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萩原なちち
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「……言葉と行動が矛盾してますよ? 僕、またしたくなっちゃう」
俺がゆうたさんの肌をなぞると、彼は身体をくねらせてクスクスと笑う。
だって! 仕方ないだろ!
こんなに可愛い生き物が、裸で、あざとく誘うように隣にいるんだ。触らない方が無理ってやつだ。
「……ほんと、今日はダメ。俺、眠くなってきちゃった。ゆうたさんも、おやすみなさい」
「あ、や……いつきさん、気持ちいい……っ」
口では「おやすみ」なんて言いながら、俺の右手は無意識にゆうたさんの熱を握り込み、ゆっくりと動いていた。
あー、可愛い。
その反応を見ていたら、俺の方もまた熱がぶり返してくる。
自分の熱も一緒に握り込み、重なり合うように腰を揺らす。
快感と眠気が混ざり合って、脳内がふわふわと白く染まっていく。まるで天国にいるみたいだ。
「……このまま、寝れそう」
「……僕もです。明日、続きしましょうね」
「……うん、おやすみなさい」
ゆうたさんの微かな「おやすみ」が耳に届くか届かないかのうちに、意識はすとんと深い闇へ落ちていった。
ああ、幸せだ。俺、前世でどんな徳を積んだんだよ。……ああ、もう、眠い……。
「んっ、……ゆうたさん?」
朝方、カーテンの隙間から差し込む光で目が覚めた。
まだ5時か。あと1時間は眠れ……いや、眠ってらんねぇ!
浴室から、はっきりとシャワーの音が聞こえてくる。
絶対ゆうたさんが入ってる。……ってことは、昨日の続きのチャンスじゃん!
俺は跳ね起きると、そのまま浴室へ向かった。
「ゆうたさーん、俺も入っていいですか?」
「わっ、いつきさん! ごめんなさい、うるさかったですか? 昨日、そのまま寝ちゃったから……」
扉を開けると、頭にふわふわの泡をたくさん乗せたゆうたさんが、目をしばたたかせてこっちを見ていた。
……可愛すぎだろ。もはや天使にしか見えない。
「俺も入ります。裸で寝たから、ちょっと体が冷えてて」
「あ、どうぞ。僕、あと流したら終わりますから」
「そんな勿体ないこと言わないでくださいよ。あと一時間もあるんだから」
俺は彼の背後に回り込み、シャワーを奪い取った。
「俺が洗ってあげます。俺、頭洗うのめちゃくちゃうまいんですよ」
美容室のシャンプーが心地良すぎて、自分でやり方を研究し尽くした凝り性の特技。まさかこんなところで発揮できるとは思わなかった。
「うわ、ほんとだ……気持ちいい……」
ゆうたさんはうっとりと目を閉じ、俺にされるがままになっている。
その姿はまるで、飼い主に甘える子犬のようだ。
丁寧にシャワーで流してやり、タオルで顔を拭いてあげる。
彼が目を開ける前に、俺は吸い付くように唇を重ねた。
「んっ、……びっくりした」
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「はい。でも、いつきさんに会いたくなって、早く起きちゃいました」
「ん? 隣で寝てたのに?」
「……触れていないと、寂しくなっちゃうんです」
伏せられた睫毛が震える。
心臓が、朝からうるさいくらいに高鳴った。
「……可愛すぎ。昨日の続き、ここでしてもいいですか?」
俺が耳元で囁くと、ゆうたさんは頬を林檎のように染めて、小さく頷いた。
「……はい。いつきさんに、もう一度抱いてほしくて……綺麗にしたんです」
「ん? どうしよっかなぁ」
わざとらしく昨日の言葉の「おかわり」を促してみる。
ゆうたさんはクスクス笑って、俺の魂胆なんてすっかりお見通しだ。
「……いつきさん、意地悪しないで?」
「はぁい。お気の召すままに」
「ふふっ、くすぐったぁい」
顔中にちゅっちゅっと音を立ててキスを落とすと、彼は本当に幸せそうに身をよじらせる。
この人は嘘が下手だし、そもそも最近は俺に隠し事もしない。
まっすぐなリアクションしか返ってこないから、もう愛おしくてたまらなくなる。
「……あ、あの。飲み会の時の写真の『見切れ野郎』って、誰ですか?」
「ん? 見切れ野郎?」
自分の中で完結させていたはずの疑問が、不意に口を突いて出た。
そうだ。ずっとこいつのせいでモヤモヤしていたんだった。今のゆうたさんなら、正直に答えてくれるはずだ。
「りゅうせいたちと映ってた、最後に送信された写真。ゆうたさんの手の上に、男の手が乗ってましたよね?」
「あ……やっぱり気づいてましたか。いつきさんが何も言わないから『大丈夫なんじゃない?』って二人に言われて、黙ってました。ごめんなさい」
「ううん、そんなことはどうでもいいんです。しつこく付きまとわれたり、変に触られたりしなかったですか?」
俺が真剣に問い詰めると、ゆうたさんは少し困ったように笑った。
「あ、あれ。僕というより、僕たちの前にいた女性社員さんたちを目当てに来た、ナンパのおじさんなんです。仕切りがあったので、向かいの端にいた僕のことも女の子だと思ったみたいで……。写真を撮る瞬間に乗り込んできて、あんなことになっちゃいました」
「はぁ!? 知らないおっさんの分際で、ゆうたさんに触るなんてマジでぶっ殺す!」
「ふふっ。そんなに怒ってくれて、嬉しいです」
勢いで汚い言葉を使ってしまったが、ゆうたさんが嬉しそうだからまあいい。
……おじさん、命拾いしたな。
「そういえば、大変だったんです。女の子の一人がりゅうせいくんに一目惚れして『隣に座りたい!』って言うからしゅうとさんがガードして。もう一人の子がしゅうとさん狙いで来ようとしたから、僕がガードして。企画部の課長さんは僕のことを息子みたいに可愛いって、仕事の話なんて全然しないし……もう、早く帰りたくて仕方なかったです」
ん? 今、企画部の「課長さん」って言ったか?
長身イケメンじゃなくて?
「……その課長さんは、おいくつくらい?」
「ん~、50前くらいでしょうか? 今年、成人式のお子さんがいるって仰ってました」
「……くっそ、あいつらに嘘つかれた。マジでなんなんだよ……!」
膝から崩れ落ちそうになる。
しゅうとの「同い年の長身イケメン」という言葉に、まんまと踊らされていた自分。
きょとんとして俺を見上げる子犬のようなゆうたさんを見て、ようやく我に返った。
そうだ、出勤までもう時間がない!