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コメント
3件
まっじで最高です!!楽しみぃぃ、、
8話目もよろしくお願いします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
昼のキャンパス。太陽の光が廊下を温かく照らす中、レトルトの胸は勝手に早鐘を打った。
視線の先にはキヨ。彼の無邪気な笑顔や、ふとした仕草――それだけで、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
目を合わせたい。触れたい。
でも、夜のことを思い出して気恥ずかしくなり目を逸らしてしまう自分。
それだけではない。
昼間のはずなのに、キヨの感情が、まるで波紋のように自分の胸に届く。
焦り――。
嫉妬――。
独占欲――。
まるで見えない手で胸を掴まれるような感覚に、レトルトはぞくぞくと震える。
息を飲み込み、無意識に唇を噛み締める。
「……キヨくん……」
心の中で呟くだけで、さらに胸の奥が熱くなる。
昼の光に包まれたキャンパスで、レトルトの心は、夜と同じようにキヨの感覚に支配されていた。
ざわめきの中、レトルトの胸は落ち着かない。
後ろにいるキヨの、微妙に震える肩や、眉間に寄る皺――その小さな焦りや不安、苛立ちや嫉妬が、渦を巻いて自分に伝わってくる。
どうしてそんなに不安なの?
どうしてそんなに苛立ってるの?
言葉にできず、胸の奥で問いかけるレトルト。
「焦らなくても、キヨくんのこと大好きだよ…」
心の中でそっと呟くたびに、胸が熱くなる。
でも、すぐに思い出す。
おばあちゃんが言っていたこと。
「絶対に人形を持っていることを相手に知られてはいけない」
伝えたい気持ちと、秘密を守らなければならない緊張――その二つが、レトルトの胸の中で交差する。
目の前のキヨを抱きしめたい。触れたい。
だけど、人形の秘密がばれたら、すべてが終わってしまう――。
レトルトはそっと目を伏せ、胸の中で抑えきれない想いと戦いながら、静かに呼吸を整えた。
それでも、心の奥ではキヨへの想いが、昼間の光に負けずに熱く燃え続けていた。
夜の静寂の中、いつもの優しいドキドキとは違う、重くて黒い感覚が胸を貫く。
嫉妬、怒り、独占欲――キヨの負の感情が、人形を通じて流れ込んでくる。
その瞬間、首筋に鋭い痛みが走った。
「いたっ!!」
レトルトは驚いて首元を抑えた。
人形に噛み付くキヨの感覚――ぶつけられない想いを、無垢な人形にぶつけているのだと分かる。
血がうっすらにじむ首筋。レトルトの胸は締め付けられる。
人形を通して伝わるキヨの熱と、黒い感情に、どうしても応えられない悔しさで、自然と涙が溢れた。
「キヨくん…」
声にならない呟きだけが、暗い部屋に消えていく。
その夜を境に今までとは違うキヨの黒い感情が
レトルトの体に傷を付けて始める。
キヨの嫉妬と支配心は、もはや日常の一部のようにレトルトの全身を支配していた。
首筋や肩、腕、手首――あちこちに残るキヨの痕跡。痛みを伴うその傷を、レトルトはそっと指で撫でながら微笑む。友達に心配されても、その傷はただの傷ではない。キヨからの愛の証だと、胸の奥で感じていた。
おかしいことは分かっている。常識では理解されないかもしれない。
でも、傷が一つ増えるごとに、キヨへの思いは抑えきれず、さらに深く、加速していく――苦しくも、甘美で、抗えない感覚に酔いながら。
夜ごと繰り返された、痛みを伴う愛の営み。
人形越しに伝わるキヨの熱く黒い感情は、まるで息づく炎のようにレトルトの体を焼き、抗えぬ興奮とともに胸を締めつけた。触れられることのないキヨの想いが、指先や唇を通して流れ込んでくる感覚――その狂おしさに、レトルトは無意識に体を震わせ、甘く疼く心を抑えきれずにいた。
しかし、いつもとは違う感情が混ざり始めた。
焦燥、罪悪感、諦め――それらは、今までのキヨにはなかった影のような気持ちだった。痛みと悦びの中に潜む、その微かな黒を感じ取るたびに、レトルトの胸はぎゅっと締め付けられる。
「キヨくん……どうしたの?なんでこんなに苦しんでるの?もっと俺を求めて…」
小さく独り言を呟くレトルト。誰もいない自室で、涙がぽたぽたと枕に落ちる。
体はまだ興奮に震えているのに、心は痛みに満ちている。人形を握る手も、どこか力が入らず、虚ろに震えた。
その夜を境に、キヨからの行為はぴたりと止まった。昼間に感じていた胸の高鳴りや、熱はすべて消え去り、代わりに押し寄せるのは諦めと罪悪感だけ。
「どうして…。もう俺の事好きじゃないの?飽きちゃったの?」
人形の感覚も今は沈黙しており、あの夜の熱狂も、今は遠い夢のように思える。
それでも、心のどこかで、まだ諦めきれない自分がいる。
「俺……キヨくんのこと、諦められない。キヨくんが嫌いでも俺はキヨくんが好き。」
手のひらで人形を握りしめ、レトルトは小さく息をつく。
痛みも快感も、嫉妬も独占欲も――すべてを知った今、失ってしまった温もりがいかに大切だったかを、ようやく理解したのだった。
「……お願い、また、キヨくんの気持ちを感じさせて」
そして、机に突っ伏しているキヨの目の前に静かに近付いた。
「あの……キヨくん、ちょっと話せる?」
つづく