テラーノベル
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部屋は静まり返っていた。
誰も言葉を返せない。
勇斗の「どっちも守りたい」という言葉だけが、まだ重く残っている。
その沈黙を破ったのは、仁人だった。
「……俺」
小さな声だった。
勇斗が顔を上げる。
仁人は俯いたまま、膝の上で組んでいた手をゆっくりと解いた。
「昨日、一晩考えた」
その声は落ち着いていた。
いつもの仁人だった。
少なくとも、他のメンバーにはそう見えた。
けれど。
勇斗には分かった。
無理をしている。
「リーダーとして考えた」
その一言に、全員の視線が仁人へ集まった。
勇斗の眉が、わずかに動く。
「もちろん、勇斗の気持ちも分かる」
「俺だって、好きな人と別れろなんて簡単には言えない」
そこで、仁人は一度言葉を止めた。
言いたくない。
本当は、絶対に言いたくない。
それでも。
ここで自分まで勇斗と同じことを言ったら。
もしM!LKに何かあったとき。
きっと勇斗は、自分を責める。
だから。
「でも」
仁人はゆっくり息を吸った。
「M!LKがなくなるくらいなら――」
勇斗の表情が変わった。
ほんの一瞬だった。
けれど仁人は、それを見逃さなかった。
胸の奥が痛む。
それでも、止まれなかった。
「……俺は、別れた方がいいと思う」
言った。
言ってしまった。
静寂が落ちた。
誰も、すぐには口を開かなかった。
大智がゆっくり息を吐く。
舜太は困ったように視線を落とし、柔太郎も黙ったままだった。
誰かが言わなければならないことだった。
それをリーダーである仁人が引き受けた。
少なくとも。
3人には、そう見えていた。
けれど。
勇斗だけが、何も言わない。
仁人は勇斗を見ることができなかった。
数秒。
たったそれだけの沈黙が、ひどく長く感じた。
「……そっか」
ぽつりと、勇斗が言った。
仁人の指先が震える。
勇斗は俯いていた。
表情は見えない。
「勇斗……」
仁人が呼ぶ。
その瞬間。
「嫌だ」
低い声だった。
仁人の息が止まった。
大智たちも一斉に勇斗を見る。
勇斗がゆっくり顔を上げる。
「……俺は嫌だ」
今度は、はっきりと言った。
「別れたくない」
その視線は。
真っすぐ仁人に向けられていた。
仁人は動けなかった。
見つめ返すことしかできない。
他の3人には、リーダーの意見に反発しているようにしか見えない。
けれど。
仁人には分かってしまう。
これは、リーダーに向けられた目じゃない。
恋人である自分に向けられた目だった。
勇斗が苦く笑う。
「……さすが、リーダーだな」
「……え?」
「M!LKのためなら、自分の気持ちなんて後回しにできる」
仁人の表情が揺れた。
「勇斗、それは――」
「そんな簡単に切り替えられる?」
声は荒くない。
それなのに。
仁人の胸を抉った。
柔太郎が2人を交互に見る。
何かがおかしい。
ただ意見が食い違っているだけにしては。
勇斗の言葉が、あまりにも仁人個人へ向いているような気がした。
「俺は無理だ」
勇斗が続ける。
「こんな騒ぎになった」
「アイドルとして考えたら、別れた方がいい」
「そんなことくらい、俺だって分かってる」
昨日から、何度考えたか分からない。
M!LKのこと。
メンバーのこと。
スタッフのこと。
応援してくれるファンのこと。
考えれば考えるほど。
仁人の言っていることが正しいことも分かっている。
だからこそ。
「……でも、無理なんだよ」
初めて。
勇斗の声が震えた。
仁人が目を見開く。
「別れたくない」
「M!LKも失いたくない」
一度、言葉が詰まる。
それでも勇斗は、仁人から目を逸らさなかった。
「……あいつも、失いたくない」
仁人の喉が小さく動いた。
「俺は……どっちかなんて選べない」
また、静寂が落ちる。
誰も口を挟めなかった。
大智は勇斗を見つめたまま、息を呑む。
こんな佐野さん、初めてや。
いつも冷静で。
誰よりも周りを見ていて。
M!LKのためなら、自分が折れることだってできる人。
その勇斗が。
こんなにも必死に、誰かを手放したくないと言っている。
舜太も戸惑ったように呟いた。
「……ハヤちゃん」
柔太郎は何も言わない。
ただ。
一度だけ、仁人を見た。
仁人は俯いていた。
膝の上で握られた拳が、白くなるほど力が入っている。
誰も知らない。
仁人が「別れた方がいい」と言うために、どれだけ自分の気持ちを押し殺したのか。
勇斗が、どうして仁人の言葉にこれほど傷ついたのか。
他の3人には。
リーダーとメンバーの意見がぶつかっているようにしか見えない。
けれど本当は。
これは。
別れたくない恋人と。
自分から手を離そうとしている恋人の。
二人だけの話だった。
コメント
2件

最高すぎます……😭 大好きなシチュエーションありがとうございます!
第5話、読み終わりました。仁人が「別れた方がいい」と口にするまでの葛藤と、勇斗の「別れたくない」のぶつかり合い、すごく胸に来ました。特に「他の3人にはリーダーとメンバーの意見の衝突にしか見えていない」という構造が切なくて。読者だけが二人の関係を知っているからこそ、一言一言の重みが違って感じられます。このすれ違い、どう転んでいくんだろう…続きが気になります。
#そのじん
笑う門には福来る
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#nmnm注意
nanana

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