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#怪異
イキリ火の玉
946
「入るぞ」
梶は、今度はノックもせずに扉を開けて中に入った。努も続いて中に入ったが、その異様な雰囲気にすぐに気がついた。
「こ、これって……」
ゴクリ。生つばを飲み込む。
「拷問部屋だな」
梶は冷めた声で答えた。ほとんど月明かりの入らない部屋を携帯電話のライトで照らしている。
地面には黒くて丸い石が敷き詰められており壁の棚には刃物や小さな熊手のような器具が置かれている。
それだけならただの作業部屋だが部屋の中央には木製の椅子が置かれていた。
座る部分には穴が空いており椅子の下には薄汚れた木の桶が置いてあった。そして肘掛けと脚の部分に革紐が巻かれて、いかにも人を拘束していた雰囲気だ。
「うわぁ……」
棚の道具を見て努は顔をしかめる。刃物、熊手、ペンチ、ドライバー、五寸釘、細長いドリルのついた器具。どれも容易く傷みが想像できた。
「やばいっすね」
「この村は色々と問題がありそうだな」
長居はせずに拷問屋敷を出ると努は白い息とともに澱んだ空気を吐き出し冷たい外の空気を吸い込んだ。
「車に戻るぞ」
「あ、はい」
しばし無言で歩く。出られない村。人のいない民家。拷問屋敷。あまりに沢山のことがありすぎて努の頭は混乱していた。
「長岡、どう思った?」
梶が訊いてきた。
「そ、そうですね……人はいなかったですが気配はあったというか……」
「例えば?」
「え? 例えばって?」
「考えろ」
「は、はぁ……」
梶もわかっているはずなのにと思ったが努は考えながら答えた。
「部屋のホコリ具合というか汚れ具合というか、廃屋みたいな感じじゃなくて誰か住んでいる程度の汚れかなと」
「他には? 気づいたことは何でもいい」
「は、はい」
何となく試されている気がした。もしここで頭が悪い、役に立たないと思われたら……努は必死に考えた。
「電化製品……というか電気、それに水道やガスがありませんでした。それと人は隠れているとかどこかに出かけているというより、消えた……そんな感じがします」
「拷問部屋については?」
「えっと……」
陰惨な拷問道具と、床に敷き詰められた砂利石。
「えっと……単純に犯罪者を懲らしめるというより……なんというか、儀式というか」
思いつくまま口にした。
「なるほど……」
車が見えてきたところで梶は足をとめる。
「長岡、俺たちのおかれている状況、そしてこの村はなんだと思う?」
「え?」
努は返答につまった。頭に浮かんだのはあまりにも突飛だったからだ。
「どんなことでも素直に思っていることを話せ」
「あ、はい……僕、あの、よくネットで怪談とかも読んでいて、その中で怪しい場所に迷い込んで出られなくなったみたいな話があってこの村はそんな印象です」
馬鹿馬鹿しい。自分でもそう思う。しかし、それが一番素直な感想だった。
「……俺も同じ感想だ」
意外な言葉に努は思わず梶を見た。冗談を言っている顔ではなかった。
「車に戻るが余計なことは言うな。わかったな?」
「はい」
努が大きくうなずくと二人は車に向かって歩く。
「長岡」
「はい?」
「考えろ。常に考えろ。運も腕力もない奴は考えることだけが武器になる」
「は、はい……」
梶がなにを言いたいのかわからなかったけどそれはとても大事なことに思えた。
コメント
1件
あ、このエピソード重いですね…。拷問部屋の描写が生々しくて、ぞっとしました。でも一番気になったのは「儀式っぽい」って努が言った瞬間。砂利石や椅子の穴とか、単なる拷問じゃないものがありそうな気配がして。あと梶さんの「考えろ」って台詞、凄く効いてますね。まだ5話なのに既に世界観の密度が濃くて、この村に何が起きたのかますます知りたくなりました。続き、楽しみにしてます!