テラーノベル
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気が付けば、季節は11月になっていた。
朝の空気は少し肌寒くて、夕方の空は前よりもずっと早く暗くなる。
そんな中でも、学校の日常はいつも通り続いていた。
放課後になると、俺は隣のクラスへ行く。
仁人を迎えに行くために。
それが、もう当たり前になっていた。
廊下に出て、仁人のクラスを覗く。
すると奥の席で、仁人と塩﨑くんが並んで机に向かっていた。
他の生徒はいなくて、二人きりだった。
「仁人、何してんの?」
「あ、勇斗。太ちゃんと日直だったんだけと、日誌書くの忘れてて……」
俺は空いている椅子を引いて、二人の近くに腰掛けた。
「時間かかりそう?」
「ううん、もうちょっと。先帰っちゃう?」
「まさか。待ってるよ。」
そんなやり取りをしていると、塩﨑くんがふっと笑った。
「なんかさ、2人ってめっちゃ仲ええな。」
日誌を書く、仁人の手が止まる。
ゆっくりと上がった仁人の顔は、明らかに動揺していた。
少しだけ、口元を引きつらせて笑う。
「そ、そう?」
どこか、ぎこちない声だった。
「普通……だよ。」
そう言いながら、俺の方をちらっと見る。
まるで、助けを求めるみたいな視線だった。
焦っているのが丸分かりで、思わず笑ってしまいそうになる。
困っている表情も可愛いけど。
仕方ない、助けてやるか。
「別に、こんなもんじゃない?」
俺が肩をすくめながらそう言うと、塩﨑くんは首をかしげた。
「うーん、そうかなぁ。」
そんなやり取りの最中、仁人がぱたんと日誌を閉じた。
「日誌、書けたから提出してくるっ、」
急に立ち上がって、早足で教室を出ていった。
まるで逃げるみたいに。
残されたのは、俺と塩﨑くんだけだった。
さっきまであった話し声が無くなり、急に静かになる。
思えば、塩﨑くんと二人きりになるのは初めてだった。
何を話していいか分からず、気まずい空気が流れる。
共通点といえば仁人しかなくて。
沈黙に耐えれなくなった俺は、口を開いた。
「仁人ってさ……クラスだとどんな感じ?」
「仁ちゃん?んー、」
ちょっと考えてから、塩﨑くんが笑う。
「普通にいい子。ちょっと変わってるところもあるけど、そこが面白い。」
「へぇ。」
「あと、意外と構ってちゃんかも 笑」
「それは、分かる。」
思い当たる節がありすぎて、少し吹き出してしまった。
───付き合ってるんだから、それくらい知ってる。
そんなことを思っていると、塩﨑くんがふと思い出したように言葉を発した。
「あ、そういやさ。」
「ん?」
「この前、クラスで恋バナしたんやけど。」
『恋バナ』その単語に、心臓がひゅっとした。
「なんか、仁ちゃん怪しかったんよなぁ。」
「怪しい……?」
「好きな人いそうだった!勇斗、なんか知ってる?」
出かかった言葉を飲み込む。
別に、言う必要は無い。言わなくてもいいことだ。
そんなことは分かっている。
でも、さっきから仁人の話ばかりしていて、
頭の中が仁人でいっぱいで、
気が付いたら、口が勝手に動いていた。
「……俺だよ。」
「えっ?」
「俺、仁人と付き合ってるから。」
そう口にした後で、やっと自分が何を言ったのか理解する。
やばい、と思った時にはもう遅かった。
塩﨑くんは、目を丸くしたまま、こちらを見ていた。
ああ、どうせ茶化されるんだろうな。
そんな俺の考えを払拭したのは、塩﨑くんの声だった。
「え、えー!!ごめん!ごめんごめん!!そしたら、俺めっちゃ邪魔やったよね!?!?」
「………は?」
思ってたのとは違う反応で、ぽかんとしてしまう。
「いやだって、俺よく仁ちゃんといたし!俺、ちょーーーー邪魔なやつじゃん!!うっわ、まじごめん!気付かんかったぁ……。」
本気で申し訳なさそうな顔をして、謝ってくる。
その様子を見て、少し拍子抜けしてしまった。
あれ、待って。
もしかして塩﨑くんって、めっちゃいいやつ?
