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あああ、ここでしばらくお休みなのですね。 ううう。 お待ちしております!
それだけで、汽車が北へ向かっているのだと否応なく知らされて、リリアンナの胸は慣れ親しんだヴァン・エルダール城の皆に会える喜びで高鳴った。
――ニンルシーラ地方の玄関口・エルダン駅にもあと二時間もすれば着くだろう。
そんな頃合いに、またしても控えめなノックの音が響いた。
「……リリアンナ嬢、失礼してもいい?」
扉の向こうに立っていたのは、セレンだった。
「グランセール駅で約束したの、覚えてる?」
簡素なカードの束を見せるセレンの背後にはランディリックもいて、リリアンナに小さく頷いてみせる。
「カード、セレン様も持っていらしたんですね」
リリアンナが小首を傾げてみせると、セレンが少し照れたように笑う。
「行きにリリアンナ嬢が誘ってくれたのが楽しかったからさ、王都でつい買っちゃったんだ……」٩(ˊᗜˋ*)و
エスパハレでは、ペイン邸の皆と、少し遊んだらしい。
「帰りには、僕のこれを使えたらいいなと思って」
そう言って、カードを指先で揃えながらリリアンナを見る。
「……僕の誘いに乗ってくれる?」
リリアンナは一瞬だけ驚いたように目を瞬かせ、それから柔らかく微笑んだ。
「もちろんです」
ナディエルが心得たように椅子を引き、ランディリックも無言のまま加わる。
四人で囲む小さなテーブルは、汽車の揺れと相まって、どこか不思議な親密さを帯びていた。
勝敗にこだわる者はいない。
ただ、カードを切り、配り、言葉を交わす。
けれど、やがて汽笛が短く鳴り、停車が近いことを知らせた。
「あ……もう、着きそうだね」
セレンが名残惜しそうにカードを手にしたまま窓外に視線を向ける。
「残念だけど……今回はここまでかな」
そして、少し間を置いてから、穏やかな声で言った。
「……続きは……また今度にしよう」
その言葉に、リリアンナは一瞬考えてから、何かに思い至ったように頷いた。
「はい。北にいれば、またお会いする機会もありますよね」
同じ北の地に縁を持つ者同士。
その約束が、心の中にある、ソワソワとした気持ちを埋めてくれるような気がしたリリアンナである。
何故なら……。
もしかしたら自分は近いうちに王都にあるウールウォード邸に戻らねばいけなくなってしまうかもしれない、とずっと不安に思っていたから。
でも、今はそのことは考えないで、セレンとの〝また今度〟という約束に縋りたいと思ってしまった。
ナディエルもまた、そんな主人の気持ちを後押しするように「そうですね」と微笑んで同意する。
けれど。
ランディリックだけは、セレンのその一言に、ほんの一瞬だけ眉を跳ねさせた。
それに気づいたのもまた、ナディエルだけだった。
彼女は何も言わず、ただ静かに視線を伏せる。
セレンの声音に、冗談も曖昧さもなかったことだけがせめてもの救いに思えた。
まるで、その「今度」が、確かな未来として約束されているかのように、ナディエルには思えたから……。
汽車は減速し、エルダン駅へと滑り込んでいく。
雪を含んだ空気が、扉の向こうで待っていた。
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すみません。
しばし多忙になるため、落ち着くまで『ヤン辺』の更新、お休みします。
遅くとも今月中には連載再開しますのでお待ちいただければ幸いです。
2026/02/05 鷹槻れん
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