テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
1件
第2話、一気に読みました!「お菓子に想いが宿る」って設定が本当に面白いですね。レンの理不尽な上司への怒りが彰人くんの腕を通じてティラミスに暴走しちゃう展開、笑いながらも「応援の熱量」ってこういうことだよなって共感しました。メイコさんのハーブマカロンで中和されるバランスも絶妙。最後の「自分の仕事ではないミスで人格を否定される覚えはない」というレンの台詞、胸に響きました。彰人くん自身にも何か過去がありそうな伏線も気になります…次回も楽しみにしてます!
#イラスト
るめ
1,950
#ワンダショ
いつき
47
46
#プロセカ
隼人, ❥ ↝💫💛😈🔥
712
※注意は第1話をご参考までに※
前回と書き方変わってたらすいません…
二次創作のため、ご本家様とは関係ありません。
第1話を読んでくれた方々ありがとうございます✨️
第2話『勇気を込めたティラミス』
カイトSide
僕はおしゃれな雰囲気のバーに訪れていた。
「ミク〜、久しぶり」
「カイト、久しぶりだね。そこの席いいよ。今日は何にする?」
ミクはコップを拭きながら聞いてきた。
「いつもの…、いや、冒険してみるのもありだよね〜。
うーん、どうしようかなぁ。ここ種類豊富なんだよねぇ。ミクのオススメは?」
「それは、カイトの気分によると思うけど?」
「気分関係なしで考えてみて〜」
「すごい無茶振りだね(笑)」
ミクは少し考えた後、
「甘い香りがする。なにか食べてきたでしょ。」
「え、!そうだけど…。そんなに〜?」
「少しだけどね。じゃあ、さっぱりした味の方が良い?」
「うん、それでお願いしようかな。」
「わかった。」
「カイト、最近何してるの?」
ミクは、カクテルを作りながら話しかけた。
「最近か〜。メイコのお店に入り浸ってるかな~。」
「お菓子屋さんだっけ?ルカから貰った事ある。」
「美味しいよねぇ。何個でも食べれちゃう。
僕的にはメイコが作ったバニラアイスの方が美味しいけどね〜。」
「カイトは甘い物だったら何でも食べるでしょ(笑)」
ミクは笑いながら、カクテルをすっと置いた。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。いつも飲まない見た目だな〜。どんな名前?」
「モヒートだよ。ラムにミント、ライム、炭酸を混ぜた、清涼感のあるカクテルかな。」
カランカラン
ミクと話していると誰かがお店に入ってきたみたい。
「ちょっとごめんね。接客してくる。」
「はーい。」
ミクが作ってくれたモヒートは、爽やかですっと気持ちが切り替わるような味だった。
それにしても、ミクも上手になったな〜。
数年前の開店準備なんて、飲めるような味じゃなかったし(笑)
これはミクには言えないけどね〜。
メイコが驚きながらメニュー作らないとって焦ってたな〜。
そう思い出しながら、グラスを傾けていた。
「カイト、席が少なくて隣いい?レンとは知り合いだったよね?」
「うん。大丈夫だよ〜。」
ミクは、ほっとした顔になって戻っていった。
レンとは半年前ぐらい?にミクのバーで知り合った子。
最近は会う事もなかったし、連絡も取り合ってなかったから本当に久しぶりだな〜。
確か、内定が取れたって喜んでたから新社会人か〜。
どうしてるかな?
「あ、カイトさん。久しぶりです…。」
「久しぶり〜、ってどうしたの?」
久しぶりに見たレンの顔は、僕の記憶のレンと見違えるほど、ボロボロに見えた。
すごく元気がないみたいだし、どうしたんだろう…?
