「すみません……私……」
「いいわ、柚葉さん。私、あなたが彼女だなんて信じない。私はね、モデル時代からずっと樹の才能に惹かれてるの。人としても、男としてもね。パパの会社を紹介したのも、樹が仕事で成功してほしいから。悪いけど、私は、見た目も経済力もあなたに勝ってる。あなたにはいったい何があるっていうの?」
思わずハッとした。
そんな質問をされるなんて思ってもみなかったから。
美人でもない、お金持ちでもない。
教養はそこそこだけど、飛び抜けたものなんて何もない。
改めて考えたら、私には……確かに何もない。
「俺は、お前のそういう考え方が嫌なんだ。好きになるのにお金は関係ない。それに、見た目の好き嫌いは、人それぞれだ。お前が美人なのはわかる。でも、だからって男がみんな惚れるとは限らない」
樹、そんなキツいこと言って……
「ずいぶんね。あなたは私が嫌いなの? 私は、樹がこんなに好きなのに」
「嫌いと言ってるわけじゃない。俺はお前を仲間だと思ってる。でも、女性としては見ていない。俺は柚葉が好きだ。こいつの顔も性格も……全部。だから柚葉と結婚する」
沙也加さんは、下を向いて唇を噛んだ。
そして、ゆっくり顔を上げた。その目はかなり鋭く私を睨みつけていた。
「柚葉さん、樹のこと本気なの?」
そんなこと言われても……
今はまだ何も答えられない。
「黙ってるじゃない。柚葉さんには、樹と結婚する気なんてないんじゃないの?」
しばしの沈黙。
もう、無理……
樹と沙也加さんの視線に耐えられない。
「私、樹さんが好きです! だから結婚します!」
嘘……
何言ってるのよ、私。
結婚するなんて、樹さんに協力するためについ出た言葉で、私の本心じゃない……よね?
自分でも、何が何だかわからない。
頭が混乱してる。
なのに、樹さんは優しい顔をして、私の頭をポンポンした。
「何よ……。私、絶対に認めないわ。パパの会社と取引ができなくなってもいいの?」
「お前は、そんなことをする奴じゃない。それに、モデル仲間の健人も貴也も、お前のことが好きなんだ。そのこと、知ってるだろ? あいつらは、本当に良い奴らだ。だから、お前はお前の幸せを見つけてほしい。俺には……柚葉が必要なんだ」
樹は、沙也加さんの前に立って諭すように言った。
こんなこと言われたら、沙也加さんは余計に樹を好きになるかも知れない。
樹の言葉には温かさがあって、私も、何度心を揺さぶられたかわからない。
「それでも、私……やっぱり樹が好き。樹を諦めたくない。それはわかってちょうだい。柚葉さん」
「は、はい」
「今日から私達はライバルだから。絶対、あなたには負けない」
沙也加さんは足早にラウンジを出ていった。
私は、なぜか沙也加さんを憎めなかった。
人を好きになって、それが成就しない気持ちって、本当につらいから……
ごめんなさい、嘘ついてしまって……
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