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「なあ、コイツの足一本斬り落としてワームドの前に放り投げてみる?」


冗談のつもりで言ったバックだが、横を見ると青い顔をしたミナとヴェインが震えていた。


「バック…アンタもしかしてサイコパスキャラだったの!モブなのに!」

「マジか…そんな、足斬り落とすとか…ひええっ!恐ろしい」

「はあ?なんだよ。その人でなしみたいな言い方。こういうキャラは足斬り落としてもすぐ生えてくるんじゃないのか?タコみたいに…」

「ええ~モブ宇宙人をタコと一緒にするなんて」


ミナは大げさに涙を流すふりをした。


「それこそ、タコさんに謝れ!うふっ!」


ヴェインは実は天然なのではと思い始めるバック。


「別にバナナの皮みたいにワームドが滑ってくれるかもと思っただけだろ」


バックは顔を真っ赤にして反論した。


「バナナの皮って古典文学する気?」


ミナは思わず立ち上がるが、ワームドと視線が合い慌ててしゃがみ込んだ。


「古典文学する気ってなんだよ!」


ヴェインは消滅を免れた猫を優しくなでていた。


「じゃあ、他に方法あるのか?」


バックの発言に他二人は黙り込んだ。


「仕方ないわね。やるわ!」


ミナは懐からパンナイフを取り出す。


「なんでそんなもん持ってるんだよ!」


バックは間髪入れずに叫んだ。


「食堂で見つけたのよ」


そう語るミナは恍惚な表情を浮かべている。


「どうして君の方がやる気満々なんだよ。でもまあいいか!ウフッ!」

「おい、さっきまで反対してたのになんでお前らの方がサイコパスキャラやってんだよ」

「うるさいわね。こういうのは勢いが大切なのよ」


ミナは力の限り、ナイフをモブ宇宙人の足めがけて振り下ろした。

そのタコ風の足はスパッと切れ、ナイフが落とされた反動でワームドの前に投げ出される。

その瞬間、切り出されて短くなったモブ宇宙人の足から新しい足が伸びてくる。

バックはホッと息をついた。


「で、うまいこと投げ出せたけど、この後どうするの?」


ミナは一仕事終えた職人顔負けの様子でナイフを再び懐に戻す。


お前の懐は無限ポケットなのか?


「ねえ、うまいことやってる?」


バックの頭の上にファンが乗っていた。一体いつの間に?


「というか、なんでファンからセイの声が聞こえるんだよ」

「ファンには通信機能がついてるからね」

「めっちゃ優秀だな」


ファンは褒められた事がうれしいのかバックの上で飛び跳ねる。


だから、痛いってば…。


しかしファンの声に反応してワームドはさっきより闘志をみなぎらせている。


「ヤバい。なんかワームドやる気にさせちゃってるよ!」


ヴェインは長い前髪の隙間から透き通る宝石のような瞳を引きつらせる。


ドスン!


次の攻撃に備えて身を縮こませるバック達。

予想に反して巨大な音を鳴らしてワームドは尻餅をついていた。



「えっ!マジでテンプレのごとくバナナの皮、じゃなかった宇宙人の前足で滑ってくれたの?」

「ちょっとバック。一人語りしてないでアイツ始末してきてよ」

「俺の説明、一言で片づけるなよ。いちいちセリフが物騒なんだよ。本当に町娘なのか」


ミナは怒りの形相でバックを睨む。


「ひえ~。怖い!」


バックは慌ててワームドの前に仁王立ちする。


「よし。やるぞ。モブアタック!」

「その技名、モブで定着するの?」

「命名をそんな簡単に変えられるか」

「確かにね」


ミナは納得したようにうなづいた。

ワームドの周囲に謎のピンクのオーラが発生する。

バックの力によるものだ。

その瞬間、ワームドは溶けていき蒸発していった。


「よし、撃退完了!」


ガッツポーズと共にバックの顔はイケメンモードからモブへと戻っていった。


「ねえ、バック。ずっとイケメンモードでいられないの?」

「それができないからモブなんだろ」

「なんかセリフが重いわ」

「ミナこそ深刻なトーンで言わないでくれるか?」


ガタン!


「ゲッ!また世界が壊れ始めてるぞ!」

「折角ワームド倒したのに達成感ゼロだよ」

「仕方ないわ。早く船に戻りましょう」

「ピロピロ…」


モブ宇宙人の寝言が耳にはいるバック。


「その寝てる宇宙人どうするんだ?」


ヴェインはつぶやいた。


「ここに置いとけない」

「そうね。足斬り落としちゃったし…」


ミナは悲痛そうにつぶやいた。

わりとノリノリで切断したのお前だけどね。


「連れて帰ろう」


バックは未だ夢の中のモブ宇宙人を背負った。


「でっ!どうやって船に帰るの?」


ミナの言葉に最大の危機が訪れていることを直感するバック。


「分からん…」

「はあ!」


ミナとヴェインの悲鳴が重なる。


「ちょっと、どうすんのよ。セイもいないし…」

「任せてよ!」


ファンから聞こえてくるセイの声と共にバックの前に糸がたらされる。


「さあ、それにつかまって」


セイの声と共に上を見上げるとティーポットの注ぎ口に立ち、釣りをしているセイがいた。


「まさか、俺たちを吊り上げる気か!」

「グズグズしている暇ないわ」


すでに覚悟を決めたミナの後に続き、バック、ヴェイン垂らされた釣りがねにしがみついた。

引き上げられる中、沈んでいく世界を見ていた。


まさか。釣られる日がくるなんて…。


モブ人生で初めてだと思うバックであった。

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