「レン、いつものでいい?」
「あ、うん。お願いします。」
ミクは作りながらレンに話していた。
「今日、いつもより疲れてるね。また残業?」
「うん。頼まれちゃった。」
「え、レンは断らないの?」
僕はボロボロになるまで断らない意味がわからなかった。
「……断れたらいいんですけどね。」
レンは困ったように眉を下げた。
「レン、溜め込まないで僕たちに話してくれない?」
僕はレンをこのままにしておけなかった。
◇ ◇ ◇
レンSide
僕は、少し考えて、ミクやカイトさんに話を聞いてもらうことにした。
「あんまり、聞いててもいい話じゃないですけど…」
僕は内定をもらえた部署、総務部で働き始めた。
だけど、僕の上司は、本当に理不尽だった。
新社会人だからって、何をしても許されると思って、毎日毎日、大声でみんなの前で怒鳴られた。
会議の資料コピーも何冊作るとか、どう作るとかまだ教わっていない仕事なのに、『何でできないんだ、義務教育からやり直してこい』って否定されて。
別の日には、上司が書類の数字を間違えたのに、『新人のお前がちゃんと確認しないからだ!』と僕のせいにされて、深夜まで残業させられた。
上司が帰った後に、助けれなくてごめんねって他の先輩たちが手伝ってくれてるからなんとか続けれていて。
僕もおかしいと思って、断ろうとしたこともあった。
勇気を出して「それは僕の担当ではなく…」と言いかけたら、「上司の言うことに口答えするな!」とさらに激怒された。
「それから毎日、会社に行くのが怖くて、朝になるとお腹が痛くなるんです。」
そんな話が続いてたけど2人は僕の話を聞いてくれた。
「そうだったんだ…。レンは、よく辞めずに頑張ってたよ。
よし、僕の行きつけの最高のお菓子屋さんに連れて行ってあげるよ!」
「それがいいかもね。レン、それ飲んでカイトについて行って。
飲み物代はカイトの奢りでいいから。」
「えぇ〜?そこはミクの奢りじゃないの?」
「カイトの方が、レンの先輩なんだから。いいでしょ?」
「わかったよ〜。先にクレジットで払っておくね。」
「え、いや。それは悪いっていうか…。」
「いいのいいの。カイトに払わせておけば。」
「えっと、カイトさんごちそうさまです…?」
カイトさんは自分事のように怒ってくれ、ミクは静かに耳を傾けてくれた。
僕にとって、2人が真剣に話を聞いてくれるだけで嬉しかった。
◇ ◇ ◇
カイトSide
「もう大丈夫?」
レンが飲み終えたことを確認して、僕は話しかけた。
「はい、大丈夫です。」
「OK〜。じゃあ行こうか。ミクまた今度ね。」
「うん、またね。今度はメイコとルカも連れてきてね。」
「伝えておくね〜。」
ミクに別れを告げて、僕とレンはお店を出た。
外はすでに暗く、夜風が気持ちよかった。
「じゃあ、準備はいい?」
「え?」
僕はスマホを取り出した。
画面のドアベルが*チリン、*と鳴った瞬間、
目の前が月明かりに照らされた路地裏に変わった。
レンは景色が変わったことに驚いているみたい。
まぁ、しょうがないよね〜。
「さ、中に入ろうか。」
僕が扉を押しかけると、*カランカラン*とドアベルが店内に鳴り響いた。
◇ ◇ ◇
彰人Side
ドアベルの音がして、振り返ってみればカイトさんがいた。
「……カイトさん? なんで裏ルートから来るんすか。」
「裏ルート、僕でも来れちゃったみたい〜」
「ちょっと、営業妨害辞めてください。あれ、横にいるの誰ですか?」
カイトさんの隣には、頼りなさそうに細い肩をすぼめた、金髪のストレートヘアーの男の子がいた。真新しいスーツを着て、ネクタイは歪んでいる。
そして、今にも泣き出しそうな顔でカイトさんを見ていた。
「そうなんだよ〜、彰人くん!メイコ!助けてよ〜!
