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撮影準備が進む中で、奏太の心には一つの思いがあった。
――もう一度、過去に戻り、父を救う。
12年前に戻ったあの日、父はまだ健康だった。
もし、今度はしっかりと彼を病院に連れて行き、定期検診を受けさせることができたら、
父の命を救うことができるかもしれない。
だが、一度目の過去への戻り方が分からない以上、どうすれば再び過去に行けるのかは分からなかった。
「……何か方法はないのか?」
考えながら、病室の天井を見つめる。
その時、ふと感じた。
「俺が死にかけたときに、過去へ戻った。」
つまり――。
「今も、死に近づけば、過去へ戻れるのか?」
その可能性を考えた瞬間、心臓が強く脈打った。
それは、恐怖なのか、希望なのか、分からなかった。
奏太は、病院を抜け出し、自宅へと向かった。
父がまだ生きているうちに、どうしても話したいことがある。
家のドアを開けると、リビングの奥で父が座っていた。
ソファに腰掛け、新聞をめくりながら、コーヒーを飲んでいる。
――まるで12年前と同じ光景だった。
「お、帰ってきたのか。」
父は、穏やかな笑みを浮かべた。
「ちょっと、話したいことがあるんだ。」
奏太の真剣な表情に、父は新聞を置いた。
「なんだ、改まって。」
「……父さん、最近病院には行ってるか?」
その言葉に、父の表情が少しだけ曇った。
「なんだよ、急に。」
「行ってないのか?」
「まあ、特に問題ないしな。」
その言葉に、奏太の心臓が早鐘のように打った。
「それが問題なんだよ……。」
父が病気になったのは、まさに「問題ない」と思って検査を受けなかったからだ。
その結果、発見が遅れ、治療が間に合わなかった。
「お願いだから、病院に行ってくれ。」
奏太の声が震えた。
「何言ってるんだ、奏太。」
「いいから、検査を受けてくれ……!」
父はしばらく考え込んでいたが、やがて、ふっと笑った。
「……そんなに言うなら、行ってみるか。」
その言葉に、奏太の目に涙が浮かびそうになった。
翌日、父は病院で検査を受けた。
結果は――。
「早期の肺がんの疑いがあります。」
医師の言葉に、父の顔色が変わった。
「え……?」
「今の段階なら、治療をすれば問題ありません。」
その瞬間、奏太は心の底から安堵した。
――やっと、未来を変えられるかもしれない。
父は、信じられないような表情で自分の胸に手を当てた。
「……もし、お前が言ってくれなかったら……。」
「父さん。」
奏太は、真っ直ぐに父を見つめた。
「君の言葉が、僕を生かしてくれるよ。」
その言葉に、奏太の喉が詰まった。
――俺が、父さんを救えた。
涙が、こぼれた。
「ありがとう、奏太。」
その瞬間、光が揺らいだ。
突然、意識が遠のいた。
目の前の景色がぐにゃりと歪む。
「……これは、また……?」
まるで、前回と同じように、過去へ引き戻されるような感覚。
「奏太!!」
父の声が、遠くで聞こえる。
視界が、完全に闇に沈んだ。
次に目を開けたとき、奏太は見覚えのある場所にいた。
――高校の映画部の部室。
「……戻ってきたのか?」
机の上には、12年前の撮影スケジュールが置かれていた。
窓の外から、部員たちの楽しげな声が聞こえる。
「過去に戻ることができた……。」
だけど、今回の戻り方は、前回とは違う感覚だった。
何かが――決定的に変わったような気がした。
奏太は、そっと胸に手を当てた。
「今度こそ、未来を変えてみせる。」
そして、もう一度、映画を完成させるために動き出すことを決意する。