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あれからまた時は流れて、六年経ち、僕は十八歳になった。



「んー掃除終わり。今日は午後から授業はないから、ちょっとお昼寝しよっかな」



寮の自室に響くのは、そんなのんきな僕の声。

僕は、無事アルメヒティヒカレッジに入学することができた。それがちょうど三年前の出来事。すでに、三年生になって、あと一年勉強したら卒業できることになっている。


アルメヒティヒカレッジのほとんどの学生は貴族であり、剣術か魔法にたけた学生が多い。その中で平民は、貴族よりも頭がよくなければ目立てないし、相手にされないという過酷な環境かにいた。僕がずっと勉強をして、この学園に入れたか想像してみるが、やはりロイファー伯爵家での勉強が合格につながったのだと思う。ロイファー伯爵家に引き取られなければ、ここにはこれなかった。そう確信している。


学園は寮制になっており、二人一部屋と決められているのだが、僕の同居人はとある問題があって入学できずに、今僕は一人で部屋を使わせてもらっている状況だ。二人部屋ということもあって広くて、あるときはベッドの一段目で、ある日はベッドの二段目で寝たりと部屋を十分に使わせてもらっている。

それでも時々、この部屋にアルフレートがいたら、と想像しているのだ。



(今頃、アルは世界を救うたびに出ている最中なのかな……)



アルフレートは十六歳のときに、旅に出る。そして、二十歳になるまでに世界を救って英雄となる。それが、ゲームのシナリオだ。だから、アルメヒティヒカレッジに訪れることはない。あったとしても、この学園に魔物の王の手下が紛れ込んだという噂を聞きつけ、一次的に訪れる程度だ。重要イベントではあったが、それはゲームの中盤から後半。だから、すれ違いになってしまうだろう。

元から期待はしていなかったが、もし、会えるのなら……と何度も想像した。あの夜会から六年が経つが、彼の噂は聞けど、彼に会えたことは一度もなかった。

本当は訂正したかった。あの日のこと。謝りたい。


そんなことを考えていると、コンコンと部屋がノックされる音が聞こえた。誰だろう? と思ったが、僕を訪ねてくる人間なんて一人しかいなくて、僕は身体がこわばる。

僕が返事をしないでいると、ノックの音はだんだんと大きくなっていった。



「はいはい、います。いるから!」



と、僕は、ドアノブをひねって、扉の向こうに立っていた人物を招き入れる。ドアを開けば、そこに立っていたのは、黒髪に夕焼けのような熟れたオレンジ色の瞳を持った同級生――ランベルト・クヴァール公爵子息だった。



「遅い。生意気に、無視しようとしてただろ」

「してないって。ちょっと、昼寝してて。気づくのが遅れただけだよ……ほんとに!」

「……へえ。まあ、平民貴族だもんな。お前は」

「あはは、そうだね。睡眠は大事だから」



嫌味を言って、眉を上下させるランベルト。


ランベルト・クヴァールはクヴァール家のご子息で、この国で二大勢力である公爵家の一角。アルフレートが養子にいったエルフォルク公爵家と肩を並べる、力を持った家の出だ。

そんなランベルトが、何故伯爵家の出である僕のもとを訪ねてきたかといえば、僕がランベルトにパシリにされているからだ。

ランベルトは無断で部屋の中に入ってくると、キレイにしたばかりのベッドに腰を掛け足を組んだ。あ、と言いかけて言葉を飲み込み、僕はランベルトににこりと微笑む。すると、気持ち悪そうに舌打ちを鳴らした。



(苦手、なんだよな……それにランベルトは『悪役令息』だし)



ランベルトは、”星約”のいわゆる悪役ポジション、今でいう『悪役令息』だ。


もともと競争心と被害妄想と嫉妬心が強くて、同じく肩を並べるアルフレートのことを敵視していた。アルフレートが田舎の出だということを笑う一方で、そんな田舎から勇者に選ばれたアルフレートのことを嫌ってもいた。ランベルトは、勇者に選ばれることをひそかに夢見ていたから。

