再び、過去に戻ることができた――。
奏太は、高校時代の映画部の部室で目を覚ました。
12年前の机の感触、窓から差し込む夕陽、仲間たちの笑い声――。
全てが、前に戻ったときと同じ光景だった。
しかし、今回は明らかに「違う」ことがあった。
前回戻ったときよりも、心が落ち着いている。
初めて過去に戻ったときは混乱ばかりだったが、今回は違う。
なぜなら、奏太は一度、父の未来を救うことに成功しているから。
「……この時間を、必ず生かす。」
奏太は静かに決意を固めた。
放課後、校舎の裏庭へ向かった。
そこには、いつものようにあかりがベンチに座り、本を読んでいた。
「……あかり。」
呼びかけると、彼女はゆっくり顔を上げた。
しかし――。
「……あなた、誰?」
奏太の心臓が、一瞬止まったように感じた。
「え?」
「ごめんね、私……君と知り合いだった?」
彼女の目には、純粋な疑問が浮かんでいた。
まるで、奏太のことを知らないかのように。
――おかしい。
前回、過去に戻ったときは、あかりは普通に話してくれた。
それどころか、未来でも「私も病気なんだ」と告白してくれた。
なのに、なぜ今、彼女の記憶がリセットされている?
動揺を隠せないまま、奏太はあかりの隣に座った。
「……もしかして、本当に俺のこと覚えてないのか?」
「ごめん……。」
あかりは申し訳なさそうに微笑んだ。
「最近、よく記憶が飛ぶことがあるの。大事なことでも、ふと忘れてしまうことが……。」
――記憶が、飛ぶ?
それを聞いた瞬間、奏太の頭の中に警鐘が鳴った。
「もしかして、俺が過去に戻るたびに、世界に歪みが生じているのか?」
父を助けることができた。
過去の出来事を変えることができると確信した。
しかし、その代償として――あかりの記憶が失われている?
「……あかり、病院には行ったことあるか?」
「え?」
「その、記憶が飛ぶこと……原因を調べたことは?」
あかりは少し考え込むように視線を落とした。
「……ううん。私は元々、あまり体は強くないから……気にしてなかった。」
その言葉に、奏太は強く歯を食いしばった。
――未来のあかりは、確かに「心臓に持病がある」と言っていた。
でも、この時代のあかりは、それをまだ知らない?
いや、違う。
もしかしたら――。
「俺が過去に戻ったことで、あかりの未来も変わり始めているのかもしれない。」
奏太は、あかりの手をそっと握った。
「え……?」
「もし、君が何かを忘れてしまったとしても……俺のことは、覚えていてほしいんだ。」
あかりは驚いたように目を丸くした。
「君は、俺にとって大切な人だから。」
「……。」
あかりはしばらく黙っていた。
それから、小さく微笑んだ。
「不思議な人だね、君は。」
「なんで?」
「私のことを大切に思ってくれてるのに、私は君のことを覚えていないなんて……。」
あかりは少し寂しそうに笑った。
「でもね……不思議と、そんな気がしないの。」
「……?」
「君と話してると、何か大事なことを思い出せそうな気がする。」
彼女は、ぎゅっと奏太の手を握り返した。
「だから、また会ってくれる?」
奏太は、微笑んだ。
「もちろん。」
――彼女の記憶は失われても、また築けばいい。
何度でも、何度でも。
この時間が許す限り、俺は彼女と向き合い続ける。
その日、奏太は映画部の部室に戻り、メンバーたちと撮影の準備を進めた。
「お前、なんか今日いつもより気合い入ってるな?」
友が笑いながら言う。
「まあな。」
――俺たちの映画を、必ず完成させる。
それが、今の奏太にとって何よりも大切なことだった。
映画が完成したとき、もしかしたら、あかりの記憶も戻るかもしれない。
そして、今度こそ、彼女の未来を変えられるかもしれない。
「俺は、まだ諦めない。」
自分がこの時間に戻ってきた意味を、絶対に無駄にしない。
――俺たちの生きた証を、映画として残すために。
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