テラーノベル
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第一章第一話
——再構築、完了。
その機械音声は、城崎トオルの両耳にじわじわと染みこんだ。
寝起き直後の、微妙に汗ばんだおでこを撫でるような、優しくも不快な響きだった。
トオルは、ゆっくりと目を開ける。
「……んん、あー……くっそ、またソファで寝落ち……? あれ、俺……家帰ったよな……?」
しかし視界には、見慣れた蛍光灯も、電源コードがごちゃごちゃした庁舎の休憩室もない。
あるのは、どこまでも灰色で清潔すぎる部屋。壁も床も天井も、清掃済み公衆トイレみたいにピカピカだ。
トオルは、スーツの襟元をちょっと直した。
そして誰に言うでもなく、独り言を呟く。
「え、なにこれ、なに……どこ、保健所の地下施設とか……?」
——識別完了:城崎トオル。人格コード:F12-09-C。
真上の天井から、明らかに怖い系の機械音声が降ってくる。
「……うお。え? 俺? 俺、なの?」
天井を指差して右往左往しながら、トオルは思わずスーツの胸元を探る。
名札がない。あの「市役所です!」感を演出するための白いプラスチック製のアレが。
「やば……名札忘れた。ってかここどこ!? あとF12って何!? 家電の型番!?」
動揺が強すぎて、だんだん喋り方が独りコントになる。
「これ、あれか? ドッキリ? そういうバラエティの……。いや、でも最近テレビってドッキリとかやらないし……ていうか俺、有名人じゃないし……」
声が震えている。
声を出せば出すほど、震える。
まるで“恐怖”ではなく“空気読めないことへの不安”でガタついている。
「え、誰かいませんか? あの、もしこれ撮影中とかだったら、えー、SNSとかNGで……ていうか、SNSのアカウント持ってないんで……すみません……」
その時、唐突に視界の端で“何か”が動いた。
壁面パネルが光り、画面にトオルの顔写真と名前が映し出される。
やけにキメ顔だった。証明写真じゃない。たぶん住基カードのときのだ。
「うわ、やだやだやだやだ!!! それ使わないで!! 俺、あの時二日酔いで目が死んでるから!!!」
身悶えする三十代スーツ男。
誰もいないはずの空間で、独り身振り手振りで顔を隠す。
——誰か見てるとしか思えない。
少し経って。
やることがなさすぎて、トオルは勝手に机を見つけ、ポケットの手帳を開いた。
市職員の悲しい習性である。
「よし……まず現状整理な……」
──書いた内容は以下の通り。
【現時点の情報】
・名前:城崎トオル
・年齢:35歳
・性別:男
・職業:市役所職員(戸籍係)
・最近の悩み:部長が急にパワポ使い始めて困ってる
・最後の記憶:ラーメン屋(味濃いめ・ねぎ大盛・にんにく少し)
「うーん……これ、死後の世界……?」
パタンと手帳を閉じて、溜息。
「……ていうか、死後がこの感じだったらマジでキツい……」
その時。部屋のスピーカーから、またあの女声が聞こえてきた。
——まもなく人格評価フェーズを開始します。生存者は、読者投票により選出されます。
「読者!? え、読者!? 何!? 俺、小説になってんの!? いや、無理無理、主人公タイプじゃないし!!」
パニックになりながら、トオルは自分のスーツのポケットをまさぐる。
が、出てくるのは栄養ドリンクの空きパウチと、割引券の期限切れレシートばかり。
「……いやもう俺、今“死んでも文句言えない荷物構成”だよこれ……」
彼は震える手で、また手帳を開いた。
そこには、何の意味もなく——
「ねぎ大盛り」
「にんにく少し」
とだけ、殴り書きされていた。
【作者からのコメント】
今日から連載を始めました!新進気鋭頑張りたいです!
投票が始まるのは第一章が終わる頃なのであと10話ぐらいかな…?わからんですなぁ…
コメント
1件
今回も神ってましたぁぁぁぁぁあ!!!!!! おおおぉ!!始まったぞ!!等々!!なるほろ...ミルグラム的な?( ᐛ ) やべぇ楽しみすぎる( ᐕ) 順番的に次はうちの子かも(((( 次回もめっっっっっさ楽しみいいいいいいぃ!!!!!!!!!!!!!!!