テラーノベル
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二台の車はトンネルを出てすぐの小さな広場に停車して梶と努だけが暗い道を進んだ。車の中からは気づかなかったけど空にはほとんど丸い大きな月が出ていて意外と周りを見ることが出来た。
まだ冬の季節、吐く息は白かったが震えているのは寒さのせいばかりではなかった。
「ア、アスファルトがなくなっていますね」
沈黙が怖くて努は目についたことを口にした。トンネルを出てから地面は土で道路は辛うじて車一台が通れる幅だった。
「名前は?」
「え? あ、はい……長岡努です」
普通の質問でも緊張しながら答えた。
「学生か? 歳は?」
「24歳……フリーターです……」
「大学は?」
「あ、はい。Y大です」
「それでフリーターか?」
それなりに知られた偏差値の高い大学名だったので梶は少し驚いた顔をしている。
「入った会社がすぐにつぶれて……それからなにもやる気が起きなかったのに勇気を出して風俗にいったせいで……」
「ククク」
初めて梶が笑った。雰囲気は一番怖い相手だったけど他の連中のようにすぐに暴力をふるいそうな感じではなかったので努も少し緊張が解けてきた。
それからしばらく無言で歩いているとまた梶が話しかけてきた。
「長岡……だったか? ヤクザって幽霊とかお化けを怖がっていると思うか?」
「え? それは……」
努は質問の意味を考えるが何もわからない。
「怖くはないのかなと」
だから素直に答えた。
「なぜだ?」
「えっと、人を……その、殴ったりとか……」
「殺したりするのに幽霊が怖いはずがないということか?」
「はい……」
「なるほど、確かに化けて出てくると思うと怖くて人は殺せないな」
「そ、そう思います」
妙に言葉に力が籠もった。
「……でもな、それは違うぞ。ヤクザは幽霊とかあの世を怖がっている奴ばかりだ」
「そうなんですか?」
意外だった。それはヤクザが幽霊を怖がっていることではなく、そんな言葉が梶の口から出たことがだ。
「若いころは強がって怖くないふりをするが、みんな内心では怖がっている。歳をとるとさらに酷い。宗教にはまる親分なんていくらでもいる」
「どうしてですか?」
「だからこんな状況ではあいつらはあまり期待できないということだ」
梶は問いには答えずに同行者を部下ではなく努に選んだ理由をそれとなく説明した。
そんな会話をしていると小川に掛かる小さい橋についた。
「ここから村みたいですね」
車で通ったので強度の心配はないはずだけど、努は恐る恐る小さな木の橋を渡った。
橋を渡ると道の左右に家が建っている場所についた。右手は普通の大きさの一軒家で木とかやぶき屋根で出来ている。左手は家というより物置のような小さな建物でこちらは全部木製だ。
「かなり田舎っぽいですね。江戸時代の農村みたい」
梶の沈黙に耐えられず努は一人で喋っていた。梶はしばらく周りを見たあと物置のような小さな建物を覗いた。
「トイレか」
二畳ほどの大きさの木製のトイレは扉がなく中を覗くとツンとしたアンモニア臭がした。
次に向かったのは右手にあった家だ。いかにも昔話に出てくる農家の一軒家というその家は幅10メートルほどで高さは二階建てくらいある。壁は木材で屋根はかやぶきで作られていた。
「こんな家ってまだあるんですね……」
努を無視して梶は懐から携帯電話を取り出した。スマホではなく今では珍しいパカッと開く携帯電話だ。カメラを起動するとフラッシュモードにしてライトとして使った。
梶はゴンゴンと乱暴に何度か扉を叩くと返事も待たずにその扉を開けた。すぐには入らず様子を見ている。
「入るぞ」
いくぶん小声で言うと堂々の中に入っていった。努も緊張しながら後に続く。二人とも無言で中を見渡した。
扉を入ってすぐに土間があり大きな水瓶が置いてあった。梶はしばらく見渡すと靴を脱がずにそのまま板間の部屋に上がった。罪悪感を覚えながら努も靴を履いたままあとに続く。
十畳ほどの板張りの部屋には中央に囲炉裏があり奥にボロボロの布団が一枚敷かれていた。左右の壁には障子窓があり、うっすらと外からの月明かりが入っている。小さな木製の机の上には茶碗と木皿が置いてあり壁際の棚には布や服など生活用品が雑多に置かれている。
人は……いなかった。だが、確かに人の気配があった。
「だ、誰もいませんね」
努は怖さを誤魔化すために小声で話しかけたが梶は答えずに火の消えている囲炉裏に手をかざし、次に奥の布団をまさぐった。
「布団はまだ暖かいな」
「え?」
「食料もあるがテレビ……電化製品はないようだな」
梶は自分に言い聞かせるように部屋の中を調べながらつぶやいていた。
「次に行くぞ」
一通り調べ終わると一人で家を出て行く。努は慌てて梶の後を追った。
月明かりを頼りに歩くと他にも家はあったけど梶は寄らずに道を進んだ。そうしてしばらく歩くと広場に出た。車で通った道以外にそれより一回り小さい道が広場からいくつか延びている。
その広場の真ん中にポツンと一軒家が建っている。さっきと同じく木材とかやぶき屋根で出来ているが高さは低い。まるでお墓のようにどこか寒々としていた。
#因習村
八頭道尾
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#ハーレム
コメント
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第4話、読み終えました。 夜の村のひんやりとした空気が、月明かりと一緒に伝わってきました。特に印象的だったのは、梶さんが「ヤクザほど幽霊を怖がる」と語るシーンです。怖いと思われる人ほど内面に弱さを抱えている——その逆説が、この世界の緊張感をより立体的にしています。布団がまだ暖かい…という描写も背筋が冷えました。続きが気になります。