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溜まっていた作業が終わった。 ぐーーっ、と、固まった身体を伸ばす。長時間同じ姿勢で座って作業をしていた為、伸びた瞬間に歪な音が身体から聞こえる。
「あーーっ、疲れたぁ」
集中が一気に解けたからか、急にぐぅっ、とお腹が鳴り出した。お腹が空いた、と音で自覚してしまえば、それはどんどん加速していくばかり。
「なんか食うかー」
椅子から立ち上がり、冷蔵庫の前まで歩く。そこから簡単に食べれるものを取り出し、我慢出来なくてその場で一口頬張る。流石に立ち食いは良くないな、とソファへ向かうと、玄関からなにか音がした。ドアをこじ開けようとする、鍵の音。そして、聞いたことのある声。
「なんで開かないのぉ?!おいっ、このっ」
「ちょちょ、奏斗待て!壊れる!」
ガチャガチャと無理やり開けようとするその音に、不安になってすぐ鍵を開けた。
「あれぇ?雲雀?」
「どしたん?こんな時間に…..って、お前酒臭っ」
「ん〜?臭い?俺がぁ?」
「そうそうお前!どんだけ飲んだんだよ」
「ん〜?いーっぱい!」
そう言って、楽しそうに笑う。こんな時間まで、誰と飲んでたんだと少し気になってしまう。俺が作業を終えた時、ちらっとみた時刻が深夜一時。何次会までしてたんだろうか。
「ちょっと酔ってるか?」
「んふふ、雲雀ぃ〜、ゲームしよ〜」
「ゲームぅ?」
「そ!雲雀いるからぁ、ゲームする〜!」
珍しく酔っている奏斗に、というか、俺の家に来た事に驚きつつ、ゲームゲームと連呼する声に、仕方なく出来そうなゲームを持ってくる。
「あ!これやるこれぇ!」
マリオのパーティーゲームを指差し、パッケージを手に取る。
「はいはい、カセット入れるからそれ貸して!」
「え〜?…..ふふ、ほれほれぇ〜」
それを頭上に掲げ、ヒラヒラと弄ぶように揺らす。取ろうと手を伸ばせば、仰け反ってまで意地悪をする奏斗。ゲームをやりたいんじゃないのか、と疑問に思うが、本人がとても笑顔で楽しそうで、まぁいっか、と考えるのをやめる。
ぐいっ、と勢いよく手を伸ばしてゲームを掴めば、仰け反っていた奏斗がそのまま後ろへ倒れかけ、焦って奏斗の背中を支えた。が、すでに傾いていた身体を、反対側に戻すのはさすがに無理で、「おわーっ!」と、一緒にそのまま床へ倒れた。
「どっかぶってへん?!」
「へーきへーき〜〜」
「びっくりしたぁ」
そう言って、交わる視線。先程までキャッキャしていた奏斗が、急に大人しくなる。身体が横になったから眠くなったのだろうか。
酔いで、ほんのりと赤い頬。肌が白いから、綺麗に目立つ。瞳は相変わらず眩しいほど輝いており、吸い込まれそうだ。目が離せなくて、そのまま静かに見つめ合う。
先に動き出したのは、奏斗だった。
奏斗の顔が急に近付いてきて、俺の唇を奪う。ちゅっ、と触れた、その熱い感覚に思考が止まる。その隙を見て奏斗は、再び唇を重ねてきた。今度は、長い。長い、キス。
先程まで横になっていたはずなのに、奏斗に押されていつの間にか身体が起き上がっている。ぐいぐい来る奏斗に押され負けないよう、床に手をついて身体を支えた。
「んっ、…かあ、と、…..」
「はっ、…..ん…..っ…..」
「…..んぅ、…..や、…..らめ…」
「んん、…..んっ…..」
これ以上は、ダメ。そんな事は分かっていて。でも少し、…..嬉しくて。揺らぐ思考になんとか打ち勝ち、止まらなくなる前に奏斗を引き剥がす。
「ひばぁ…..も、ちょい…..」
奏斗が、とろんとした顔でそう言う。そんな顔されても、ダメなものはダメだ。俺達は付き合っていないし、俺は気持ちを伝えてもいない。そんな状況で、これ以上するのはダメだ。
少し前、酔った勢いでめちゃくちゃにキスした俺が言える事でも無いけれど。
「ね、…..ひばぁ…..?」
「…ごめん、これ以上は…..。」
「…….なんで?」
「なんで、って…..。」
奏斗の声色が、明らかに変わる。先程まで、ほんわかとした喋り方だったのに。
「…..お前、…..あんなにキスしてきたくせに。…..酔ってさぁ、その勢いで俺に、…….キスしてきたくせに…..。」
「…….かなと、?」
俯いてしまった奏斗の顔を、覗き込むように首を傾げる。瞳がいつもより、キラキラしているように見えた。でもそれは、目が潤んでいると言う事で。
