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「響先輩って……キャラ強烈だよね」



 前方を眺めながらボソッと呟いた志帆ちゃんに、ハハハと渇いた笑い声を漏らす。

 志帆ちゃんの視線を辿るようにして前方を見てみると、楽しそうにお兄ちゃんと会話をしているひぃくんがいる。どうやら、そのご機嫌はもうすっかりと元に戻ったようだ。



「昔からあんなだよ、響さんて」


「へぇ〜、そうなんだぁ……。イケメンなのにねぇ」


「うん。残念なのよ、あの人」


「勿体ないね。あんなにイケメンなのに」



 私がすぐ横にいるというのに、彩奈と志帆ちゃんはひぃくんを眺めてそんな事を言っている。



(あの……その残念な人の彼女ですよ、私。見えてます?)



 私そっちのけで話し続ける二人にそんな事を思いながらも、あながち間違いとも言い切れない意見に何も反論することがきない。



「でも、凄く花音ちゃんの事が大好きで大切にしてるよね。俺は優しくてカッコイイと思うな、榎本先輩」


「斗真くん……っ。ありがとう」



(なんて優しいんだろ……。私の味方は斗真くんだけだよ)



 ニッコリと微笑む斗真くんを見て、ひっそりとそんな事を思う。



「私はかける先輩派かなぁ〜。……ごめんね、花音ちゃん」



 エヘッと笑った志帆ちゃんに、何故か謝られた私。



「彩奈ちゃんは? 響先輩派? 翔先輩派?」


「えっ!? ……っ」



 志帆ちゃんにそう問われて、チラリと私に向けて視線を送った彩奈。



(…………?)



「私は別に……っ」



 そう答えると、私から視線を逸らした彩奈。その顔は、何だかいつもより少し赤い気がする。



(……どうしたんだろう?)



「彩奈……?」


「っ……もうすぐカウントダウンだね」


「え? ……あ、うん」



 彩奈に言われて敷地内に設置されたモニターへと視線を移してみると、いつの間にかもう年明けまで残り五分になっている。



(もうすぐ今年も終わりかぁ……。あっという間だったなぁ)



 そう思うと、今年あった出来事が色々と蘇ってくる。相変わらずひぃくんに振り回された一年だったけど、凄く充実した良い一年だった。

 そしてなんといっても、念願だった彼氏ができた事は、私にとって今年一番のビックニュースだ。



(その相手がまさかひぃくんだとはね……。一年前の私には、全く予想もできなかった事だよね)



 そんな事を一人考えながら、クスリと小さく声を漏らす。



「かの〜んっ! もうすぐカウントダウンだよー!」



 その呼び声に反応して視線を向けてみると、ニッコリと微笑みながらヒラヒラと手招きをしているひぃくんがいる。



「うんっ!」



 私は元気よく返事を返すと、ひぃくんの側まで駆け寄りニッコリと微笑んだ。



「ひぃくんっ。今年も一年、ありがとうございました」


「こちらこそー。来年もよろしくね? 花音」



 フニャッと小首を傾げて微笑むひぃくん。



「うんっ」



 私は笑顔でそう答えると、隣にいるひぃくんの手をキュッと握った。







◆◆◆







「長かったねぇ……」


「私なんて、寒さで足の感覚がないよ〜」


「どこかお店に入って暖まりたいね」



 無事に初詣でを済ませた私達は、寒い寒いと言いながら出口へと向かって歩き始める。

 モニターを見てみると、もう年明けから二時間も経過している。



(本当に長かったなぁ……)



 未だ混雑している境内を横目に、隣りにいるひぃくんに向けてチラリと視線を移してみる。

 なにやら、随分と必死に参拝していたひぃくん。



「ねぇ、ひぃくん。どんなお願い事してたの?」



 先程、中々終わらないひぃくんに痺れを切らしたお兄ちゃんが、「まだ足りないよー!」と騒ぎ出すひぃくんを無理矢理引きづり下ろしていた。

 そんな光景を思い返して、何だか可笑しくてクスリと笑い声を漏らす。



「早く花音とエッチができますようにって!」




 ────!!?




(聞くんじゃなかった……っ)



 大声でそう言い放ったひぃくんに、一瞬で後悔した私。

 フニャッと小首を傾げて微笑んでいるひぃくんを見上げながら、私は盛大に顔面を引きつらせた。



(あなたには……っ、恥じらいという感情はないんですか……?)



