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#離婚
#ヒトコワ
#仕事
直樹が譫言のように漏らした「金の在り処」。
それは、かつて私と彼が初めて遠出した
海が見える古い灯台の麓にある「タイムカプセル」の中だという。
10年前
まだ私が彼を信じ、実家の異変に気づいていなかった頃。彼は笑って言った。
『ここに、僕たちの未来の幸せを埋めておこう』
私はそれをロマンチックな約束だと思っていた。
けれど、実態は違った。
彼はその頃から、私を裏切り
家族を食い物にして得た金を「いざという時の予備費」として、私の思い出と共に埋めていたのだ。
「……詩織さん、準備はいいですか。九条の残党も、この場所を特定し始めています」
九条の隠し子であり、今は私のビジネスパートナーである青年の車で、私は深夜の灯台へと向かった。
懐中電灯の光が、荒れ果てた地面を照らす。
かつて二人で座ったベンチは朽ち果て、潮風に晒されて無残な姿を晒していた。
私は、指定された場所をスコップで掘り返した。
ほどなくして、錆びついた金属製の箱が姿を現す。
(……この中に、あいつが隠した『罪の果実』があるのね)
箱を開けると
そこには驚くほど多額の旧紙幣と、いくつかの宝石。
そして、湿気でよれた一通の封筒が入っていた。
私は宝石には目もくれず、その封筒を開いた。
そこには、10年前の直樹の筆跡でこう記されていた。
『詩織。これを見ているということは、俺たちの計画……お前の実家を潰して、俺がお前を救い、永遠に支配する計画が、何らかの理由でバレた時だろう』
『でも、悲しむことはない。この金は、お前を「飼い慣らす」ための手切れ金だ。お前は俺がいなければ一円も稼げない。この金を少しずつ食いつぶしながら、俺を待て。……お前は一生、俺の所有物だ』
「…………っ」
あまりの吐き気に、私はその場に蹲った。
金、金、金。
彼は10年前から、私を対等なパートナーではなく
自分の帳簿上の「管理物件」としてしか見ていなかった。
この金さえあれば、私が自分に縋り付くと信じて疑わなかったのだ。
「……詩織さん、大丈夫ですか?」
「ええ。……ただ、あまりの気持ち悪さに呆れただけよ」
私は、九条の残党が到着する前に、その金をすべて警察に提出するための証拠品袋に詰めた。
そして、直樹の手紙だけを、ライターの火で炙った。
直樹は、私がこの金に縋ると本気で思っていたのか。
でも、残念
今の私は、あなたが隠したこの端金なんて一瞬で稼ぎ出す。
あなたの「支配」という負債は、もう私の人生から一円の誤差もなく、完済されている。
私は、空になった箱をそのまま穴に投げ戻し、土を被せた。
そこに埋まっているのは、私たちの思い出ではない。
直樹という男の、醜い自尊心の死体だ。
「行きましょう。……こんな場所に、私の貴重な時間を一秒も割きたくないわ」
私は振り返ることなく、灯台を後にした。
バックミラーの中で、灯台の明かりが遠ざかっていく。
直樹。あなたが塀の中で夢見ている「所有権」は、もうどこにも存在しない。
あなたの愛は、最初から「虚偽記載」だったのだから。
【残り46日】