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三文小説
今日は変な日だ。
いつも起きてるふっかが、朝からずっと寝てるの。
さっきは組長と喋ったし、組長は帰ってくるって言った。
涼太によかったなって教えてあげてる間に、気付いたら涼太と遊んでた阿部ちゃんがどっかにいなくなっちゃってたし、どうしたんだろ。
「阿部ちゃんどこ行ったんだろ」
「ぁぅ、あぶ!」
「阿部ちゃんだよ」
「あぇちゃ!」
涼太がね、どんどん喋るようになってきたんだよ。
早くいろんなこと涼太と話してみたい。
「べ、だよ」
「びゃー」
「べ」
「ぇ”ー」
「お、いたいた!何してんのー?」
「あ、佐久間」
涼太に名前教えてあげてたら、阿部ちゃんじゃなくて佐久間が帰ってきた。
「涼太に名前教えてあげてんの」
「へー!覚えた?」
「あとちょっと」
「あぇちゃ!」
「おー!すげぇ!阿部ちゃんって言ってんだね!俺の名前も覚えてくれるかな」
「涼太、佐久間もだって」
「坊!俺も俺も!さくま!」
「ぅま?」
「さーくーま」
「ちゃぅま!」
「惜しい惜しい!」
二人とも楽しそうに遊んでたから、「佐久間、涼太守ってて」って伝えて居間から出て行った。
行きたいところがあるんだ。
部屋の前まで行って「入っていい?」って聞いたけど、返事がなかったから勝手に入った。
中にいたそいつは、まだ寝てた。
勝手に持っていっちゃってたから、スマホを返しにきたんだ。
あとね、なんかね、ここにいたかった。
さっき見た時も、やっぱり今も、ふっかは苦しそうだったから。
こいつ死んじゃうのかなって思った。
でも、目黒はふっかがすげぇ強いって言ってたのに、なんでかぜひいたんだろう。
佐久間が、強い奴はかぜひかないって言ってたのに、変なの。
あと、「かぜひく」ってなんだろう。
「ひく」ってなに?
「負ける」みたいなこと?
強いやつは「ひかない」ってことは、「負けない」ってことじゃん。
なら、「かぜ」って奴がどっかにいて、ふっかと戦うためにここに来るかもしれない。
ふっかよりかぜの方が強いのかな。
さっき、康二がふっかの部屋を出ていったあと、そんなことを考えてた。
だから俺が守ってやろうって思って、佐久間に涼太を見ててもらって、もう一回ここに来た。
今もふっかはずっと寝てる。
どこから「かぜ」が現れるかわかんないから、いつ来てもいいように襖と部屋の中と、ふっかの顔を順番にじーっと見ていった。
ずっと待ってたけど誰も来ないなって思ってたら、またふっかが起きた。
「んぁ…ぁれ…しょうた…?」
「ふっかおはよう」
「おー、おはよ…」
さっきも起きた時に、たいおんけーってやつやったから、またやったほうがいいのかなって思って、ふっかの脇に棒を挟んだ。
ピーって音が鳴ったあとで、書いてあった数字をふっかに教えてあげた。
「ふっか、39.6だって」
「全然下がんねぇな…ありがとな…」
「うん。かぜ強いんだね」
「ん…?」
「目黒が言ってた。ふっかはすげぇ強いって。なのにかぜ引いたから、かぜの方が強いってことでしょ?」
「あー、そうね、俺も流石にこいつには勝てねぇなぁ」
「じゃあ俺が倒す。俺がかぜに勝ったらふっかより強いでしょ?」
「ふははははっ、そうだな、そうなりゃ最強だよ…っぶしぇぁ!」
やっぱり、ふっかよりかぜの方が強いみたいだ。
ってことは、こいつを倒せば俺が一番強くなれるんだ。
そのうちここに来る敵をもう少し待ってみようと思ってたら、ふっかが「なぁ、しょうたー」って俺を呼んだ。
「なに?」
「どうしてもやんなきゃいけないことがあるのに、やりたくないなー、できないなーって思う時、お前ならどうする?」
