テラーノベル
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俺と仁人が付き合い始めてから1ヶ月ほどが経過した。
まだ少しだけ照れくさい距離なのに、隣にいるのがもう当たり前みたいになってきている。
現にこうして、一緒に下校するのも日常生活の一部になっていた。
そんな放課後、街はすっかりハロウィンの雰囲気に包まれていた。
店先にはかぼちゃの飾りが並び、オレンジ色のランタンが柔らかく揺れている。
遠くから聞こえる「トリックオアトリート」と、子どもたちの楽しそうな声。
その帰り道を、俺たちは並んで歩いていた。
隣では、他愛もない話にくすくすと笑っている。
その屈託のない笑顔が、たまらなく可愛い。
少し目を細めて笑う横顔を見つめていると、ふととある事を思いついた。
ポケットから、あるものを取り出す。
「仁人、口開けて。」
「……えっ?」
「いいから。」
俺がそう言うと、少し怪しむように眉をひそめがらも、おずおずと口を開けた。
俺の言う事を、疑いきれずに素直に聞いてしまうところ。
その無防備さが、愛らしくもあり、心配でもある。
───俺が守ってあげないとな。
そんなことを考えながら、手に持っていたものを仁人の口に放り込んだ。
「…んっ、なに……飴?」
「今日なんの日だ?」
俺からの問いかけに、少し考えるように目を細める。
すると、すぐに何かに気付いたようにはっとした。
「あっ、ハロウィン……」
「やっと気づいた?」
思わず笑いながら返すと、むっとしたまま頬を膨らませた。
「別に……分かってたし。」
「ホントかよ。」
「分かってたって……。」
「じゃあさ、俺にはお菓子くれないの?」
その言葉に、仁人がきょとんとした顔でこちらを見てくる。
「………お菓子、 持ってない。」
「持ってないの?」
「嘘つくわけないじゃん………」
「じゃあ、イタズラしてもいい?」
その瞬間、仁人の顔が一気に赤くなる。
「ば、ばかじゃないの!!////」
唇をきつく結んだまま、そっぽ向いてしまった。
表情は見えないが、耳も首すらも赤くなっていて、照れているのは一目瞭然だった。
「ごめんって、冗談だよ笑」
からかうように言うと、俺の方をチラッと見てくれたが、むっとした顔は変わらないままで。
そのまま拗ねたように歩き出した。
さっきより歩く速度が早くて、思わず苦笑いする。
……ほんっと分かりやすいな。
でも、こんな風にすぐ拗ねるところも嫌いじゃない。
いやむしろ、大好きだ。
だからついつい、からかってしまう。その可愛い表情が見たくて。
先に行ってしまった背中を追いかけて、数歩小走りする。
また隣に並ぶと、仁人がぽつりと呟いた。
「家になら……お菓子あるかも……」
「ほんと?」
「……うん、」
少し迷うような間を置いてから、仁人が続ける。
「………来る?」
一生懸命のお誘いに、また顔がにやけてしまった。
「行く。」
笑いながらそう答えると、仁人は何も言わず歩き出した。
家に到着し、仁人が玄関の扉を開ける。
「どうぞ。」
「お邪魔しまーす。」
室内の明かりがつくと、外よりも暖かい空気に包まれる。
さっきまでの帰り道と違って、急に静かだ。
リビングに入ってソファに荷物を置かせてもらう。
キッチンに行った仁人に着いていき、一緒に棚や引き出しを覗いてみる。
しかし、そこにはお菓子らしいものは一つも無かった。
「…………ない。」
「無いね。」
「弟に食べられたかも…。」
もう一度棚を開けて、奥の方まで手を入れてみる。
それでも見つからなくて、仁人は小さく肩を落とした。
「ご、ごめん…………」
「全部良いって笑 せっかくだし、お菓子買いに行っちゃう?」
軽く笑いながら、キッチンからリビングの方へ移動する。
ふと振り返ると、仁人はキッチンで固まったままだった。
「…………仁人?どうした?」
「……っ……////」
俺の問いかけには応じず、両手をぎゅっと握りしめたまま、視線を泳がせている。
何が言いたげな様子なのに気付き、優しく顔を覗き込む。
視線がぶつかって、震えていた唇がゆっくりと動いた。
「……いたずら、しないの?///」
一瞬、思考が停止する。
「えっ……?」
「や、やっぱ今のなし!!//////」
真っ赤になった顔を隠すように背を向け、そのまま逃げるように歩き出す。
咄嗟にその腕を掴んだ。
「待って。」
掴んだ腕を引き寄せて、距離を詰める。
顔を近づけて、逃げ場を塞ぐように目を合わせる。
「……イタズラ、して欲しいの?」
目は合っているが、瞳の奥は揺らいでいる。
