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※次話から終章に入りますが、その前の箸休めとして閑話を挟ませてもらいます。
* * *
時を少しだけ戻すことにする。あの夜の前に起こった出来事について語るために。
極度の緊張とお風呂場の熱気のせいで、少女――陽向葵の意識は若干朦朧としていた。スクール水着を脱ぐのを忘れてしまう程に。
そして、誰もいない空間の中で少女は「はあっ」と溜め息をついた。そしてそれはすぐに消えてなくなった。静かな空間と同化したかのように。
「はしたない女……」
自分の部屋に戻った少女は先程の自分が行った行為を思い出しながら、そう小さく呟いた。
「憂くん、引いてないかな……」
少女が今、一番心配していたのはそれであった。陰地憂とう少年がウブであることを少女は知っている。嫌という程に。だからこそ心配し、憂慮しているのだ。
「でも、なんで十分なんだろ……。憂くんって優しいから、私のことでも考えてくれてるのかな?」
そう願った少女だったが、少年は少年で現在必死に戦っている最中である。己の昂った感情を鎮めるために。
「――とりあえず、髪の毛だけでも乾かさなきゃ」
部屋の隅に置いていたドライヤーを手に取り、コンセントを差し込んでから熱く乾いた風を濡れ髪に当てる。いつもなら手入れのためにしっかりとブラッシングしながら乾かすのだが、今の少女にはそんな心の余裕はなかった。
「もういいや。面倒くさくなってきちゃった」
まだ生乾きの髪のまま、思い出す。自分のあられもない姿を見せてしまったことを。そして、今更になって湧き出てくる羞恥心に耐えられず、両手で赤くなった顔を覆った。
「憂くん、私のを見てどう思ってくれたのかな」
少女の心の中で、様々な感情の糸が絡まる。恥ずかしさ。期待。不安。そして、欲望が。
「だけど、憂くんに見られてちょっとだけ嬉しいな」
それが正直な胸の内だった。
「竹ちゃんには敵わないけど、割と自信あるんだけどなあ。形とか――ん? あれ?」
部屋に戻って少し落ち着いたところで少女はやっと気付いた。自分がまだ水着姿であることを。
「とりあえず着替えなきゃ。でも、男の人ってスク水好きな人が多いっていうし。どうしようかな」
このままの姿の方がいいのではないのかと少しだけ考えたが、少年がスクール水着が好きかどうか分からないので、とりあえずすっかり乾いたそれをスルスルと脱ぎ捨てた。
が、やはりまだボーッとしているのか、部屋のドアを開け、そのまま――つまりは産まれたままの姿で脱衣所へと向かった。下着とブラジャーを取りに。
「あ、葵!? な、なな、なんで服着てないの!?」
こういう時にこそ、タイミングが狂うものだ。一糸纏わぬ姿の少女は、恋人である少年と鉢合わせてしまった。
「え……? ああっ!!」
ボヤけた意識が一気に覚醒し、今の状況を全て把握した。
「ち、違っ! 違うの憂くん! こ、これはですね!」
言い訳している場合ではないと思い直し、慌てて再度自分の部屋へと戻った少女である。猛ダッシュで。そして勢いよくバタンと乾いた音を立ててドアを閉めた。
そして叫ぶ。お腹の底から大声で。
「見られたーー!! 見られた見られた!! 全部見られたーー!!」
あまりの恥ずかしさに、床の上をゴロゴロと転がる少女。胸だけならまだしも、さすがに全裸は少女も見られたくなかったようだ。
そして、よくよく考えて気が付いた。下着だったら自室のタンスの中にあることを。
「はしたないとかのレベルじゃないってば……これじゃただの痴女だよ……」
時すでに遅しとはこういうことを言うのだと、少女は見に染みて知ることとなった。
――結局、少年は浴室に踵を返えして、戻ってきたのは三十分程後のことである。
『終章前の閑話 とある少女のひとりごと』
終わり