「? やりたくないならやらなきゃいいじゃん。なんで考えるの?」
「それが約束なんだよ。デカい約束を守るためには、どうしてもそれをやんないといけないのよ」
「ふーん」
ふっかは何が知りたいんだろう。
おっきな約束を誰かとしてて、その中にめんどくさいけどやらないと怒られるようなもんでもあんのかな。
俺、誰とも約束したことないから、なんて答えたらいいのかよくわかんないや。
あ、でも、ここに来た一番最初の日に一個だけしたかも。
ふっかが言ってる「デカい約束」ってやつ。
「俺も一個だけ約束したことあるよ」
「ん?」
「涼太に初めて会った日、あいつに約束したんだ。俺が守ってやるって」
「へぇ、そんなこと思ってくれてたの。あんがとね」
「でも、あいつのこと、ずっとは守れてない」
「んん?んなことないと思うよ?」
「勉強してるときは勉強のこと考えてるし、特訓してるときは康二に涼太を守ってもらってる。だから、ずっとじゃない」
「ほーん…そゆことか…」
「どうしてもやんなきゃいけなくても、できないときある。そういうときはちゃんと「できない」って言う。でもそうやって言っても涼太は怒らない」
「うん、そうだね」
「だから、ふっかもできないって言ったらいいじゃん。約束した人に」
俺はいつもそうしてるってことを答えたら、ふっか「そうねぇ…」って言ってから喋らなくなった。
なんか考え事してるみたいだったから、話しかけない方がいいかなって思った。
それに、かぜがここに来るかもしれないから、油断しないで、また襖とか部屋の中を見て、ふっかが次に喋るのを待ってることにした。
できないって、言えんのかな、、これ。
いつ振りかに熱が出て、張っていた気が緩んで弱ったからなのか、珍しく誰かに頼りたくなった。
そばにいてくれていた翔太を見ていたら、ついぽろっと口からこぼれてしまった。
ここにいたのが翔太でよかった。
こんな話、あいつらの誰にもできやしないから。
なんて相談したらいいのかもわからないし、何よりもこんな人生やら役目やらを背負ってるなんて言って、あいつらに気を遣わせたくなかった。
翔太なら、まだこの組のあれこれについては詳しく知らないだろうし、まだまだ子供だから深いところまでは勘繰らずにいてくれるだろう。
なんて、そんなずるい期待が生まれては、思い余ってぽろっと弱音を吐いてしまった。
それでも直接的には言えなかった。
かなり抽象的な質問にはなってしまったが、翔太は自分の考えを拙い言葉ながらも丁寧に教えてくれた。
こいつの言っていることはとても正しい。
正論で、まっすぐで、とても綺麗。
眩しくて、羨ましくなるくらいだ。
だが、これを実践するのはとても難しい。
正しさだけでは生きていけない。
まっすぐなだけじゃ、俺が守りたいもの全てを守ることはできない。
俺一人だけの問題なら、こんなに悩まない。
全部自分次第な融通の効く未来だけが目の前にあったなら、きっと、俺は今すぐにでもあの手を取りに行く。
でも俺は、俺の先にある未来のことを考えなければならない。
若が親父になったように、いつか、 坊が次の当主になる。
その時、誰が影としてこの家を守っていくのか。
未来永劫、この宮舘組の名を絶やさぬよう手となり足となっていくのは、紛れもないこの深澤の家なのだ。
俺一人の我儘でそれを潰すことなど、あってはならない。
俺の名字は、俺だけのためにあるわけじゃない。
「なぁしょうたー」
「なに?」
「お前はずっと、自由に楽しく生きろよ」
不思議な縁があってこの組で生きて行くことになったこいつに、ずっと負い目を感じていた。
ここに来る前のこいつの境遇を思えば、こうして出会えて本当によかったと心から言える。
