テラーノベル
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「さあ! 今度はもっと激しくイクわよぉ!」
俺はものを言わぬ貝だ。何を言われても聴こえない。
しかし――
“グッ”
「ひぃぃぃ!? もうやめぇぁあぁぁぁ!!」
爪先に針が触れた瞬間には絶叫していた。
まだセットの段階でオープンではない。
それでも先程の忌まわしい記憶がリバースし、俺の意思とは関係無い処で暴走していたのだリミッターが。
「オホホホホホホッ!」
しかし全くの逆効果。女の歓喜は増幅の一方。
もう、限界だった。
「分かったぁ! 分かりましたぁ!! 貴女に服従する事を誓います! 誓いますからもうやめてぇあぁぁぁ!!」
それは服従の証。俺は敗北した。遂に認めてしまったのだ。
この地獄を逃れる為なら何だってしよう。
それは生存本能という本心だった。
「やっと分かってくれたのね……」
女の勝ち誇った、穏やかな呟きはゲーム終了の狼煙。
ようやく終わった。
もはや神には戻れないだろうが、少なくとも現状よりはましだろう。
「――なんて駄目よ!」
しかし安堵したのも束の間、一拍子置いて発せられた怒声は、俺の耳を疑うものだった。
“――駄目? 駄目とは何だ駄目とは?”
俺は奴に敗北を認めた。緊急避難とはいえ、奴の奴隷になる事も誓った。
口惜しいがこれは本心だ。出任せではない。
「本当ですぅ! ワタクシが馬鹿でございましたぁ! だからもうやめぇあぁぁぁ!!」
女の本来の目的は達成。俺を堕とす、というな。
これ以上、何を望む事がある?
「分かってないわね……。私はね、貴方の全てが欲しいの」
手に入れた。目の前の現実がそれだ。
「貴方はただ、この痛みから逃れようとしているだけ。それじゃあ意味無いのよ」
確かに逃れたい。だからこそ負けを認めた。
「いやいやいやぁぁぁ! もういやだぁぁぁ!!」
負けを認めても辞める気配が毛頭無い事を悟った俺は、身を捩らせ有らん限り声を搾り出した。
自分が自分でなくなる感覚。
そう、これは夢。俺は夢を見ているのだ。
これが夢だと分かり、俺は少し安心する。
「逃げちゃ駄目よ! 現実を見なさい!!」
しかしその怒声ですぐに引き戻された。
“夢、現実、夢、現実、夢夢夢夢――悪夢悪夢悪夢悪夢悪夢悪夢悪夢悪夢悪夢悪夢悪夢悪夢悪夢悪夢悪夢悪夢悪夢悪夢悪夢悪夢悪夢悪夢悪夢悪夢――”
「私は絶対に辞めない――」
“貴方の全てをものにするまで”
「それに――」
女の表情がルシファーのそれに変貌を遂げる。
「このままじゃバランスが悪いでしょ?」
それは心底愉快かつ、醜悪な笑みだった。
「ヒィィッ!?」
奴は何の躊躇いも慈悲もなく、セットした針を侵入させてきたのだ。
***
“アハハハハ”
“ギィャァァァァァッ”
“イタイ?”
“アガガガガガァッ”
“ネェイタイ?”
煉獄――
“ガァァッァァァァァ”
神経痛――
“ヒギィィィィィャァァァァッ”
“モットモット”
欲望――
“イヤァァァァァァァッ”
絶叫――
“イッチャウ? ネェイッチャウ?”
混沌――
“オゲェァッ”
“クルクルクルグルグルクルクル”
ケイオスタイド――
“マダマダァ”
ゲシュタルト崩壊――
“アヒャヒャヒャヒャッ”
“オオキナコエデハイエナイケレド”
支離滅裂――
“チイサナコエデハ”
聞こえませんか?
“カットカァッッッッット”
思考回路はショート寸前――カットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァット!!!!!!!!!!!
“イキテイキテイキテイキテ”
終わらない夏――
“オホホホホホホホ”
終幕――
「パーフェクトよォォォ!」
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