僕の飲み友達のレンが、会社でこき使われてボロボロなんだよ〜」
カイトさんが焦りながら、レンと呼ばれた男の子の肩を掴みながら言った。
「カイト……。あなた、スマホの裏ルートを勝手に使って人を連れてきたの?」
俺の後ろにメイコさんが般若の笑顔で立っている。
カイトさんは一瞬で青ざめ、案の定、俺を指差した。
「わっ、メイコ! 違うんだ! レンがあまりにも『もう限界です…』って言うから、彰人くんたちならなんとかしてくれると思ったの〜!」
「俺を巻き込むんじゃねえよ、カイトさん!!…でも、今日のお客さんはレンってことですよね、メイコさん。」
「裏ルートから来れたわけだし、そうなるわね。」
このお店に裏ルートから来れるのは、何かしらの『願い』を抱えた一握り。
特別枠なのか、カイトさんに連れてこられたわけだが、レンはその一握りに入っている。
「…そうだよなぁ。レン、どんな願いを持ってるか話せるか?」
レンはポロポロと涙を落としながら、全て話してくれた。
「カイトさんに『もう限界です』って言ったら、気づけばここにいて……。僕、はっきり『嫌だ』って言い返せなくて、いつも俯くことしかできない自分が、本当に情けなくて…っ」
「なるほどな。そのクソ上司、社会人の前に人間として終わってんな。よく今まで耐えたよ、レン。…で、レン。お前はその上司をどうしたい? ぶん殴って会社辞めたいか?」
「えっ!? 暴力はダメだよ…! それに、仕事自体は一生懸命やりたいから。ただ……」
レンが言葉に詰まると、メイコさんが優しく微笑んで言葉を引き継いだ。
「そうね、暴力じゃ何も解決しないわ。…レン、最後に私からひとつ、質問させて。あなたは、その会社で、本当はどうなりたいの?」
レンはぐっと拳を握りしめ、涙を拭って本音を絞り出した。
「僕は……新社会人だからって理不尽に潰されたくないです。間違っていることには『違います』ってちゃんと言い返して、自分の仕事を、【正当に評価されたい】…! ちゃんと前を向いて、自信を持って働ける強い男になりたいんです!」
メイコさんは満足そうに頷いた。
「よく言えたわね。彰人くん、オーダーは『正当な評価』と『芯の強さ』
彼の背中をガツンと引っ張り上げる、最高のティラミスを作りましょう。」
俺が厨房へ向かう後ろで、カイトさんが「やったー! 彰人くんのティラミス! 僕の分もある!?」とはしゃいでいた。
メイコさんに「あるわけないでしょ、カイトは後で皿洗い!」と怒られていたが。
メイコさんの考えで、レンにはカイトさんと待ってもらうことにした。
「――もっと強く、気持ちを伝えれるように!」
深夜の厨房。
俺は、凄まじい勢いでボウルの中の生クリームをかき混ぜていた。
ティラミスの本来の意味は、イタリア語で「私を元気づけて」「私を上に引っ張り上げて」
新社会人として理不尽に踏みつけられているレンの背中を、ガツンと上に引っ張り上げてあげるには、これ以上ない最高のお菓子だ。
だけど、今の俺の頭の中は、レンが語ったあのクソ上司への怒りで完全に沸騰していた。
新人のミスをみんなの前で怒鳴る?他人のやらかしを押し付ける?ふざけんじゃねえよ。社会人とか上司とかいう前に、人間として絶対に許せねぇ…!
あんな理不尽な奴にはな、これくらいガツンと言い返してやるんだよ!
シャカシャカ、と激しい音が厨房に響く。
その間も、レンが悔しそうに俯いて涙をポロポロ流していた姿が焼き付いて離れなかった。
負けんじゃねえ。間違ってることには、間違ってるってはっきり言って、お前の存在を認めさせてやれ!!
