コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「え…?」
思わず心の声が漏れる。顔に汗が伝う擽ったい感覚がいつも以上に敏感になる。乾ききり乾燥したパサパサの唇を舌で舐める、目に映るものを否定したい。そう思い、次の言葉を掛けようとする。
……、声が出ない。ショックは全身を駆け抜け、喉にブレーキが掛かったかのように締まる。
「心の声がダダ漏れになっていたらどうしようかヒヤヒヤしたから、居もしない真犯人の事を考察していたんだけど……辛いよね。やっぱり」
彼女は殺人を犯したことに対して“ツライ”と言っている、最初ばかりはそう思わざる得なかった。
でも本人は、人を殺めた事に対しての“ツライ”では無い。
勘ではあるが、彼女は役に入るのがとても“ツライ”。
と言っていたのだ。
「心さんを庇っているんですか?!」
嘘でもいい、嘘でもいいから彼女は犯人ではないと…誰か言って……言ってくれ。
心さんは勢いよく立ち上がり、椅子を倒す。
ガタンという木材がコンクリートに叩き付けられた音で、部屋は響き渡り静まり返る。
エコーが掛かったかのように打ち付けられた木材の音が広がる。
「庇う必要あるの?」
…………。
「……嘘……だよね?」
…………。
震えるで何度も問い掛ける。
「嘘だよね」
は、自然と声が小さくなるのが分かった。
ショックを受けているのだろう。
でもそれは貴方も私も同じ。
貴方の話した『姉』の事は私も軽くショックを受けたし、同情もした。
でも貴方も私と同じじゃない。
貴方は姉を救えなかった。
目の前にいた少女を見殺しにした。
見殺しにした人は傍観者と同じなの?被害者の1人なの?
人が死ぬ。
貴方の友人が遊び半分で行ってから帰って来ない事で分かっていたでしょ?
これは行ってはいけない。
直感で思った事でしょう?
なのに助けもしなかったんでしょう?
ただ馬鹿に突っ立っていただけなのでしょう?
そんなの、『加害者』に変わりないわ。
仕組まれていたようなものに変わりないじゃない。
貴方は被害者じゃない。私と同じでしょ?
あの夜、予め仕掛けておいた睡眠ガスをスイッチで噴射させ、霧に紛れてガスマスクを装着した。
みんなが寝るのを待ち、各々の部屋に連れて行こうと川島さんと翔太くんを部屋のベッドに寝かせた。
琴葉さんも彼女の自室に寝かせて置こうと部屋まで移動し、扉を閉めた。
(?!)
この部屋の扉だけ、開閉すると凄い音がする。
建付けが悪いのか、扉にガタがきているのか。
どちらでもいいが、流石に驚き身体を震わせ驚いた。
音に反応し目を覚ました琴葉さんは、何が起こっているのか状況が掴めず辺りを見回す。
ガスマスクを付けた私に驚くのも無理は無かった。
叫ぼうとした彼女の口を塞ぎ、壁に頭を叩き付けた。
打ち所が悪かったのか、不幸中の幸いなのか、そのまま気絶し、壁にもたれかかって座り込んだ体制で眠った。
流石にここまで見られれば言い逃れは出来まい。
ガスマスク姿の私の服を着た誰かが琴葉さんを襲ってきた、なんて証言されでもすれば私は間違いなく連続殺人未遂犯として吊るされる。
吊るす?なんだ?まただ…。また何処かで聞いた事のある言葉…でも思い出そうにも頭に激痛が走り考えられない。
いや、今はどうでもいい…。
それよりも琴葉さんが気絶したと言うことは、時間が出来たという事。
私は自室に走り、備え付けられた棚の中に役に立ちそうなものを手当たり次第で物色する。
これといって良さそうなのは殆ど見当たらなかった
見つかったのは、年季の入った黄ばんだ雨合羽に黒い手袋に良く研がれた刺身包丁、青い長靴に新品の縄。
合羽(カッパ)や手袋や長靴や包丁はともかく、縄なんて使い道がな…………。
いや待てよ?……井上さんが殺された時、ベッドに縄で括り付けられていた。
腹を裂き、どこかに括り付ければ…一件落着なのでは?
よし……考えるより行動が大事。
私は合羽を羽織り、手袋を付け、長靴を履き、刺身包丁と縄を持ち部屋を出た。
19話へ続く