テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
萩原なちち
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
また会えても一ヶ月先だろうな……なんて思っていた矢先の再会。
まさか本当に、翌日に来てくれるなんて。そんなの、もう「恋」以外の何物でもないだろ。
「あ! それ、駅前にできたばかりの大福屋さんの!」
「俺、甘いもの苦手で。よかったら食べませんか?」
「本当ですか!? めっちゃ嬉しいです!」
「昨日、騒がしくしちゃったお詫びです」
差し出された箱を受け取ると、指先が触れそうになって心臓が跳ねる。
「……いつもは一人なので、すごく楽しかったです。また是非みなさんで来てください。あ、しゅうとさんという方にもお会いしたいです。僕に似ているって仰ってた……」
「そうなんですよ。背の高さとか雰囲気もあるんですけど、すごく、こう……小動物みたいな可愛らしさの中に『芯』がある感じというか」
「……芯、ですか?」
自分が好きなことしかしていない僕の、どこに芯なんてあるんだろう。
恋愛だってふわふわしてるし、今だってお兄さんに「遊ばれたい」なんて思っている最中なのに。
「そういうの、今度ゆっくり話したいです。よかったら、飲みに行きませんか?」
「是非! じゃあ、連絡先……」
「もちろん」
差し出された彼のスマホ。……あ、ケースの裏になんか挟んである。
もしあれが彼女との写真だったらどうしよう。
「ワンチャン狙い」なんてうそぶきながら、実際はそんなの嫌だって思ってる。ダメだ、本気で恋をしたら傷つくのは自分なんだから。
「じゃあ、会社戻りますね。また連絡します」
「……はい」
お互いに小さく手を振って別れる。
あぁ……もう、今まで見てきた人類の中でダントツでかっこいい。
友達の間でも愛されて、きっと仕事もできて、お得意様に大福をもらっちゃうくらい人徳もあって……性格まで最高じゃん! 非の打ち所がないじゃん!
――それから、夜な夜なメッセージを交わすようになって。
言葉を重ねるたびに、ある「残酷な予感」が確信に変わっていった。
お兄さんが僕に興味を持ったのは、恋愛対象としてじゃない。
きっと、この店のオーナーだから。デザイナーだから。……ビジネス的な興味なんだ。
飲みに行く前に失恋しちゃってるんだけど。これ、行く必要ある……?
「俺ね、人の『好きな人』を見抜くの、得意なんです」
バーのカウンター。
並んで座った彼が、グラスを傾けながらさらりと言った。
「え……?」
「ちょっとした目線とか言動とかで、すぐに分かっちゃう」
うわぁ、これって……僕がなつきさんに好意を持ってたことも見抜かれてる!?
「……ゆうたさん、お酒はあんまり強くないんですか?」
「ん、強いんですけど……カシスオレンジがすごく好きで。今日はあまり食べてないから、甘いものから始めようかなって」
結局、誘いを断れずに今に至る。
失恋確定の飲み会。なのに、隣に座っているだけで、カシスオレンジよりも甘い香りに酔わされそうになっている自分が……本当に、情けない。
でも人生は一度きり。
どう転ぼうと、好きな人と時間は共有したい。
「……可愛いですね。女の子みたいだ」
「……女の子、ですか」
「前から思ってたんすけど、ゆうたさんって『かわいい』って言われても、絶対に無反応ですよね? それって、挨拶されてるのと同じくらいの感覚なんすか?」
「……その人の、口癖なのかなって思ってます」
あ、少し意地悪な言い方になっちゃったかな。
でも、改めて聞かれると自分でもよく分からない。昔から言われ慣れているから、真に受けて傷つくのを防いでいるのかもしれない。
「それ、俺も分かる気がします。俺も容姿を褒められる事あるんすけど、『あー、誰にでも言ってるんだろうな』ってスルーしちゃう」
「ふふっ。本当はすごく、ありがたいことなんですけどね」
「確かに。思ってもない相手には、口が裂けてもそんなこと言えない」
「それは……本当に、そうですね」
ニヤリと、少し悪い笑い方をして、いつきさんがシャンディガフをグイッと喉に流し込む。
……うわぁ。スラリとした首筋がセクシーで、めちゃくちゃエロい。
「……ゆうたさんって、分かりやすいっすよね。俺、ゆうたさんの『タイプ』、分かっちゃったかも」
「……タイプ、ですか?」
え、どうする? これ。
この流れでバレて、勢いで告白しても振られるだけだよね? だっていつきさんにはミレイちゃんがいるんだもん。
その後の気まずさを考えたら、絶対に誤魔化したほうがいい……!
「りゅうせい。……あいつ、めっちゃタイプでしょ?」
「えっ? あ……綺麗だなって、思いましたけど」
えー!! めっちゃ鈍いじゃん! 外れもいいとこじゃん!!
でも、その勘違いに乗っかっておいたほうが、今は楽なのかな……。
「……もしかして、ゆうたさんの恋人も美人タイプっすか?」
「えっと……恋人は、長いことずっといません。仕事に夢中で、気づいたらもう24になっちゃってて。でも、前の人は……多分、そう、だったかもです」
「……そうなんだ。こんなに可愛いから、恋人がいないはずないって思っちゃった。なんかすみません」
あ。今、サラッと「かわいい」って言ってくれた。
さっきの会話を踏まえた上での「かわいい」は、お世辞じゃなくて本音に聞こえて……最高に嬉しい。
「いえ……あ、いつきさんの彼女さんは、『かわいい』って言うと、ちゃんと喜んでくれますか?」
「……ん?」
やばい。変な間が怖すぎて、聞きたくない質問をしちゃった!
どうしよう、返事に困ってるじゃん! 取り返しがつかないよ……!
「んー。俺もしばらく、彼女なんていないっすからね。忘れちゃった」
「えっ!? そんなはずないでしょ!?」
「なんで。本当に、いないっすよ?」
「だって!! そんなにかっこいいのに!!」
「ふふっ」
思わず興奮して大きな声を出してしまった僕を見て、いつきさんが吹き出した。
……嘘、彼女、いないの?
じゃあ、あの時のミレイちゃんって誰だったの……!?