第5章 「嘘のない夜に」
雄英の寮。
夜の静寂が、まるで時間を止めたように落ちていた。
哀は眠れず、屋上へと出た。
夜風が頬をなで、星の光が遠くで瞬く。
哀:「……また眠れない。」
その背後で、煙草の火が赤く光る。
ダビ:「お前、夜に出歩くの好きだな。」
哀:「……あなたもでしょ。」
ダビ:「まぁな。夜のほうが、炎が綺麗に見える。」
ダビが隣に腰を下ろす。
二人の間には、静かな距離。
けれど、心だけはもう近かった。
哀:「この前……ごめんね。止め方、きつかった。」
ダビ:「あれでいい。お前が泣くほうがきつい。」
哀:「……優しい言葉、似合わないね。」
ダビ:「言わせるな。……照れるだろ。」
哀が小さく笑う。
夜風に乗って、ふたりの呼吸が重なった。
哀:「ねぇ、ダビ。」
ダビ:「ん?」
哀:「“嘘発見”って、触れた相手の本音が分かるの。けど――あなたのだけ、いつも曖昧なの。」
ダビ:「……俺の?」
哀:「心が、燃えてるみたいで掴めない。」
沈黙。
ダビは視線を落とし、指先の火を消す。
ダビ:「……俺さ、怖ぇんだ。」
哀:「なにが?」
ダビ:「お前に“本音”を見られること。俺がどんな化け物か、知ったら……絶対離れるだろ。」
哀は首を振る。
そっと手を伸ばし、彼の頬に触れた。
哀:「私は、もう知ってるよ。」
ダビ:「……っ!」
哀:「傷も、痛みも、優しさも。全部、嘘じゃない。」
ダビ:「お前……なんでそんな簡単に言えるんだよ。」
哀:「簡単じゃないよ。でも、あなたが苦しむ顔よりずっといい。」
炎のような沈黙。
ダビの瞳が、哀を捕らえる。
ダビ:「……俺、本気でお前を――」
哀:「言わなくていい。感じてるから。」
風が吹き抜けた瞬間、哀が彼の胸に手を置く。
その鼓動が、まるで炎の音のように響いていた。
ダビ:「……俺、お前に救われすぎてる。」
哀:「じゃあ今度は、私が壊してあげる。」
ダビ:「……壊して、どうする。」
哀:「それでも、あなたが笑えるなら。」
次の瞬間、ダビは彼女を抱き寄せた。
燃えるような体温。
でも、それは優しさの熱だった。
ダビ:「……逃げんなよ。」
哀:「逃げない。」
ダビ:「俺の炎に、焼かれても?」
哀:「あなたが燃やすなら、怖くない。」
夜が深く、静かに更けていく。
二人の影が、重なったまま離れなかった。
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🌹次章予告:第6章「光を信じて」
ダビと哀の絆が深まる一方で、
ホークスが掴んだ“雄英の裏の秘密”が三人を引き裂いていく――。