そして、ランベルトは旅に出たアルフレートとは違ってこの学園に入学してくる。冒険者にもなろうとしたが、それはクヴァール公爵が許さなかった。ランベルトはどちらかというと、剣ではなくて魔法に優れていたし、それを伸ばせるのがこの学園だったからだ。

そうして、ランベルトはこの学園で力をつけ、彼にたてつくものはいなくなった。力と権力でねじ伏せているといっても過言ではないが、彼の力は誰が見ても右に出るものはいない……そんな力を持っていたのだ。



(でも、勇者になる夢を捨てきれなくて、魔物の王にすがった……)



欲望が満たされていく一方で、アルフレートの活躍を聞くと決まってランベルトは怒り狂い、誰かに八つ当たりした。負傷者も出たが、それは権力によってもみ消されて。ランベルトはアルフレートに変わって勇者になろうとした。しかし、選ばれてもいないものが勇者を名乗ることは禁句だったし、それが罪ともされていた。そこで、ランベルトは魔物の王と手を組んだのだ。もっと言えば、その支配下に下った。そして、力を手に入れこの学園を支配下に置く。そう、それこそがアルフレートがここに訪れる要因。


偽物の勇者とアルフレートを罵って、ランベルトは自らを勇者と名乗りアルフレートと戦う。アルフレートは、ランベルトは人間だからと殺さずにいたが、魔の力を取り込みすぎたランベルトはすでに人外になっていた。助けたかったアルフレートはそこで初めて、人間を殺してしまう……と。



「それで、今日は何の用かな。ランベルト」

「様をつけろって、いってるだろ。様を! ……ったく、本当に物覚えの悪い」

「……午後の授業はなかったから。何で来たのかなって思って」



じゃあ、何で僕はランベルトに絡まれているかといえば、パシリにされているのもそうだが、彼に目をつけられたから。

彼が、僕がアルフレートと同郷のものだと気づいてしまったからだ。いつか、アルフレートを脅すいい材料となると考えたのだろう。まさに、悪役らしい考え方だ。



(逃げることもできたけど、でも)



この学園にいることは知っていたし、僕がもっと隠れて生きていれば目をつけられなかっただろう。でも、目をつけられてしまったからには逃げられなかった。しかし、僕にも考えがあるのだ。こいつと関わる理由が。



(彼を、更生させれば……そこまでいかずとも、ちょっと意地悪な人間でいてくれさえすれば。アルが傷つかなくて済む)



アルフレートに人殺しなんてさせない。


だから、僕は嫌だけどこいつと関わることにした。僕が機嫌をとって、手綱を握って。ランベルトが闇に落ちないように見張ること。それが、僕に与えられた使命だと感じていた。



「何もなきゃ、来ちゃだめなのかよ……」

「何か言った?」

「何でもない! 貴様の部屋は一人部屋でいいな、平民貴族。俺様の部屋と交換しないか?」

「できるものなら、してあげたいけどね。僕一人じゃ広いし」

「それか、俺様が貴様の同居人になってやってもいいぞ」



と、ランベルトはふふん、と鼻を鳴らしていった。


それは、何のメリットがあるのだろうか。僕が首を傾げていると「嫌なのかよ」と、どすの利いた声でランベルトは僕を睨みつける。



「いや、とかじゃないけど。ランベルトが嫌じゃない? 一人部屋がいいんでしょ?」

「貴様の監視ができる」

「僕、何かした?」

「裏で、アルフレートとつながっているかもしれない」



ランベルトは、彼の名前を口にして、拳を震わせた。

彼は、アルフレートに会ったことがあるのだろうか。にじみ出る負のオーラにあてられ、僕の心も荒んでいく。自分の好きな人が、ここまで嫌われているのを聞くのは正直辛かった。

