テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
深い深い霧の中をミズキは歩いていた。
破壊の神を支持する狂信者達の襲撃を受けたあの日、目の前で父は殺された。
母と逃げていたが、腹部に傷を負った母は途中で動かなくなった。
行く当てもなく路頭に迷い、空腹と口渇、絶望に襲われた。
生きることを放棄しようとした時、俊蔵と出会った。
「あの町の生き残りか。そうかそうか。よく頑張った。よく生き延びてくれた。」
そう言って温かい腕に包まれる。
その後連れ帰られたあの場所で久しぶりの温かい食事に風呂、そして優しい人達に囲まれ、ミズキは幸せだった。
「お、起きた!トウマ!起きた!」
ぼんやりとした視界にハルの顔とトウマの顔が映る。
「ミズキ、起きたか。」
「ここは?」
「医務室。さっき試練終わったんだぜ。」
「合格者は半数程度だったな。」
「そう。」
ミズキはゆっくりと起き上がる。
「そういえば、俺の武器見るか?」
ハルがニコニコしながら右腕を見せる。
「来い!」
そういうとハルの右手には槍が握られる。
「かっこいいだろ!」
「ハル!」
叶の声が響く。ハルは恐る恐る振り向き、その形相を見る。叶の剣幕の後ろでは花村が笑いながら見ていた。
「おもちゃじゃないの!しまいなさい!」
「だってかっこいいじゃんか!」
「まぁまぁ、嬉しいんだよ。叶もそうだったろ?」
花村が2人の仲裁に入った。
「具合はどうだ?」
「大丈夫。トウマもハルも凄いね。」
ミズキは自分の右腕を見た。
「言っとくが、ハルも人のこと言えたもんじゃないからな。叶さんの肩借りないと歩けなかったし。」
「え、体力しか取り柄ないのに?」
「ふっ、はは。そうだな。」
ハルの方を見ると、ちゃんと花村と一緒に叶に叱られていた。
「花村!お前またサボりか!」
「やっべ!」
大将へと昇格した瓜生が会議から戻ってきた。あれから少し白髪が増えている。
「ミズキちゃん、具合どうだ?よく頑張ったな。」
「瓜生さん、ありがとうございます。もう平気です。」
相変わらずゴツゴツとした大きな手で頭を撫でてくれる。
「叶、花村を借りていくぞ。花村、片付けが途中だ。」
そう言って花村は瓜生に引きずられて行った。
「ミズキも調子がいいなら、本邸に戻ろう。お祝いしないとね。」
そう言って4人は屋敷へと戻った。
「瓜生さん、こっち終わりました!」
「こっちも終了です。」
ようやく試練の場所の片付けが終わる。
半数近くの適応できなかった隊員たちはみな武器に取り込まれてしまった。その武器はまだ鼓動を続ける。
「一同、敬礼!」
一糸乱れぬ敬礼を送る。
「お前達の意思は必ず連れていく。安心しろ。」
その言葉に呼応するように拍動は徐々に弱くなる。
その様子を見届けると花村が瓜生に話しかける。
「遂にあの子達も配属ですか。」
「ああ、学校区近辺は花村の部隊の担当になるからお前に任せたぞ。」
「任せてくださいよ。必ず守りきりますから。」
「そうか。それなら叶のことも頼んだぞ。」
「は!?嫌です!」
「決定事項だ。」
「だって、俺がもっと強かったら•••あいつら親子を•••。」
それ以上の言葉が繋げられない花村の肩に瓜生は優しく手を置く。
「•••••それを言うなら俺の責任だ。次はお前が必ず守りきれ、花村大佐。」
13年前
瓜生の部隊に花村と叶の夫は配属されていた。
その日、叶の夫は非番で娘の紅葉と休暇を楽しんでいた。
「よ、叶、紅葉ちゃん!」
「花村、お疲れ。」
「おちゅかれ!きょうもあちーなぁ!」
紅葉はそう言って花村の足に抱きつく。
「あっはははは!相変わらずかわいいなぁ。」
「もみじはね、おおきくなったらね、うりゅとね、けっこんするの!」
ニコニコと向けられる笑顔に花村が凍りつく。
「叶、お前な•••。いくらなんでもおっさん趣味は良くないぞ。」
「昨日たくさん遊んでもらってから、ぞっこんだよ。なぁ、パパは?パパはだめか?」
「ぱぱにはままがいる。だいじょうぶ。」
「大丈夫じゃない!」
瓜生に初めて会った時は泣きわめいて抱っこすら拒否していた姿が懐かしい。
「じゃあな、そろそろ行かないと部隊長と瓜生准将に怒られちまう。紅葉ちゃん、ばいばい。」
「ばいばーい。」
それが生きているうちに会えた最期の姿だ。
瓜生と花村が次会った時には、叶の夫は瓦礫にもたれかかるように、紅葉は冷たくなったまま叶に抱き締められていた。
担当地区に分散して放たれた敵に瓜生の部隊は応援が到着するまでに対応しきれなかったのだ。
「明日も早いんだろ。今日はもう休むんだ。」
「はい。」
そう言って花村は3人が卒業するまでの期間与えられた本邸の自室に向かう。
その背中を瓜生は見守っていた。
「花村さん!お帰り!」
途中席を外していたハルが出迎える。
「ただいま。おめでとうな!」
「へへ、ありがとう。飯もう食べ始めたから、早く来てくれよな!あと俺今日部活休んだ分、明日早く行かないといけないんだけどさ。」
「特別に送ってやるよ。」
「よっしゃ!」
「じゃあ一旦着替えて来るから、俺の肉確保しといてな。」
「オッケー!」
ハルはまた居間に戻る。
(俺が守る、か•••。出来んのかな。)
居間からは賑やかな声が聞こえる。
「本当にじいちゃん別人だったからな!」
「そうだったか。嫌いにならんでくれよ。」
「ハル、行儀悪いぞ。」
「ちょっと座ってよ。」
「気にしなくていいよ。今日はお祝いだから、若者はもっと食べて食べて。」
一ノ瀬と3人は無礼講といわんばかりに賑やかだ。
そんな姿を叶は微笑ましく見ている。
(ま、考えても仕方ないか!やるしかない!やればできる!為せば成るってな!)
そうして花村も身支度を済ませ、みんなと合流した。