないと実感する。
それでも私は笑うし嘘を吐く。
GB「久しぶりですね。元気にしてますか?」
US「嗚呼!元気だぜ」
GB「よかったです。」
…こんな奴と話していてアメリカは楽しいのだろうか。
US「……親父は?」
無理矢理話題を変えたい、というか変えなきゃいけないと感じた。
GB「それよりアメリカ、今日は___」
…が、アメリカもそこで引くような国ではない。
US「親父はって」
GB「……、え」
見上げたアメリカの顔は、悲哀に満ちていた。
今すぐ決壊して泣いてしまいそうな、憤慨を募らせているような、そんな顔。
US「電話の時もなんか変だったしさ、……第一ここまで来るのにフランスもいないんだろ?」
US「おかしくないか?」
なんとか誤魔化す嘘を足りない頭で考える。
GB「…出張のついでです」
US「親父がこっちに来るなら事前に連絡、毎回くれるよな?」
地頭がいいやつらはどうせすぐ反論を思いつく。
わかってるけど、反論しなくては
私の全てが暴かれてしまう前に
GB「それは…」
US「カナダの誕生日祝いにしても、それならフランスがついてくるよな?」
GB「………」
US「よく見れば目の下に隈もあるし___」
アメリカは私の顔にぐいっと顔を近づけ、右手で頬に触れてくる。
何も分からないのに、どうせ何も分からないのに私に優しくする意味が、恨んでいるはずなのに思わせぶりかのように優しくする彼が許せない。
なんとか感情を抑えろ
抑えろ、抑えろ……
GB「……、るさいッ」
US「え」
GB「…うるさいッ!!」
叫んでしまってからはもう、理性なんて飛んで行ってしまった。
US「お、親父…?」
GB「どうせ何も分からないんです、黙ってください!!恨んでるのに、憎んでるのに…‼なんで、なんでッ…‼」
US「大丈夫だから、落ち着いてくれ親父___」
GB「貴方方に酷いことをして、ろくに親として何かしたわけでもない‼なのに、なんで貴方方は私に此処まで優しくするんです⁉馬鹿じゃないですか!(笑)こんな私に優しくして何かが返ってくるとでも?」
CA「父さん…?僕らは恨んでなんて___」
GB「もういいですよ!!貴方達なら私を捨てるって期待した私が馬鹿でしたね」
怒りが爆発して、アメリカに買っておいたプレゼントを乱雑において家を飛び出す。
静止の声も、カナダの驚いたような顔も。何も聞こえないし見えない。
…何も聞こえないし見えないから
アメリカにもカナダにも一応プレゼントは置いてきた。
目的は達成できた。
頭の中でそんな言い訳をして、罪悪感を紛らわそうとする。
GB「私…ッ、駄目だなぁッ…ポロポロ」
しばらく歩いて、どこか、人通りの少ない道で蹲る。
旅行鞄を投げ出した。
曇り空から急に降り始めた豪雨が体を刺す。
心身へ積もり続ける疲労が、雨でさらに強くなる。
豪雨だからか人は少ない。
もう全部、どうでもいい。
今すぐに、消えてしまいたい。
我が子達に八つ当たりしてしまった上に酷い言葉をかけて。
彼らはただ優しく私に接してくれていただけなのに。
その優しさを受け止めきれず自己破産したのは私なのに。
GB「どうして…ッいつもこうなのッ…ポロポロ」
雨が紳士服を濡らしていく。
ブレザーが水を吸って重くなる。
シャツが透けて肌に張り付く。
涙と混じって顔が濡れる。
だんだん体温が下がってきた。
息が浅くなる。
不思議と笑みがこぼれた。
こんな風に、静かに、誰にも見られずいなくなれるならそれが本望だ。
GB「さよ、…ならッ………二人とも、フランス……、」
雨の音とともに、意識が溶けていった。
かきごおり。
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コメント
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ピアノのシーン、すごく静かで美しかったです。大好きな曲を弾くときだけは過去を忘れられる、でも弾き終わればまた現実が襲ってくる…その切なさがひしひしと伝わってきました。アメリカに「うるさい」って叫んだ瞬間、ずっと抑えてた本音が溢れたんだなって。雨の中で消えたいと思うほど追い詰められたイギリスが痛々しくて、ただただ心配です。二人の息子たちの優しさが、かえって彼を苦しめてるのが胸に刺さりました。