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それは尖端が軽く侵入しただけで神経に触れ――
「ぃぎゃあああぁぁぁぁ!!!!!」
爪先に集中する激熱は、煉獄火炎となって脳へと届く。
燃える燃える灰と化すまで――
「ソーレソレソレ! オマツメだぁぁぁ!!」
吐き気を催す洒落の掛け声と共に、女は更にヒートアップ。
“捻り込むように刺すべし”
ピストルの弾丸が回転しているのは知っているかい?
押し出す力に回転が加わると、とてつもない貫通力を産み出すからだ。
「あがぁががががぁぁぁ!!」
奴はドライバーの様に尖端を回しながら、しかも尋常じゃない緩やか速度で、針を爪内に押し込んでいく。
抉る神経は楽々と細胞を蹂躙、破壊、死滅させていった。
絶え間ない地獄は脳まで敏感に覚醒し、その激痛は二割増しで受信。
そして――
「オホホホホホ! ジョン見て見てぇ! 貴方の爪が美しい錆色に染まっていくわぁ!」
尖端が終着点まで達した瞬間、悪魔が歓喜の産声を上げた。
聞きたくも見たくもない惨事。
だが俺は見た。見てしまった。
「ヒィッ!?」
俺の人指し指、その爪の中心線から赤黒い波紋が拡がっていき、全体を埋め尽くしたそれが、毒々しい魔性の紫色に変貌していくのを――
「いやだぁあああぁぁぁ!!!!!!」
“フォールダウンーー堕天”
俺の属性が変わる。
光から闇へ――神から悪魔へと。
神なる俺が悪魔へ堕天だと?
こんな事は有り得ない、有ってはならない。
煉獄の業火に蝕まれている最中であっても、俺は神で在り続けようと抗っていた。
「――ぎゃぴぴっぃぃ!!」
無造作に引き抜かれた針の痛みに、僅かに支えている理性さえも崩壊しそうになるが、俺は耐えた。耐えきってみせた。
抜かれた後も終わる事無く、神経を燃やし続ける痛覚の極致。
「綺麗……」
悪魔の芸術に染まったそれを目の当たりにし、女はうっとりと恍惚の呟きを漏らす。
“悪魔は芸術を解さない”
だが、こいつにはその常識が通用しない。
何故ならこの悪魔は、神に取って代わろうとしているからだ。
だが俺は耐えてみせた。
確かに悪魔の御印は刻まれてしまった。
しかし一つでは完全な堕天を意味しない。
「ふぅ……」
俺は勝ったのだ。
この痛みは暫く続くだろうが、俺は勝利の余韻を噛み締めながら、安寧の刻に一息を吐く。
「何を安心しているの?」
「……は?」
突如放たれた、理解を超越した一言。
「まさかとは思うけど、これで終わりと思っていたのかしら?」
“はい思ってます”
当たり前だ。俺は勝利したのだ。
「ああ……ゲームクリアだ!」
「オホホホ! 面白い冗談ね」
だが奴は俺の勝利の宣言を一笑に伏す。
「それにゲームクリア処か、ジョンはとっくにゲームオーバーだと思うのだけれど?」
こいつが何を言っているのか、俺の崇高な頭では理解出来ない。
これはハードだが攻略法が存在する、俺にとっては造作もないゲームのはず……なのに――
奴の嘲笑うかの様な表情。
突き付けてきた。
ゆっくりと――
「これはゲームじゃなくて“現実”よ。いい加減目を覚まして受け入れなさいな」
その“現実(リアル)”を――。
“……現実?”
何を馬鹿な事を。俺こそが現実神なのだ。
「目を覚ますのはお前だ!」
俺の言葉に迷いも間違いも存在しない。
どちらが真実なのか、比べるまでもない自明の理だろ?
「可哀想なジョン……。私が絶対に目を覚まさせてあげるからね」
女は一瞬、哀しそうな表情を見せたが、すぐに含みのある妖艶な笑みで俺の指を押さえつけた。
「何をする!? もう終わったはずだ?」
「何を言っているの? このままじゃバランスが悪いでしょ? これはネイルアートなのよ」
そんなアート、聞いた事もないのだが、嫌な予感は拭えない。
まさかとは思うが――
「そう、全部よ」
こいつには読心術の心得が有るのだろう。しかもかなりの使い手だ。
口惜しいが、俺の常に一歩先を読んでいる。
だとすると、これから訪れるは――
「さあ何処まで正気でいられるか楽しみね。あっ! 最初から正気じゃないか、アハハハ!」
正気じゃない吐き気を催す丹の笑み。
手には指が五本在る。両手合わせて計十本だ。
つまり残り九本――
「やめろおぉぉぉぉ!!」
事実確認する前には絶叫していた。
あの言語を絶する地獄が、あと九回も繰り返されるのだ。
本当の地獄界でも戸々まで酷くはない。獄卒にも慈悲は有る。
だがこいつは本当の――
「それよそれぇ! そのジョンの声が堪らないのよぉ! 今日は口を塞がないから沢山聴かせてね。舌噛んじゃやーよ?」
“サイコサディスト”
しかも最上位の――まずい!
「ぐっ……」
声を出すな。奴にとって悲鳴は料理のスパイスに過ぎない。
貝になれ貝に。