とは言え、こんな世界に無条件に身を置かせてしまっているということについては、果たして翔太にとって正解なのだろうかと考えると、素直にうんとは言えそうになかった。
だからこそ大人になる前までは、今だけは、自由に楽しく、思うままに生きて欲しかった。
翔太だけじゃない。
ここで生きていてくれる全員にそう思う。
俺ができない分、お前らだけでも、いつまでも幸せでいてほしい。
長いこと一人で考え事に耽っているうちに、再び眠気に襲われた。
それに抗うことなく、ゆっくりと瞼を下ろしていった。
狭くぼんやりとした視界の中に、不思議なものを見るように俺を覗き込む翔太の顔があったような気がした。
ふっかはあれからずっとなんにも喋らなくて、今また寝ちゃった。
変なの、って思いながら部屋を守ってたら、ついにあいつが来た。
障子の薄い紙のとこに、黒い影が映ってたんだ。
かぜだ。
そう思った。
こいつを倒してふっかを守ってやる。
それに、あいつに勝てば俺が一番強くなってる。
開いたら一気に突っ込む。
やってやる、って気合いを入れて、そいつが入ってきた瞬間に飛び込めるようにしゃがんで待ってたとき、そこに立ってた奴が障子を開けた。
「っ!!」
「翔太ー、もうすぐご飯だよー」
「! …なんだ、佐久間か」
「およ??」
「やっとかぜが来たと思ったのに」
「かぜ?風邪は来ないよ?」
「え。来ないの?じゃあどこにいんの?」
「今はね、ふっかの体ん中にいるよ」
「?」
「ふっかね、今戦ってんの」
「寝てるのに?」
「体の中から攻撃してくる風邪をやっつけてんだよ。あいつら寝てるときじゃないと倒せないんだよねん」
「じゃあいっぱい寝たらふっかが勝つ?」
「うん!勝つ!絶対勝てる!だから、今はゆっくり寝かしといてあげよ?」
「でもふっか苦しそう。死なない?一人でいいの?」
「大丈夫。ふっかは強いから」
「……うん、わかった」
「優しいなぁお前は」
「…別に」
「んん“ーっ!ちょたぁ!ちょた!ぁっこーっ!」
「ん。おいで」
「んきゃー!あきゃ!」
ふっかのかぜは、俺じゃ倒せないみたい。
ふっか頑張れ、って心の中で思ってから涼太を抱っこして居間に戻った。
みんなで康二が作ったご飯を机に並べて、お箸も綺麗に置いて、やっと夜ご飯の準備が終わった。
それに、居間も廊下もぴかぴかで綺麗になってた。
「はぁ…疲れたぁー。ねぇめめー、僕たちだけでもなんとかなるもんだね」
「うん。風呂も廊下も、全部綺麗にできたね」
「照兄、米買ってきてくれてありがとーな」
「ううん、こんくらい任せてよ。それより、なんにも手伝えなくてごめんね」
「全然、照は今日も現場だったんだし。いつもありがとうね」
「阿部ちゃんも手伝ってくれてありがとーな」
「いえいえ、佐久間も坊見ててくれてありがとね」
「ううん!全然!ちょー楽しかったよ!」
みんなは疲れたーって言ってるけど、すごい楽しそうに笑ってた。
組長が帰ってくるからなのかな。
俺もちょっと楽しみだった。
涼太が喋れるようになったこと、歩けるようになったこと、早く教えてあげたいんだ。
「それから、翔太ー」
「?」
涼太の手を支えて一緒に歩く練習をしてたら、阿部ちゃんに呼ばれた。
振り向いたら、みんなが俺を見てた。
「なに?」
「ふっかのこと、守っててくれてありがとね」
「「「ありがと!」」」
「…?」
なんでかわかんないけど、みんなからありがとって言われた。
…また変な感じする…。
ぽかぽかってする…ぅー…。
「…別に、俺がそうしたかっただけ…」
そうやって言ったら、 みんなは笑った。
かゆい…。
むずむずするから全然違うとこを向いたら、壁についてる時計が見えた。