甘い沈黙の後、仁人は小さく頷いた。
「………ぅん、」
返事を完全に聞く前に、唇を重ねていた。
離れたあと、また目が合う。
その目が、『もっと』と言っているみたいだった。
そのまま、もう一度。
さっきより少し強く。
まるで、仁人の唇を食べるようなキスをした。
ゆっくりと唇を離すと、仁人の瞳は生理的な涙で潤んでいた。
「仁人……口、開けて。」
俺の言葉に、仁人は飴玉の時よりも素直に口を開けた。
その隙間に、自身の舌を入れる。
仁人は驚いたように体をビクッと震わせたが、静かに受け入れた。
柔らかい頬を両手で覆い、舌同士を絡める。
口内を舐めて、上顎を舌先で刺激すると、唇の隙間からふーふーっと仁人の荒い息が漏れた。
最初は成されるがままだった仁人の舌が、少しずつ俺の動きに応えてくる。
俺は、無我夢中で仁人を求めた。
時間を忘れて深いキスをしていると、仁人の手が俺の胸を軽く叩いた。
名残惜しそうに唇を離すと、俺たちの間には銀色の糸が引いていた。
その糸がプツリと切れる。
目の前の仁人は、必死に乱れた息を整いていた。
「……は、やと…なんか、あたまふわふわする……」
「そういう時は、気持ちいいって言うんだよ。」
そう言いながら、細い仁人の腰を撫でる。
「仁人ってさ……この先、したことある?」
「ある、わけないじゃん………キスも、付き合うのも、誰かを好きになるのですら…勇斗が初めてなんだから。」
「そっか。」
まだ、どこかぼんやりしたままでいる仁人のネクタイを解く。
そのまま抵抗が無いことを確認して、ワイシャツのボタンに手をかける。
その時だった。
ブレザーのポケットに入ったままの、仁人のスマホが震えた。
「ご、ごめん……」
慌てて、仁人が画面を確認する。
すると、スマホを見つめた瞳が大きく見開かれた。
「勇斗…やばい……。」
「どうした?」
「親、帰ってくる………」
「は、はぁ!?い、いい今!?」
「今………もうすぐ家着くって…」
二人で顔を見合せて、一瞬固まる。
さっきまでの甘ったるい雰囲気が無くなり、一気に現実に引き戻される。
慌てて鞄を掴み、玄関へ向かう。
靴をひっかけるように履いて、バタバタと立ち上がる。
「じゃ、じゃあ帰るね!」
ドアを押して、玄関の扉を開ける。
ひんやりとした夕方の空気が流れ込んできた。
そのまま外へ出ようとした瞬間。
グイッと腕を引かれた。
反射的に振り向いた途端、唇に柔らかい感触のものが触れた。
さっきまでのとは違う、可愛らしいキス。
仁人からのキスは初めてで、何が起こったのか理解できず、硬直してしまった。
「……っ、じん──」
名前を呼ぼうと口を開く。
けれどその前に、顔を隠すように俺にぎゅっと抱きついてきた。
戸惑ったままでいると、耳元に温かい息が触れた。
「今度………さっきの続きしようね……」
照れた声で、小さく囁かれる。
それだけ言うと、体がぱっと離れた。
「じゃ、帰って!ばいばい!」
困惑する間もなく、背中を押される。
「ちょ、ちょっと……」
そのまま外へ追い出される。
扉が閉まる音がして、急に静かになった。
すぐに帰れる訳もなく、玄関の前に立ち尽くす。
さっきの出来事が、遅れて頭の中に流れ込んでくる。
向こうからのキス。
抱きつかれて、耳元で囁かれて。
今度続きしようねって……?
「……は?」
思わず、声が出てしまう。
もちろん、扉は閉まったままだ。
「は、はぁ……?」
顔が沸騰したみたいに熱くなる。
さっきまでドタバタしてたせいで、考える暇もなかったけど。
今の、心臓に悪すぎだろ。
「……流石にずるいって。」
小さく呟いて、額を手で押さえる。
深く息を吐いて、ようやく歩き出した。
けれど、頭の中はさっきのことでいっぱいだった。
唇の感触とか、耳元で囁かれた声とか。
気付けば同じ事ばかり思い出していた。
「またしようね……」
その言葉が、鮮明に残っている。
「……いや、待て」
立ち止まって、首を振る。
また歩き出しては止まって。ブツブツ独り言を言いながら歩いて。
完全に挙動不審だった。
それから、どうやって帰ったのかは覚えていない。
ぼんやりした頭で、気が付けば家にいて、気が付けば寝る支度も済ませていた。
ベッドに入っても、仁人の表情や感触、体温、声、全てが頭から離れなくて。
体は、ずっと熱かった。
一人、寝れない夜の中俺は、仁人の姿を思い浮かべてその熱を解放してしまった。
コメント
5件
ぎゃはーーー 仁人からするのはほんとに天才

続きが本当に楽しみです♪♪いい話すぎる😭

更新ありがとうございますm(_ _)m 続き楽しみにしてます✨