僕が、アルフレートとつながっているなんてそんなことはない。手紙のやり取りどころか、今互いがどこにいるかすらもわかっていないのだから。僕に付きまとってもアルフレートの情報は何一つ出てこない。まあ、メリットとして、いざアルフレートがここにきたとき、人質にとれるかもしれないけど。



(でも、ランベルトを『悪役』にしたりしない)



周りから、僕はどう思われているかわからない。ランベルトの後ろをついて回っている腰巾着と思われているかもしれない。

ランベルトに気に入られようとした人はいたけれど、彼の性格に愛想つかして離れていった。自分じゃ手に負えないって思ったんだろう。それが少しだけかわいそうに見えたのだ。そういう理由もあって、僕は彼と一緒にいるのかもしれない。

アルフレートは勇者で、僕は悪役令息の腰巾着になってしまったわけだ。



「……えっと、何?」

「な、何でもない! 自惚れんな、平民貴族!」

「な、何を自惚れればいいの?」



視線を感じランベルトのほうを見ると、熟れたオレンジの瞳が僕をじっと見ていた。顔に何かついているのかなと口を開けば、彼は顔を真っ赤にして僕を指さす。怒鳴りながら、ベッドを叩くのでほこりが舞う。

やめてほしいなあ、と思いながらも、感情の起伏が激しいランベルトのことをすべて理解するのは難しかった。単純に見えて、その実、彼の感情は複雑だ。劣等感とか、嫉妬とか。家からの期待、とかも。僕なんかじゃ分からないものを一杯抱えているに違いない。



「ハッ、それで、ここに来た理由を言っていなかったな。平民貴族」

「その、平民貴族っていうのやめない? テオフィルでいいよ。それか、ロイファー子息、とか」

「……っ、き、貴様の名前などよんでやるものか。貴様など、平民貴族で十分だ!」

「そ、そっか」



あまり、呼ばれたくないあだ名ではあるが、彼がそうだというのなら、我慢するしかないだろう。事を荒立てたくないし。

まったく、とランベルトはため息をついて、わざとらしく額に手を当て首を横に振った。彼は、僕が平民出身だから、平民貴族っていうし、僕のことを時々……いや、頻繁にバカにする。イラっとするけど、心の底から憎めないのは不思議だ。

ランベルトは、ひとしきり僕を憐れんだ後、本題に入るというように足を組み替える。彼の足は細くて長い。手もすらっとしていて、その手には黒い手袋が光っている。



「貴様に忠告をしに来たのだ」

「忠告? 何かあったっけ?」

「……何もない。じゃない! 忠告だ、忠告。明日、編入生がうちのクラスにやってくるらしい」

「編入生? こんな時期に? というか、ここって編入難しかったんじゃなかった?」

「そうだ。何でも、学園長が喜んで受け入れたとか……いや、成績もトップ、剣術、魔法ともに高成績。歴代で群を抜いて、いや、一番の成績…………腹立たしいだろ! この上ないだろ!」



と、ランベルトの言葉に熱が籠っていく。ふつふつと、彼の嫉妬の炎が燃えているのが見てとれた。


ヤバい編入生がやってくると、ランベルトは言う。これは、彼の何でも一番がいいっていう性格がかき乱されるな、と嫌な予感しかしない。



(そうか、編入生か。そんな成績ってことは、アルだったりして)



そんなわけないのに、と僕は笑っていると、またランベルトに指をさされてしまう。



「いいか! そいつがどんなにすごーいやつでも、俺様を立てるんだぞ。俺様以外に靡くな、俺様以外目にうつすな。いいな?」

「えっと……問題は起こさないようにね?」



まるで僕を自分の所有物のように言うから困ってしまう。それでも嫌いになれないのは、ランベルトがいつも一人だから。僕しか、いない。僕が彼の唯一の友だち……なのだから、仕方ないかと、僕は思わずランベルトの頭を撫でてしまった。次の瞬間げんこつが飛んできたのはまた別の話だ。

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