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ミーンミンミン
「暑いな」
7月末、僕は親が離婚したという理由で祖母の家に行くことになり、転校することになった。地元にはある程度友達はいたし、楽しい学校生活を過ごしていたと思う。ただ、どこか物足りなくて、寂しくて、ずっと打ち明けられない気持ちがあった。
「圭大〜」
「今行くー」
父方でも母方でもどちらでもなく、どちらからも見捨てられた自分はどこにも必要がないんだと諦めていたら、ばあちゃんが「うちにきな」と声をかけてくれた。お言葉に甘えてついていってしまったけれど、個人的には邪魔なんじゃないかと考えてはいる。
「夏休み明け前に学校に行って先生方に挨拶をするからそれまでに採寸しなあかん。一人でできるか?」
「うんできるよ」
「そうか、じゃあこれ」
ばあちゃんから渡されたメジャーを持って再び自分の部屋に戻る。正直にいうと、一人で採寸は難しいけど、今更ばあちゃんに手伝ってもらうのは申し訳ない。一人で頑張るしかない。
__翌日
「圭大、近所の松川さんの家にじゃがいも届けてくれへんか?」
「わかった」
田舎ということもあるのか、僕の地元にはなかった食材を分ける文化がこっちにはあるらしい。じゃがいもなんて近所に分けたことないな。
「すいません」
「はいはい〜?」
「僕、佐野川圭大って言います。ばあちゃんからこのじゃがいも松川さんに届けてと頼まれたので来ました。」
「あー!圭大くんかいな。聞いとるよ〜一昨日にこっち来たんやってなあ、よろしくね?あ、そういえば、中学どこ行くことなったん?」
「あー、確か、柳川中等学校だったと思います。」
「そうなん!ここら辺はやな中出身の子多いから、なんか教えてもらいや。上がってくか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございました。」
「こちらこそありがとね〜」
田舎特有の雑談が多いこともあるのか少しつかまってしまったな。ここら辺は同じ中学の人が多いらしいし、挨拶でもしようかな。いや、柄じゃないか。
直射日光が肌に照りつき、モワッとした湿気が混じる暑さ。僕は田舎に引っ越して、また途中から中学生活を新たに始めることになる。
「暑すぎ。頭痛いし、早く帰ろ…」
「圭大?」
聞き覚えのない声変わりしたような少し低い声で話しかけられる。
「あ、やっぱりそうや。こっちきとったんかいな」
「あー、すいません。人違いとかじゃないですか?」
「そんなわけあるか!お前けいたやろ?こっち引っ越して来たってお隣さんづてに聞いたんやで?」
「そうなんですか?」
身に覚えのない少年は意気揚々と話しだす。
「覚えとらん?ちっさい頃さ、けーちゃん泣き虫で夏の間アイス食えんかったら大泣きやったんやで?」
「いやいやいや…」
「しかも!俺のこと超好きで、ずっと後ろついてきとったやん!」
短髪に白いタンクトップ、肌は少し黒く焦げていて、夏のように明るく笑う。
目は少し鋭くて、黒に染まった瞳。その瞳にまっすぐ見つめられると、思わず目を逸らしてしまいそうになるほどに綺麗で、どこか懐かしい気がした。
先に名乗りもしないで話し続けるこの少年に僕は少し戸惑っているはずなのに、なぜかすごく居心地がいい気がした。
「おい?聞いとる?なあ!なあって!」
視界がぼやけていく。言葉がうまく出ない。ただただ声が離れていくだけ。
そして、この少年に助けられてしまった。
それからの記憶はなく、目が覚めると見覚えのない天井を前に風が心地よいことがわかった。
「あ、目ぇ覚めた?」
「うわ、えここどこ」
「俺ん家や。すんごい顔赤ぁなっとったから家寄るか聞いた瞬間フラフラしてこっち倒れてきてもうて、一旦家連れて帰ってきたんや。」
「すいません、世話かけてしまって。すぐ帰ります。」
「あかんよ!念の為もうちょっとおり?」
そんなことを言われても無礼だし、何も今は持っていない。ばあちゃんと連絡を取れる物さえなければお礼できるものも。せめて滞在時間を短くしたいというのに、この少年は止めてくる。
「あの、君名前なんていうの?」
「え?あーそっか覚えてないんやもんな。俺、天光太。ほんまに覚えてないん?」
「あまって、こーちゃん?」
脳の中で渦巻く記憶は、棚の奥からぎゅーっと記憶を引っ張り出した時のように急に脳裏をよぎる。しっかりと記憶しているわけではない。けれど、幼少期にここ(ばあちゃん家)にきてはよく遊んでいた、そんな気がする。
「やっぱ覚えとるやん。久しぶりやな。けーちゃん。」
鋭い目が細くなって僕に笑いかける。昔からあの瞳に見つめられるのが好きだったという思いを思い出しては恥ずかしくなってしまう。黒い瞳は僕をまっすぐ捉えて話すんだ、昔から。
その日は、少し昔話をした後、落ち着いただろうということで僕は家に帰った。
「松川さん家でお茶でも飲んできたのかい」
そう、ばあちゃんに問いかけられたけど
「違う。幼い頃の友達に会ったんだ」
そう答えた。あの時の僕は友達だとそう過信してしまっていたんだ。
コメント
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いやー、これめっちゃ刺さったわ……! 田舎の夏の暑さと湿気、ばあちゃん家の空気感、めっちゃリアルで情景が浮かんだ。再会シーンの「黒い瞳に見つめられると目を逸らしたくなる」って描写、甘酸っぱくてドキドキした。最後の「過信してた」で終わるのも、続きが気になりすぎる……! 圭大の視点から見える光太の距離感、これからどう変わるんだろうな🔥