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直樹が隠した「思い出の詰まった裏金」を私が警察に届け出たというニュースは
すぐに塀の中へも伝わった。
直樹を脅してその金をせしめようとしていた九条の残党たちは
獲物を失い、怒りの矛先を直樹本人へと向けた。
「……あいつ、俺たちをハメやがったな」
刑務所の作業場で、直樹を取り囲む不穏な影。
彼はこれから、自分が撒いた「嘘の金」という種がもたらす、底なしの恐怖を味わうことになる。
一方、私は父の古い友人を名乗る弁護士から、一通の封筒を受け取っていた。
「詩織さん。これをお父様から預かっていました。……『詩織が自らの力で、あの男の檻を壊した時に渡してくれ』と言われていたものです」
中に入っていたのは、古びた土地の権利書と、父の筆跡で書かれた短い手紙だった。
『詩織へ。お前がこれを見ているということは、お前はもう誰の所有物でもない、自分自身の足で立っている時だろう。
直樹君に会社を食い荒らされていたあの頃
私は唯一、お前と陽太の未来だけは彼に触れさせぬよう、この土地だけは別名義で守り抜いた。
ここはお前が幼い頃、一番好きだった小さな森の跡地だ。
金としての価値は、直樹君が好むような額ではないかもしれない。
だが、ここには一円の穢れもない、お前の「ルーツ」がある。
お前が信じる道のために、使いなさい』
震える指で権利書をなぞる。
直樹は父を「無能な経営者」と蔑み、その遺産をすべて奪ったと豪語していた。
けれど、父は最後まで、直樹という男の浅ましい計算が及ばない場所で、私を守り抜いていたのだ。
私はその足で、権利書に記された場所へと向かった。
そこは、高層ビルに囲まれた都会の片隅に残された、小さな、けれど瑞々しい緑が残る一角。
「……お父さん。ありがとう」
直樹が隠していたのは、私を縛るための「汚れた金」。
父が遺してくれたのは、私を解放するための「清らかな居場所」。
私は決めた。この土地を、私の新しいプロジェクトの拠点にする。
直樹に奪われた10年間という時間を
この場所から、新しい命と希望が生まれる時間へと「振替」してやるのだ。
私は、新しい家計簿の「特別利益」の欄に、その土地の住所を書き込んだ。
評価額は、プライスレス。
直樹の持っていたどんな宝石よりも、今の私には輝いて見える。
(直樹。あなたが檻の中で怯えている間に、私は父と一緒に、新しい世界を建てるわ)
その夜
刑務所からは、直樹が「不慮の事故」で重傷を負い、医療刑務所へ移送されたという一報が入った。
私はその知らせを、父の形見の万年筆でチェックし、静かに手帳を閉じた。
【残り45日】