その言葉が、俺の胸の奥に眠る「別の重たい感情」の引き金を引いてしまったみたいだ。
気づかないうちに、俺自身の過剰な情熱が、指先を通じて生クリームの中にドバドバと溶け込んでいく。
「よし、これで完璧に気合いが……」
「…彰人くん。表情が、完全に『全員ぶっ潰す顔』になってるわよ。」
すべてを見透かすようなメイコさんの声に、ハッとして顔を上げると、腕を組んでジト目で俺を見ていた。
「え?いや、レンのために気合いを入れようかと…」
「気合いが入りすぎて、クリームがボウルの中で怒り狂ってるわ。
彰人くん、あなたのその熱すぎる想い、ちょっと多すぎないかしら?」
「…大丈夫だってメイコさん!これくらいパンチが効いてないと、あのクソ上司は論破できねぇよ。」
俺はそう言い張りながら、マスカルポーネチーズと生クリームを合わせ、コーヒーを染み込ませたスポンジの上にたっぷりと重ねていった。最後に、ほろ苦いココアパウダーをこれでもかと振りかける。
「できた。特製『上司を黙らせるティラミス』だ!」
オーブンを使わないお菓子だからこそ、俺の生々しい感情がそのまま100%閉じ込められた、取扱注意すぎるティラミスが完成してしまった。
メイコさんはそれを見て、「……本当に大丈夫かしらね」と、少し心配そうに顎に手を当てていた。
――3時間後。
レンが帰った後の厨房で、俺はボウルの端に残ったクリームを、何気なくスプーンですくってペロッと舐めた。
その瞬間。
「……ッ!!???」
脳天を激しい衝撃が突き抜けた。
頭の中に流れ込んできたのは、優しさや安心感なんて微塵もない、超狂暴な戦闘意欲だった。背中にどっ、と冷や汗が噴き出す。
「ま、まずい…!!!メイコさん大変!!俺、レンへの応援に熱が入りすぎて、クソ上司どころか会社ごと爆破しかねない『国家転覆レベルの超暴走の味』になってる!!」
「なんですって!?」
「彰人くん、あれほど想いの量は気をつけてって言ったのに…!」
俺の絶叫を聞いたメイコさんは、顔を驚きに引きつらせた。
だが、流石メイコさんと言いたいほど、メイコさんは冷静だった。
「落ち着きましょう。今から私が、その強すぎる攻撃性を中和して、ちょうどいい『芯の強さ』に落ち着かせるお菓子を焼くわ!」
「ええっ!? レン、もうお菓子持って帰っちゃったよ!食べたら大変なことになるんじゃ…!」
カウンター席でクッキーを口に詰め込んでいたカイトさんが、ガタッと立ち上がった。
「カイト、つまみ食いしてる場合じゃないわ!彰人くん、あなたも行きなさい!二人でなんとしてでも、レンがお菓子を食べる前にここへ連れ戻すのよ!」
メイコさんは驚異的なスピードで小麦粉やハーブをボウルに投入しながら、俺たちを鋭い目で睨みつけた。
「責任重大じゃん!道連れにするんじゃなかった〜〜!」
「うるせぇカイトさん、走るぞ! レンがテロリストになる前に止めるんだよ!!」
俺とカイトさんは、午前3時の『シュクル・エ・シュール』のドアを飛び出し、夜の街へと全力疾走した。カイトさんと俺の影が、深夜の住宅街を猛スピードで駆け抜けていく。
――レンのマンションの前。
「ハァ、ハァ……ここ、ここがレンの部屋!」
カイトさんが合鍵を使ってレンの部屋に向かった。
「レン、それ食べちゃだめ〜!!」
カイトさんが叫びながらドアを開けた、まさにその瞬間。
パジャマ姿のレンは、スプーンですくったティラミスを、ぽかんとした顔のまま口に放り込んでいた。
モグモグ……
「あ」とカイトさんが短い悲鳴を上げる。
一足遅かった。レンの喉が、コクンと音を立ててティラミスを飲み込む。
「…なにしてるの。夜中に人の部屋にドカドカ踏み込んできて、大声出しやがって」