針が一番上に帰ってきそうだった。
短い針は6のところにいる。
こたつに入ってゴロゴロしてるみんなに教えてあげなきゃ。
「ねぇみんな、六時だよ」
「「「え!??!やば!!」」」
「ちょちょちょ!!お出迎えお出迎えッ!」
「みんな急いで!!」
「ちょッ!?ぅわッ?!靴引っかかった!」
「俺の靴どこ!?」
「押さんとって!!落ちるて!」
時間を教えてあげたらみんな一気に起き上がって、玄関まで走っていった。
誰が何を喋ってるのかわかんないぐらい、みんな同時に何か叫んでて、慌ててる。
涼太を抱っこしてるから、みんなと一緒に出て行ったら危ないなって思って、最後に居間から出た。
玄関の段差はすごい高くて転びそうになるから、涼太を床に置いて靴を履いた。
立ち上がってから涼太をもう一回抱っこして、みんなが並んでる一番後ろに俺も立った。
車が来るまでは、みんな小さい声で喋ってた。
「今日やばい…超慌ただしい…」
って、ラウールが言った。
「気が休まんない…いや、めっちゃ嬉しいんだけどさ…」
今度は阿部ちゃんがそうやって言った。
「こういうときに感じるよね…」
目黒が上を向いて、はぁーって息を吐いた。
「いやほんとに。やっぱあいつすげぇよ」
佐久間は目黒が言ったことに返事してから、うんうんって首を何回も縦に動かした。
「俺らが余裕持って動けるようにって、今までずっと時間も役割も振ってくれてたんやろな…」
康二が下を向きながらぽそぽそ喋った。
「俺たち、ふっかがいなきゃダメだね…」
最後に、照が泣きそうな顔をした。
みんな落ち込んでるみたい。なんでだろ。
さっきまで組長帰ってくるって楽しそうにしてたのに、今は元気がない。
気持ちがたくさん変わっていくから、面白いなって思った。
みんなの話を聞いてたら、遠くからぶーんって音が聞こえてきて、門のところから車が入ってきた。
組長が帰ってきた。
「涼太、よかったな。帰ってきたぞ」
「んぱ!」
涼太が足をぷらぷらさせてるとき、車のドアが開いて、中から組長が出てきた。
みんなはいつもみたいに腰を曲げて、
「親父、お帰りなさいやせ!!」ってでかい声で組長をおでむかえした。
いつもは、ふっかが「親父」って言ってからみんなが「おかえり」って言うけど、今日はそうじゃなかったから、声がばらばらしてた。
組長は玄関まで入ってから、くるって回って体をこっちに向けた。
「みんなただいま!お腹空いたね!」
俺たちを見てた組長の顔は、やっぱりニコニコしてた。
唐揚げを食べながら、みんなで組長とたくさん話をした。
「はぁ、康二くんのご飯はやっぱり美味しい。帰ってきたなって安心する」
「そら嬉しいわ!どんどん食べてな!」
「翔太くんは勉強楽しい?」
「うん。この間、阿部ちゃんが作ってくれたてすと?で100点取った」
「わぁすごい!毎日たくさん頑張ってるんだね」
「阿部ちゃんとラウールの勉強わかりやすい」
「そっかそっか、亮平くんもラウールくんも本当にありがとう。二人ともすごいなぁ」
「わー!嬉しい!組長に褒められちゃった!」
「そんな、恐れ多いです…」
「誰にでもできることじゃないよ。ちゃんと理解して相手にしっかり伝わるように教えられるなんて、二人ともとってもすごい!普段のお仕事もしながらで本当にありがとうね」
「はいっ!これからも任せてよ!」
「んふふ、嬉しい…」
組長は、いつもみんなをたくさん褒める。
俺のことも褒めてくれる。
みんなに褒められると体が痒くなって、どんな顔したらいいかわかんなくなるけど、組長だと、あんまりそうならない。
なんかね、ふわふわーってする。
そのあと、もっと頑張ろって気持ちになる。
変?ふしぎ?おもしろい?
