(エミリさんもかなりできる女だから、似たタイプではあるけど)
「恵ちゃんは春日さんと知り合い?」
「はい。朱里が篠宮さんの関係で春日さんと友達になって、風磨さんの恋人であるエミリさんとも仲よくなって、それに私が混ぜてもらった感じです」
「四人ともタイプが違う感じだけど、仲良くやれてる?」
「はい! めっちゃ楽しいです」
「なら良かった。あの闘魂お嬢様も、同性には優しそうな感じがするし」
涼さんがそう言ったのを聞き、私は少し意外さを感じた。
「春日さんと個人的に接した事はないんですか?」
「パーティーとかで世間話をした程度ならあるけど、まったくのプライベートでは話した事はないよ。今の発言で嫌な想いをさせたら悪かったね。さっき言った通り、彼女に対しては『美人だけど怖い』イメージしかなくて、ニコニコ笑顔で話している図が想像できないんだ」
「なるほど……。そのジムでの印象がよっぽど強かったんでしょうかね」
冗談で『泣いちゃった』と言っていたとは思うけど、見ていてある種の恐ろしさは感じたんだろう。
(春日さん、私たちに見せないところでは本当のバリキャリみたいだし、クネクネした面白い姉さんじゃない、しっかり者の管理職としての顔があるんだろうな。それで、若い女性だからって馬鹿にされる事が多くて、その場では大事にならないように、いなしてはいるけど、ジムで発散するしかない……感じだよね……)
実際に彼女の口からもその事については聞いたけど、凡庸な私は『大変だなぁ……』という感想しか抱けなかった。
「きっと〝若くて美人のお嬢様〟だと、私たちが思っている以上に苦労するんでしょうね。本当は頭が良くて仕事もできるだろうに、〝若くて美人なお嬢様〟っていう足枷が彼女の活躍を邪魔しているんだと思います。……春日さんが男性だったら、きっと涼さんみたいに〝御曹司〟ではあるけど、仕事のできるイケメンとして周囲に認められていたかもしれなかった。……女ってだけで、組織の中で本領発揮できないのは、ただの差別ですよ」
思った事を口にしただけだけど、涼さんはしばらく黙って何かを考え、やがて溜め息を共に「そうだね」と頷いた。
「恵ちゃんの言葉を聞いて、ちょっと自分の考えを恥じた。俺は『綺麗なのに闘魂剥き出しで怖いな』っていう印象を抱いてしまって、ストレスの原因になっているものも想像はできていたのに、『綺麗なのに怖い』という感情を優先してしまった。……無意識に差別をして、心の底では『大人しくニコニコしていたらもっと素敵なのにな』って思っていたかもしれない」
彼は少し恥じた表情をしていて、私はそんな涼さんを見てニッコリ笑う。
「そうやって自覚できれば大丈夫だと思いますよ。本当に差別している人って、自覚なんてしませんし『よかれと思って言ってるのに』と恩着せがましく言いますから。……きっと春日さんは、本当に高学歴で実力があるのに、若い女性だからと男性の部下に言う事を聞かれなかったり、お嬢様だと分かっているだろうにセクハラ的な事を言われるのが日常なんだと思います。お嬢様である彼女によく見られたいと思う男性が、余計に墓穴を掘ってるの、なんか目に浮かぶ気がするなぁ……」
私は最後にフォーのスープを少し飲み、食事を終える。
「恵ちゃんは会社でセクハラに遭ってない?」
と、涼さんが少し心配そうに尋ねてくる。
「ないですね。少なくとも物凄く憤慨するほど嫌な目には遭っていません。少し前までは篠宮さんが部長だったから、そういうのが発生しそうだったら未然に防いでくれていたんですよ。……朱里に執拗に接触しようとする困った係長がいたんですが、何かと篠宮さんが緩衝材になってくれていました。……あとは、『その人の性格かな?』って程度に当たられた事は多少ありますが、大して気にしていません。そういうのも、篠宮さんが目ざとく変化を察知して、飲みに誘う体でストレスやら悩み事を聞いて解消して、そのうち毒気が抜けたようにいい人になってるんですよね。……こう言ったら悔しいですけど、非常に優秀な部長だったと思いますよ」
「……まぁね、俺の自慢の親友だから」
涼さんは少し嬉しそうに言う。
「あいつ、育った境遇の割りには凄く性格がいいと思うよ。何かあるごとに『母と妹がそう望んでいると思うから』と言っていて、痛々しく感じる時はあった。……本当なら理不尽な事があったらもっと怒りを示して、プライベートな場でぐらい暴れてもいいのに、尊はすべてを自分の中に押し込んでいた。……こう言ったら悪いけど、その『母が望んでいるから』というのが、一種の呪いみたいになっているように感じる事はあったけど、……結果的に尊はすべてに耐え抜いて〝立派な男〟になった。……痛みを伴う事ではあるけど、誇るべき結果と思っている」
「私も篠宮さんは苦労人だと思ってますから、幸せになってほしいなぁ……とは思っています。……朱里を渡すのはいまだにちょっと癪ですけど」
私は美味しいオレンジジュースを飲みながら言う。
と、涼さんがニヤリと笑って尋ねてきた。
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