ピキッ、と部屋の空気が凍りついた。
さっきまで困ったように眉を下げていた金髪ストレートの男の子は、どこへ行ったのか。
見たこともないような鋭い目で俺たちを睨みつけてきた。
「レ、レン〜…?なんか目が怖いんだけど…」
「あ? 先輩だからって調子乗ってんじゃねぇよ。」
レンがパジャマの袖をまくり上げ、ドスの利いた声で俺たちに一歩詰め寄ってくる。
新社会人の面影なんて微塵もない。
「ひっ……! やばい、お菓子の効果が効きすぎてる!カイトさん、捕まえろ!!」
「うわああん! レン、落ち着いて〜〜っ!」
「あぁ!? 触んじゃねぇよカイトさん!!」
暴れるレンの両腕を、俺とカイトさんは必死の形相でガシッと掴んだ。
「離せよ! 明日会社行って、クソ上司の胸ぐら掴んで組織ごとぶっ壊してやるんだよ!!」
「ダメだレン! お前がテロリストになっちまう! 頼むから一回落ち着けって!!」
俺とカイトさんは二人がかりで必死に羽交い締めにした。
「カイトさん、早くスマホ!! 早く店に戻るぞ!!」
「う、うん! レン、ちょっと大人しくしてて〜〜!!」
カイトさんが、暴れるレンの前にスマホの画面を無理やり突きつける。
画面から『*チリン*』と激しいドアベルの音が響き、微かなハーブの香りが辺りを包んだ。
視界がぐにゃりと歪む。
カランカラン!! とお店のドアベルが派手に鳴り響いた。
「ハァ……ハァ……っ!メイコさん、連れてきた!間に合わなくて一口食っちまった!!」
床に、3人まとめてもつれ込むように倒れ込む。
レンは、すぐにガタッと起き上がり
「あぁ!?ここはどこだよ!!」と、鋭い目で厨房を睨みつけた。
その時、厨房からメイコさんが、ティラミスを載せたトレイを手にして現れた。
「あら、本当にオラオラ系になっちゃって。彰人くん、あなたの想いの量は、国家転覆レベルって本当だったのね。」
「メイコさん、のんきに感心してないで早くレンを!」
床にへたり込んだまま叫ぶ俺の横で、メイコさんは暴れるレンの前にすっと立ち、微笑んだ。
「メンチ切ってんじゃねぇぞ。」
床から立ち上がり、メイコさんに向かって凶暴にすごむレン。
だが、メイコさんは北極の氷山のような冷たい微笑を浮かべた。
その場にいる全員の背筋が凍りつくような、凄まじい大人のプレッシャーだ。
「あら、新社会人のくせに、ずいぶんと威勢がいいお口ね。そんなお口には、これがお似合いよ。」
レンが「は?」と言いかけた、その一瞬の隙だった。
メイコさんは、レンの間合いに踏み込むと、トレイから掴み取った一口サイズのマカロンをレンの口めがけて押し込んだ。
「うぐっ…!?」
無理やり口に放り込まれたのは、ミントやカモミールなどの爽やかなハーブがふんわりと香る、緑色の小さなマカロンだった。
あまりの美味しさに、無意識のうちにコクンと飲み込んでしまう。その瞬間。
レンの体から立ち上っていた、凶暴なオーラが、シュウウウ…と音を立てて霧散していった。
「…………え?」
レンの鋭かった目が、パチパチと頼りなさそうに瞬きを始める。
パジャマの袖をまくり上げていた姿勢が、みるみるうちにいつもの背中を丸めた、困ったような金髪の男の子へと戻っていった。
「あ、あれ……?僕、さっきまで何を……?カイトさん、なんで僕、パジャマ姿でここにいるんですか?」
自分の手のひらを何度も見つめながら、気弱な声で首を傾げるレン。
「元に戻ったぁぁ!」
俺は一気に腰が抜けて、床に大の字になってひっくり返った。
冷や汗で全身の服がびっしょりだ。
カイトさんも「レンが普通のレンに戻った〜〜っ!」とレンに抱きついて泣いている。