なんか、そんな感じの人だなって思う。
夜ご飯が終わった後に、照が買ってきてくれたぷりん?をみんなで食べた。
甘くてぷるぷるしてた。
うまい。
涼太はまだ食えないんだって。だから、康二がヨーグルトに果物を乗せて持ってきてくれた。
「はい、りょうたー、康二くんがデザート作ってくれたよー」
「ぁむ!んぐ…んむ、んぅ!」
「美味しい?」
「んま!んみゃー!」
「ふふ、帰ってこれてよかった」
今、涼太にヨーグルトを食わしてる組長は、さっきよりもっとニコニコしてた。
組長は今、どんな気持ちなのかな。
こんなに笑うとき、人ってどんなこと思ってるんだろう。
わかんないから、隣にいる照に聞いてみようかな。
「ねぇ照、組長は今どんな気持ちなの?」
「ん?」
「すごい笑ってる。楽しいの?」
「うん、すごく楽しいんだと思うよ。それに、とっても幸せなんだと思う」
「しあわせ?なにそれ」
「難しい質問だね。うーん、そうだなぁ…。生きててよかったって思えたとき、俺は幸せって感じるかな」
「生きてて?」
「うん、今も幸せ。だって、プリンがこんなに美味しいんだもん」
「? 照が言ってることわかんない」
「んふふ、幸せの形は人ぞれぞれだからね。翔太の幸せはなんだろうな、これからみんなと一緒に見つけてこうよ」
生きてるって、なんだろう。
ぷりん食べるのも、みんなと喋るのも、涼太と遊ぶのも、全部生きてるからできる。
生きてるの反対は、死んじゃうこと。
ユキおばさんと会えなくなっちゃったときのこと、思い出した。
佐久間があのときたくさん泣いてたのは、ユキおばさんとそういうのができなくなっちゃうからだったのかな。
さっき、ふっかを見てたら怖くなった。
もう一緒にご飯食えなくなっちゃうのかな、一緒にお風呂入れなくなっちゃうのかな、ふっかとも喧嘩したいのにできないままになっちゃうのかな、ってもやもやした。
だから、ふっかのとこにいたかった。
無くなっちゃうのがやだったんだ。
かぜがふっかに悪いことするって思ってたから、来たら倒すんだって待ってた。
でも、ふっかは起きてくれたから、よかったってすごく強く思った。
あと、起きたのを、自分の目で見れてよかった。
全部、俺が生きてたからできたことだ。
生きててよかった。
これが、しあわせってことなのかな。
「俺も、しあわせある」
「ん?どんなこと?」
「みんながずっとここにいて、俺もここで生きてる」
教えてもらったことを心の中で考えてみてから照に話したら、照はびっくりした顔をしてから、にこって笑った。
「そうだね、俺もそう思うよ」
って言った後、照は俺の頭をぽんぽんって叩いた。
今日は組長と涼太とお風呂に入った。
そのときもずっと褒められた。
たくさん褒められすぎて、どんな話をされたか忘れちゃうくらいだった。
その後は歯磨きして、三人で涼太の部屋に行った。
寝る前に組長が絵本を読んでくれたんだ。
「人魚姫」ってお話だった。
半分魚の女の子のお話。
自分が王子を助けたのに、声が出ないから伝えられないってかわいそうだなって思った。
「言いたいのに言えないの、かわいそうだね」って組長に言ったら、組長も寂しそうな顔になった。
「そうだね。この子はとっても苦しいだろうね」
「でも、自分のこと助けたら死ななかったのに、どうして王子を殺さなかったの?さっき照に教えてもらった。生きてることがしあわせなんじゃないの?」
「きっと、とても優しい子なんだろうね。自分のことよりも、大切な人の幸せを守りたかったから、辛くても悲しくても、泡になろうって決めたんじゃないかな」
「む…。自分がしあわせじゃなかったら、生きててよかったって思えないじゃん」
「ふふふ、翔太くんは優しいね。そんなにこの子の幸せを思うなんて」
「だって変だもん」
「じゃあ、優しい人魚姫を翔太くんが夢の中で助けてあげて。さ、そろそろ寝る時間だよ?」
「わかった。泡になる前に魔女やっつけてくる。こいつ倒したら呪い消えそう」
「そっちの発想かぁ、おもしろいね。じゃあ彼女のことよろしくね?おやすみなさい」
「うん、すぐ倒す。おやすみ」
布団の中に潜って、目をつむった。
海の中にいる魔女を泳いで探す想像をしてたら、眠くなっていった。
宮舘組の屋敷の最深部からは、二つの小さな寝息が聞こえてくる。
穏やかな呼吸音をしばしの間見守ると、この館の主人は静かに部屋を出て行った。
「さて、僕にも人魚くんが救えるといいな」
そう独り言ち、宮舘組の総大将は目的の場所まで歩みを進めて行った。
続
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