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番外編
菊葉家の茶飯事
― 雨音の旋律、銀色の約束 ―
今日の京都は、朝からしとしとと細い雨が降り続いていた。
東山の木々を濡らす水音が、屋敷の薬医門を静かに叩いている。
「……椿。雨の日は湿気で刀が傷みます。そんな風に縁側に放り出さないでください」
梅の凛とした声が、雨音に溶けるように響く。彼女は白銀の瞳を伏せ、丁寧に淹れたお茶を椿の前に置いた。
「あはは、ごめんごめん。でもさ、梅ちゃん。この雨の音を聴いていると、なんだか心が洗われる気がしない?」
椿が深紅の瞳を細め、だらしなく笑う。その隣では、蓬が退屈そうにスマホを弄り、桐が影の中で静かに刀を磨いていた。
「ウチは雨、マジ無理〜☆ 髪が湿気で重いし、テンション上がんない。……ねえ、こんな日は、パァーッとどっか出かけたくならない?」
「……無理だ、蓬。……外は本降りだ。……今は、この静寂を楽しめ」
桐の低い、深い海の底のような群青の瞳が、静かに瞬いた。
四人が一人の命を分かち合う一蓮托生の絆。こんな静かな雨の日こそ、彼らの繋がった鼓動がより鮮明に、屋敷の空気となって漂っていた。
「……ふふ。そうですね。たまには、こうして四人で静かに過ごすのも、悪くはありません」
梅が小さく微笑み、自分のお茶を一口啜った。
けれど、その視線はふと、リビングの片隅に置かれたくたびれた日用品へと向けられた。
「……ですが、椿。予備の制服のボタンも、蓬の気に入っていた紅茶の葉も、もうすぐ底を尽きそうです。……それに、あなたのマント、少し端が擦れていますよ」
「え、本当? 全然気づかなかったよ」
「……全く。これだからだらしなき当主と言われるんです。……よし。雨が上がったら、四人で四条河原町まで買い物に行きましょう。 ……椿、新しいマントを選んであげますから、覚悟しておきなさい」
「マジ!? やった〜☆ ショッピングじゃん! ウチ、新作のコスメ見たい!」
「……買い物か。……悪くない。……予備の砥石も、欲しかったところだ」
梅の提案に、屋敷の空気が一気に華やいだ。
雨音の旋律は、いつの間にか、明日への弾むような期待へと書き換えられていく。
「……あはは。決まりだね。……それじゃあ明日は、みんなでお洒落して出かけようか」
椿の穏やかな声が、止み始めた雨空に優しく響いた。
次回はショッピング。それぞれの私服はどんな感じだと思いますか?
次なる記録:― 休日、迷子と甘味 ―