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萩原なちち
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「しょうがないなぁ、いっちゃんのも買っとくからね? みんなで写真撮ろうよ」
「なんで俺までバカップル二組に混ざってお揃いなんすか。おかしいでしょ!」
「じゃあ、ミレイちゃんのも買えばいいじゃん。ミレイちゃんノリいいし、絶対履いてくれるって」
「ばっか、しゅうとに背負い投げされるわ……。すみません、急に騒がしくしちゃって」
不意に目を合わせ、ぺこりと頭を下げられた。
……なぁんだ。やっぱり彼女、いるんだ。
「ミレイちゃん」なんて可愛い名前を出す彼は、やっぱり、どこからどう見ても『あっち側』の人なんだ。
「いえ……また来てくださって、とても……ありがたいです」
「嬉しい」という言葉を、喉の奥で必死に飲み込んだ。
お客様に恋をするなんて、端から間違っている。この人は僕じゃなく、商品を気に入って再訪してくれただけなんだ。そんな下劣な目で見ちゃいけない。
「はい! いっぱい買っていくんで、いっぱいオススメしてください!」
「ふふ、ありがとうございます」
あぁ……やっぱり、好きだ。
その顔で、そんなふうに無邪気に笑うのは、本当に反則だと思う。
「いっちゃん、これもオマケで買っておいて?」
「バカ、りゅうせい。自分で払えよ」
「だって、いつき君もだいき君も買ってくれたよ?」
カウンターに下着を置いた男性に目をやる。……なんなんだ、こっちの人も相当なイケメンじゃん。
「……こいつ、顔面だけはいいでしょ? でも中身は赤ちゃんで、ダメダメなんです」
「誰が赤ちゃんだよ。でも可愛いよね? お兄さんも、こういうバブちゃん系、好きでしょ?」
うわ、笑うとさらに綺麗だ。こんなの、目が合っただけで全員恋に落ちてしまう。
「りゅうせい、お店の人をナンパしないの」
「別に、俺がいつき君を頂いちゃうから、問題はないと思うけど?」
「やだぁ、だいき君にはあげないからねぇ」
「これ、お願いします」と真顔でお会計に来たこのお兄さん。
見た目は一番優しそうなのに、すごい圧で僕を見てくる。……え、僕、何かライバル視されてる?
「……お兄さん、ちょっとしゅうとに似てる気がする」
「あ、俺も思ってた」
「だいき君、手出しちゃダメっすよ」
「バカ。タイプじゃねぇよ。俺には天使ちゃんがいるから、絶対浮気はしないの!」
「あ、ごめんなさいね。この人、人を傷つけるために生まれてきたような男だから」
「……あはは。なんか、急に振られちゃってびっくりしました」
「そもそも、こんな可愛いお兄さんがだいき君の相手なんてするわけないじゃん。ね?」
いっちゃんと呼ばれたお兄さんが、僕を置いてけぼりにしないよう、優しくフォローしてくれる。
……やっぱり、僕、この人が好きだ。
彼女がいたって、フラれたって、もうどうでもいいや。この笑顔を近くで見られるだけで、今は。
こうやって、僕のことを一人の人間として認識してくれる。
それだけで、今はもう胸がいっぱいだ。
それにしても、お兄さんが選んだのはシンプルな黒ばかりだったな。
イメージにはぴったりだけど、少し遊び心があるものも絶対に似合う。
そうだな……黒をベースに、ワントーン落とした黒で大きくイラストを入れて。よく見たらクマさんでした、なんてデザインも可愛いかもしれない。
「……お兄さん? 大丈夫ですか?」
「あ! はい! すみません!」
「今日は騒いじゃってすみませんでした。また来ますね」
「はい。お待ちして……」
――あ。
今、最悪なことに気づいてしまった。
下着なんて、一度買えばそう頻繁に買い替えるものじゃない。ましてやうちは、質の良さが売りの専門店。一ヶ月やそこらでへたったりはしない。
今日これだけ友達を連れてきて、みんながまとめ買いをしたということは……しばらく贈り物の必要もなくなってしまう。
人付き合いが苦手な僕が、あえて常連ができないようにと作ったこの店が、まさか恋の足枷になるなんて。
「……ます」
さようなら、かっこいいお兄さん。
僕はこれからも、あなたの面影を追いかけながら、その日限りのお客さんに心を込めて接客すると誓うよ。
「……また、来てもいいですか?」
「もちろんです! お待ちしてます!」
「……今度は客としてじゃなくて、『人と人』としてお会いしたいんですが。そういうの、無理ですか?」
「……え、」
マジで? 急になんで? え、ナンパ……!?
「興味あるなって。お兄さんのこと。……今度、美味しいもの持って遊びに来ますね」
「……はい」
なんなの、これ!? 一発逆転、満塁サヨナラホームランじゃん!
でも……彼女、いるんでしょ!? めちゃくちゃ真面目そうに見えて、実は遊んでる人なの!?
……もういいよ! 全然、僕で遊んでくれていいよ! 修羅場でもなんでも受け入れてやるよ!
「じゃ」
小さく手を振って、お兄さんが仲間たちの後を追いかけていく。
奇跡だ。小さな恋の奇跡だ……!僕、今ここで、変な小躍りしちゃうかも知れない!
あんな爽やかな笑顔をして、浮気しちゃうんだ! 逆に興奮してきたんだけど!
いい。僕は全然いい。今までだって身体だけの関係なんていくらでもあったし、端から恋が叶うのが当たり前だなんて思える立場じゃないんだから。
……というか。
僕はこれから先もずっと、そんな感じで生きていくのかな。家族も持たず、独りで。
……あぁ、ダメだ。急に悲しくなってきた。
「こんにちは。早速、来ちゃいました」
「あ……! お疲れ様です! 休憩中ですか?」
「いえ、営業帰りで。お得意様にこれ、もらっちゃったんで。お裾分けです」