覗き穴

目黒は、渡辺が食べれなくなってきたと思った。

原因が思いつかない。

弱い人だとは思わない。

それだけ、何かがあったんだ。

食べて、吐いてるはずだ。

目黒に助けは求めない。

何かあったら言うって約束したのに。

少し待ってみよう。

言ってくれるかもしれない。

しばらく忙しいし、目黒もクランクインするだろうから、家に行かない。と言う。

電話やLINEはいい、待ってると言う。おかしい。会えない何かがあった？

練習日。

渡辺は大きなマスクをしてやって来た。

休憩中でも、水を飲むのに皆んなに背を向けて飲んでいる。

顔を見せたくないみたいだ。

目黒ー翔太くん。

渡辺ー何？

目黒ーマスク取って？

渡辺ー嫌。

目黒ー顔どうかしたの？

渡辺ー別に。

口数が少ない。

目が何かを訴えている。

何があった？

目黒は渡辺を見る。

渡辺ー何もない。

目黒ー吐いてるんでしょ？

渡辺ー・・。

目黒ー約束覚えてるよね？

渡辺ーん。

目黒ー言えないの？

渡辺ー・・。

肝心なことは何も言わない。

7月期のドラマのことは、解決した。本人も納得した。

一体何があった？

目黒ー何でも言う約束はどうしたの？

渡辺ー待って。

目黒ー待ってたらいいの？

渡辺ーん。

目黒ー食べてね。

渡辺ーん。

言わないみたいだ。

目黒は、渡辺が弱る前に知りたいと思う。

溺愛の鬼は健在である。

渡辺は、脅されている。

正確には、目黒とのことでお願いされている。

相手は、目黒の家の向かいの家の住人。

玄関ドアの、覗き穴からいつも目黒の家に出入りする渡辺を見ている。

渡辺が弱っている時、それでも会いに来る。

玄関のドアを開けたら、目黒が抱き寄せてきた。

そういうのが何度かあって、それを覗き穴から見ていた。

最近になって、帰る時その人は出かける。

頭を下げて渡辺は帰って行った。

その人はまた自分の家に戻る。

渡辺に会うため、タイミングをみて出て来るのだ。

仕事は何をしてるか知らない。

でも、安くはない家賃が払える人。

渡辺より4、5歳年上な感じがする。

出会う時はいつもスーツを着ている。しかもブランド品だろう。

目黒はドアを閉めてしまった後のことは知らない。

何事もなく渡辺は帰っていると思っている。

その人は「東條明典」と名刺に書いてあった。

今夜、渡辺は目黒の家に来ている。

食事はしないが、2人で引っ付いてテレビを見てまったりしている。

渡辺は、今日からしばらく来ない。

目黒ー来れるようになったら言ってくれる？

渡辺ーん。

目黒ーちゃんと食べてね。

渡辺ーん。

目黒ー送って行こうか？

渡辺ーいやいい。

目黒ーじゃあまた。

渡辺ーん。

玄関で軽くキスして渡辺は大きく息を吐いた。

手をあげて帰って行った。

東條ーやぁ。

渡辺ー・・。

東條ー決心はついたかい？

渡辺ーまだです。

東條ー僕は待てるからね。

渡辺ーさよなら。

急いでエレベーターに向かう渡辺。