「彰人くんの作った『暴走ティラミス』の攻撃性を、私の『ハーブマカロン』で中和し
て、ちょうどいい量に相殺しておいたわ」
メイコさんはスプーンを指先でクルリと回しながら、大の字になっている俺をジト目で見下ろした。
「これで、お菓子の効き目は完璧な黄金比率になったはずよ。…全く、今回はカイトと、彰人くんの想いの入れすぎのせいで、とんだ大騒動だったわね。」
「…うっ、ほんと、すんませんでした……」
俺が床に突っ伏したまま蚊の鳴くような声で謝っていると、レンは不思議そうに、けれど
胸の奥からじわじわと湧き上がってくる『不思議な温かさ』に気づいたように、そっと自分の胸に手を当てた。
俺の「理不尽に負けるな」という熱い応援の情熱と、メイコさんの「優しく心を包み込む」相殺の魔法。
ふたつの想いが完璧なバランスで混ざり合ったお菓子は、今、レンの一部となって、彼の心に小さくも絶対に折れない【自信の芯】を育て始めているのだろう。
◇ ◇ ◇
レンSide
ビルの隙間から差し込む朝日を浴びながら、僕はいつもと同じように会社のデスクに座っていた。
昨日までなら、朝から胃がキリキリと痛み、俯くことしかできなかった。
けれど、今の僕は不思議と安心感があった。
胸の奥には、昨日のシュクル・エ・シュールで食べたお菓子の温かさが、まだ確かに残っている。
彰人くんの熱すぎるほどの応援と、メイコさんの優しい魔法が僕の安心感に繋がっているのかもしれない。
「おい、新人!!」
静かなオフィスに、地鳴りのような怒鳴り声が響いた。
僕の、理不尽な上司だ。上司は乱雑にバインダーをレンのデスクに叩きつけた。
「この書類の数字、また間違ってるぞ! お前は本当に使えないな。義務教育からやり直してこいって何度も言わせるな!」
周りの社員たちも助けることが出来ず、ハラハラしながら見守っている。
いつもの僕なら「すみません……」と涙をこらえて縮こまるところだった。
だけど、今日の僕はもう違う。
ストレートヘアーの隙間から覗く瞳は、怯えることなく、まっすぐと上司を見据えた。
「――部長。その書類、僕の担当ではありません。隣のチームの先輩が昨日処理したものです」
静かで、けれど凛とした声が、オフィスに驚くほどクリアに響き渡った。
「な、なんだと……!? 口答えするな! 確認を怠ったお前が悪いと言っているんだ!」
顔を真っ赤にして、さらに怒鳴る上司に対し、レンはすっと立ち上がり、バインダーの該当箇所を指差した。
そこにはしっかりと、別の先輩の確認印が押されている。
「口答えではなく、事実です。僕は新社会人として、自分の仕事には責任を持っています。だからこそ、自分の仕事ではないミスで、僕の人格まで否定される覚えはありません。」
上司の理不尽な言葉に負けない、完璧な正論。
それは、昨日のような暴走した強さではなく、自分の頑張りを正当に評価してほしいという、レン自身の誇りを持った芯の強さだった。
「っ……、くそっ……!」
ぐうの音も出なくなった上司は、バインダーをひったくるように掴むと、バツが悪そうに自分の席へと逃げていった。
静まり返っていたオフィスから、「おぉ……」と小さな歓声と拍手が湧き起こる。
今までレンを助けられずにいた先輩たちが、「よく言った、レンくん!」「かっこよかったぞ!」と次々に声をかけてくれた。
レンは困ったように、けれど今までにないくらい晴れやかで優しい笑顔を浮かべた。
レンは胸の奥でそっ、と呟いた。
(…届きました。ありがとうございます、パティシエさん)
新社会人のレンは、もう理不尽に潰されたりしない。
間違っていることには『違います』とちゃんと言える、立派な一人の社会人へと生まれ変わったのだった。
第2話Fin