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「アスミ……アスミ」
誰かが呼んでいる。アスミは目を覚ました。
「アスミ!」
いきなり明るい光が目に入り、眩しさでまた目を閉じた。「アスミ、目を覚ましたのね」
両親と姉がいる。姉は慌てて病室を出て医者を呼びに行ったようだ。「大丈夫か、大丈夫か」と父が必死になって声をかける。「……大丈夫よ、大丈夫」とアスミが応えると、母が泣き出した。
「夜になっても帰ってこないから、探し回ったのよ。川の堤防の近くで倒れていたから……」
母の言葉で、アスミは一気に記憶を取り戻した。
「……ダイは……」
小さく声を漏らすと、そこに医者と姉、そして看護師たちがやってきた。そして「アスミ!」と叫んで駆け寄ってきたのは、武臣だった。
自分を捨てた男が目の前にいる。アスミは震えた。「武臣君も心配していたのよ」と母が言う。
「アスミのお腹の中に赤ちゃんがいるって……」
両親にこんな形でバレてしまったのかと、アスミは困惑した。武臣は父の部下でもあり、両親からも好意的に思われていた。だが、彼はアスミの妊娠を告げた瞬間に冷たく拒絶したはずだ。それなのに、今ここで泣きそうな顔をしている理由が理解できない。
「赤ちゃんがお腹の中にいるのに……辛かったんだね、戸惑ったんだろうね。ごめん、もっと親身になって聞けばよかった」
そう言って武臣が手を握る。その目は微笑んではいなかったが、アスミにはそれを拒む余裕はなかった。