「残念だったな、響。願い事は他人ひとに言ったら叶わないって知ってるか? お前は一生DTだ」



 前方を歩いていたお兄ちゃんが、後ろを振り返って勝ち誇った様な顔を見せると、ひぃくんを見てフッと鼻で笑った。



「そんな事ないよー!」



 ブーブーと文句を言いながら、お兄ちゃんの方へと近付いてゆくひぃくん。



「いいや、お前は一生DTだよ。大体、俺が許すと思ってるのか? 許すわけないだろ」


「……かっ、翔……っま、まさか……っ!!! ……翔は花音のお兄ちゃんなんだよ!? ダメだよ、花音が可愛いからって妹とエッチなんて……っ!!!」



 お兄ちゃんの肩を掴みながら、瞳を全開に見開いて真っ青になったひぃくん。



「……はッ!!? 何でそうなるんだよっ!!」


「ダメダメダメーッ!!! 絶対にダメーッ!!! 花音は俺のお嫁さんだよーッ!!!」



 前方でワーワーと騒ぎ始めたひぃくんを眺めながら、顔面を引きつらせて固まってしまった私。



(なんなのよ……、その気持ち悪い発想は……っ。そんな事あるわけないじゃん。変な冗談はやめてよ、ひぃくん)



 真っ青な顔をして、お兄ちゃんの肩を揺らし続けているひぃくん。

 その顔はとても真剣な顔をしていて、本気で言っているところがひぃくんの恐ろしいところだ。



「随分と気持ちの悪い事を言うのね、あんたの旦那」



 いつの間に来たのか、すぐ横にいる彩奈はそう言ってドン引いた顔で私を見つめる。



(やめてよ、彩奈。私をそんな目で見ないで……っ。変な事を言ったのは私じゃなくてひぃくんなんだから……)



「離せっ! ……っ、とにかく! お前は一生DTだ! 煩悩と共に滅びろっ!」


「大丈夫だよ、翔。俺は子煩悩だから安心して?」



 そういえば、さっきも子煩悩だとか言っていたひぃくん。その意味はサッパリ分からない。



「お前みたいな意味のわかんない奴、安心できるわけないだろ!?」


「我儘だなー、翔は。大丈夫だよ、直ぐにDT卒業しちゃうからっ」



 ひぃくんの言葉に、一瞬顔を引きつらせたお兄ちゃん。

 それでも、ムキになるだけ無駄だと悟ったのか、一度小さく息を吐くと再びゆっくりと口を開いた。



「……はっ? DT卒業なんて俺がさせると思ってるのか? 一生させるかよ」



 ひぃくんを見て、フンッと鼻で笑ってみせるお兄ちゃん。

 それにしても……。DT・DTと、さっきからうるさい二人。



(一体なんなのよ、DTって……)



「それは翔には決められないよ?」




 ────!?




 突然、私の方へと視線を移したひぃくんに驚き、ビクリと身を固めた私は前方に立つひぃくんを静かに見つめた。



(なっ……、何ですか……? 嫌な予感がするのは、私の気のせいであって欲しい)



「花音っ! もうすぐDT卒業だよねー?」


「へっ!? ……あ、あの……DTって……、何?」



 質問の意味が分からず、思わずその場で狼狽える。そんな私を見て、ニッコリと微笑んだひぃくん。



「花音。子供って可愛いよねっ?」


「へっ……? 」



 突然その質問内容を変更されて、益々意味の分からない私は素っ頓狂な声を上げた。



「子供好きでしょ?」


「えっ? ……あ。う、うん」



 その返事に満足したのか、嬉しそうな顔でフニャッと笑ったひぃくんは、その視線を再びお兄ちゃんの方へと戻した。



「ほら、『うん』って言った。もうすぐDT卒業だねっ。楽しみだな〜」


「……無理矢理言わせただけだろ」



 そう言って呆れた様な顔を見せるお兄ちゃん。



「……ねぇ、彩奈。DTって何?」


「…………。……ドーテー」



 チラリと私を横目にした彩奈は、そう告げると小さく溜息を吐く。



(へ〜……、ドーテーかぁ……。ドーテー……、ドー…………って、あの童貞!!? ……えっ!? って事は、今の会話の意味って……)



 恐る恐るひぃくんの方へと視線を向けてみると、その視線に気付いたひぃくんがバチッと瞳を合わせた。



「楽しみだねー? 花音っ」



 そう言ってフニャッと小首を傾げるひぃくん。



(な……、何て事だ……。まだそんな覚悟なんてないのに……っ)



 どうやら私は、「うん」と返事をしてしまった? らしい。



(どうしよう……っ。私、本当にひぃくんと約束しちゃったの……?)



 目の前に見えるのは、ニコニコと嬉しそうな顔をしているひぃくん。そんな姿を見て、顔面蒼白で愕然とする私。

 今にも泣き出してしまいそうな程に情けない表情を浮かべると、顔面蒼白のままアハハと渇いた笑い声を漏らす。



(お願いだから、もっとわかり易く話して下さい……)



 前方で幸せそうに微笑んでいるひぃくんを見つめながら、私はただ呆然とその場に立ち尽くした。





ぱぴLove〜私の幼なじみはちょっと変〜

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