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タイムリミット
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病室の空気が、いつもより重く感じた日だった。午後の診察室で、医師が静かに告げた言葉は、メンバー全員の胸に突き刺さった。「このままあと一週間、意識が戻らなければ……残念ながら、脳の機能が回復しなくなる可能性が高いです。 最悪の場合、植物状態が続き、命を維持できなくなることもあります」医師の声は穏やかだった。
でも、その穏やかさが、かえって残酷に響いた。俺は、ただ黙って聞いていた。
医師が部屋を出たあと、廊下のベンチに座り込んだまま、動けなくなった。
「…あと、一週間」
呟きが、喉の奥から漏れた。その日から、さらに自分を追い込んだ。病院に来る時間が長くなった。
朝一番で病室に入り、夜の面会時間が終わるまで出ない。
看護師に
「もう少しだけ」
と頼み込んで、ベッドサイドに座り続ける。「ないこ……起きてくれ。 頼むから、目開けて……」
毎日、同じ言葉を繰り返す。
涙が乾く暇もなく、声が枯れるまで謝り続けた。
「俺のせいや。 全部、俺が悪いんや…… だから、罰当てるなら俺に当ててくださいッ……
ないこをこれ以上苦しませんで、……」
自分を殴るように、拳を膝に叩きつける。
でも、痛みなんて感じない。
ないこの痛みに比べたら、何でもない。他のメンバーも、毎日顔を出していた。でも、医師の言葉を聞いてから、皆の表情が明らかに変わった。りうらは、病室に入ると、いつもより静かに座るようになった。
「ないくん……りうら、毎日来てるよ。
ちゃんと聞いてるよね?」
ないこの手を握って、そっと頰を寄せる。
涙はこぼさないように、唇を噛んでいる。
初兎は、明るく振る舞おうとするけど、声が上ずる。
「ないちゃん、ほんまに寝すぎやで〜。 あと一週間で……起きてくれへんかったら、僕、泣くで? いや、もう泣いてるけどな……、」
笑おうとして、でもすぐに顔を覆った。
あにきは、壁に寄りかかって、腕を組んだまま動かない。
でも、時々、ないこの顔を見て、深く息を吐く。
「ないこ……お前、ほんまに頑固やな。
こんなにみんな待ってるのに」
声が、少し掠れている。ほとけは、ベッドの足元に立って、俯いたまま動かないことが多かった。
「ないちゃん……僕、まだちゃんと謝れてない。 起きてくれたら……ちゃんと、全部話したい」
言葉の最後が、震えて消えた。ある夜。また一人で病室に残っていると、ドアがそっと開いた。
りうらが、温かいお茶の入った紙コップを持って入ってきた。
「まろ……まだいるんだ、」
顔を上げた。
目が腫れて、真っ赤だ。
「りうら……」
りうらは、ベッドの反対側に座って、お茶を差し出した。
「飲んで。 まろ、最近全然食べてないでしょ」静かに首を振った。
「喉、通らんのよ、」
りうらは、静かに微笑んだ。
「りうらも、怖いよ。 ないくんがいなくなっちゃうかもしれないって思うと……胸が苦しくて、息ができないくらい」
肩が、びくりと震えた。
「俺のせいやのに……みんな、なんで俺のこと心配すんねん」
りうらは、優しく首を振った。
「まろが自分を責めてるのも、わかる。
でも、今は……みんなで、ないくんを待つしかないんだよ。 一人で全部背負わないで。まろまで居なくなったら元も子もないよ」
俺は、顔を覆った。
「でも、俺が……俺が浮気せんかったら。
俺が、ないこのことちゃんと大事にしてたら……こんなことにならんかったのに」
りうらは、静かに俺の背中を撫でた。
「過去は、変えられない。 でも、今から……ないくんが目を覚ましたときに、ちゃんと向き合えるように、生きててほしい」
初兎とあにきが、続いて入ってきた。初兎は、コンビニの袋をぶら下げて、強がった笑顔を作る。
「ないちゃん、今日もお見舞いやで〜。 お気に入りのプリン、買ってきたわ。 起きたら、一緒に食べよな?」
あにきは、黙って俺の隣に座った。
「まろ、お前……もう限界やろ。 顔、死んでるで」
俺は、苦笑いした。
「あにき……俺、死んだ方がええんちゃうか」あにきは、ため息をついて、まろの頭を軽く叩いた。
「阿呆か。 ないこが起きたら、一番最初にぶん殴るんはお前やろ? それが、せめてもの償いや」
俺の目から、また涙がこぼれた。
「…ありがとう、あにき」
ほとけは、最後にそっと近づいてきた。
「いふくん……僕も、怖い。 ないちゃんがいなくなったらって思うと……何も考えられなくなる」
俺は、ほとけを見て、ゆっくり頷いた。
「ほとけ……俺ら、ちゃんと謝らなあかん。
ないこが起きたら……一緒に、全部話そう」
ほとけは、涙を拭いて、小さく頷いた。
「うん……」
病室の時計が、静かに時を刻む。心電図の音が、ピッ、ピッと規則的に鳴り続けている。あと、一週間。誰もが、その一週間を、祈るように見つめていた。ないこの指が、ほんの少しでも動くのを。
目が開くのを。
「皆……」
という声が聞こえるのを。ただ、それだけを願って。
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