「あん時さぁ、…….どんな気持ちで酔っ払ったお前を相手したか、分かってんの…..?酔ったらキス魔にでもなるの…..?誰にでも、キス…….するの、…?」
奏斗の声が、どんどん震えていった。喋る度、気持ちが溢れて止まらなくなるのだろう。そんな奏斗の言葉を俺は、黙って聞くことしか出来なかった。なんて返せばいいのか、すぐに出てこなかった。
「ねぇ、…..俺はどうしたらいいのかなぁ…..?雲雀の気持ち、…ちゃんと教えてよ。…..お前は覚えてなかったけどね、…….ひば、俺に『すき』って、…..言ったの。その後、すぐ寝ちゃったから…….覚えてなかったのかもしれないけど。」
「えっ」
「でも、…….分かんなくて。覚えてなかったし。…….キス、拒まれて。…..ひばにキスされて、…….期待しちゃったのに。」
「待って、…..俺、もう好きって言ったん…..?」
「…….うん。でも、…..俺も本当に言ってたか、自信無くなった。」
「いや、…..それ…….。」
「だから雲雀、…….っ、」
喋りながら、ぽろぽろと落ちる涙でズボンが濡れていく。奏斗がこんなに泣くのを目の当たりにする機会は少なく、焦りが消えない。しかし、そんなのを言い訳に泣かせ続けるのは嫌で、奏斗の目元を優しく拭う。
「うぅ…….」
「奏斗、…..今から気持ち話す。だから、聞いてくれる…?」
こくり、と小さく頭を揺らし、鼻をズズっと啜る。それを確認し、奏斗の前に正座した。
「俺、酔っ払ってる時に誰かにキスした事なんて一回も無い。奏斗にだけ。それにな、酔った勢い、っていうより、酔って気持ちが溢れたんやと思う。だから、まず、混乱させてごめん!!!」
床に頭をつけて、謝罪する。あの日、俺が酔っていなければ。キスをしなければ。奏斗を泣かせることは無かったのに。悲しい思いをさせてしまった。あの日、奏斗は明るく『飲みすぎ注意』と、それだけで済ませてくれたけど。たくさん悩ませてしまった。
しばらく床に頭をつけ、また言葉を伝えるために顔を上げる。
「俺は、………奏斗が好き、です。もちろん、付き合いたいの好き。俺は、好きな奴にしかキスしたいと思わないし、それは奏斗だけ!です!」
「…..ほんとに?」
「ほんと!…..だから、えと、…….俺と、…….付き合って、ください、?」
「…..俺も、雲雀好き。」
「…ほんとに?」
「ほんとだっつーの!じゃなきゃ、…..こんなに泣いたりなんか…..」
奏斗が、また俯いてしまう。目元を擦る手を掴み、俺の背中へ回してやる。奏斗の背中に手を回し、ギュッ、と力を入れると、肩に暖かいものが乗る。それは、ぐりぐりと地味に攻撃をしてくる。
「ありがと、奏斗…..」
「…..ん」
お互いの体温が、混ざりあって一緒になる。暖かくて、とても心地よい。愛しい。
なかなか涙が止まらない奏斗は、ずっと鼻を啜りながら、俺の肩を濡らしている。酒が入っているから、余計に涙が溢れるんだろう。
ふわふわとした髪を、落ち着くまで優しく撫で続けると、急に我に返ったのか、「も、…いい」と、恥ずかしそうに離れた。赤くなっている目元をじっ、と見つめると、奏斗は両手で顔を隠した。
「お前、…..見すぎ」
「…..奏斗、酔い醒めた?」
「……………。」
「奏斗、顔見せて」
「…..やだ」
奏斗の腕を掴み、無理やり手を剥がせば、耳まで赤くなった顔が恥ずかしそうにそっぽを向いた。また隠されないように腕は掴んだまま、奏斗の頬にキスをする。
「ちょっ、ひば、っんぅ…..」
こちらを向いた瞬間に、唇にもキスを落とす。酔いが醒めて、先程のような積極性は消えたが、恥ずかしそうに顔を赤くする奏斗が可愛くてたまらない。
「好き、…..奏斗好き」
「………そ、」
「奏斗は?」
「…….すき、だけど」
「ふはっ、顔真っ赤!」
「うっ、うるせぇ!もう寝る!」
「えぇ?!」
そう言って、ソファに横になるのを見届ければ、案外すぐに瞼が落ちていった。
ソファの下に座り、頬杖をついてその姿を眺める。俺は眠れそうにないのにな、と思ったのも束の間、奏斗の寝息を聞いていると、すっかり自分も瞼が重くなって。いつの間にか、そのまま眠りについていた。
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