「……からかわないの?」
「なんでからかう必要あるん?真剣に付き合ってるんやろ。だったら茶化す必要なくない?」
真っ直ぐな目で見つめられ、何も言えなくなる。
自分の中にあった黒い感情が、消えていくのを感じた。
仁人のクラスに行く度、塩﨑くんと楽しそうに話していて。
何となくモヤモヤしていた。
多分、冷たい態度も取っていた気がする。
「………ごめんっ!」
「え、何が? 」
「俺、塩﨑くんに嫉妬して、嫌な態度取ってかも……。」
「そうだっけ?別に気にしてないけど。てか、好きな人が他の男と仲良かったら嫌じゃない? 二人のこと気付けんかった俺の鈍さが悪い。」
「でも……俺、」
「んー、じゃあお互い様!ねっ!」
そう言うと、塩﨑くんは眩しいくらいの笑顔を見せた。
胸の奥でずっと引っかかってたものが、ふっと解けた気がした。
俺、もっとこの人と仲良くなりたい。
純粋に、そう思った。
「あのっ、さ……」
「ん、どしたん?」
「塩﨑くんのこと、俺も太ちゃんって呼んでもいいかな?」
「なーにー!そんなこと?好きに呼んでや。塩丸でも塩豆大福でも!」
そう言いながら、太ちゃんは頬を風船みたいに膨らませて変顔した。
とても、他人には見せれない顔で吹き出してしまった。
「っふ……ははっ、やめ、その顔やめてっ……」
ツボに入ってしまい、腹を抱える。
涙まで滲ませて笑っていると、太ちゃんが得意げな顔をした。
「今の、自信あったで。」
「いやっ……くだらなすぎる、……」
「どうもありがとう。」
「褒めてないって……あー、おもしろ……」
こんなにも涙を流して笑ったのは久しぶりで。
この学校に入ってから、初めて心の底から友達と呼べる人と出会えた気がした。
夢中になって太ちゃんとふざけ合っていると、教室の扉が開いた。
仁人が戻ってきて、俺たちの顔を見比べる。
こてん、と首をかしげた。
「………何かあったの?」
俺と太ちゃんは顔を見合せて、同時に答える。
「「秘密」」
そんな俺たちを見て、仁人は眉をひそめた。
不思議そうな顔をしている仁人に、俺が声をかける。
「まあいいじゃん。ほら、帰ろ。」
「あぁ……うん。太ちゃんは?どうする?」
「俺はいいや。邪魔しちゃ悪いし。」
その言葉に、俺は『ありがとう』と小さく手を挙げてジェスチャーする。
太ちゃんはそれを見て、ニヤリと笑った。
一方で、仁人だけがずっと状況を理解できてないようだった。
「さっきの、何……?」
校舎を出て、家まで送ろうと歩いていると、ふと仁人が口を開いた。
「さっきのって?」
「太ちゃんと、なんか意味ありげだった……」
そう言いながら、口を尖らせてほっぺを膨らます。
なんだか、嫉妬しているようだった。
嫉妬してくれた喜びもあるが、変な勘違いはされたくない。
付き合ってることを伝えた、と言ったら多分仁人は怒るだろう。
でも、誤魔化してもどうせすぐにバレてしまう。
そう考えた俺は、正直に話そうと決めた。
「太ちゃんに言った。」
「言ったって何を……?」
「俺たちが付き合ってるってこと。」
「は、は…はぁ!?////」
仁人の顔が一気に赤くなり、目には恥ずかしさなのか涙が溜まり、瞳が潤み始めた。
「なっ何で、言ったの!!///」
「仁人の好きな人知ってる?って聞かれて、仕方なく……」
「ほんっと信じらんない……/////」
仁人は制服のズボンをぎゅっと握り締めて、深く俯いてしまった。
サラサラの髪を優しく撫でる。
「ごめんって。でも、太ちゃんなら他の人に言いふらすような事しないでしょ?」
「分かってる…それは分かってるけど……でも、勝手に言われて嫌だった……」
ゆっくりと上げられた仁人の顔は、眉尻が下がり、あと少しで泣き出してしまいそうだった。
「そうだね、嫌だったよね。本当にごめんね。」
慰めるように仁人を抱きしめると、仁人は俺の胸に顔を埋めた。
「俺の事………嫌いになった?」
俺がそう聞くと、仁人は顔を隠したまま首を振った。
「嫌いになんて…なる訳ないじゃん。」
「ふふっ、そっか。」
抱きしめていた腕を緩めて、仁人と視線を合わせる。
顎を掬って、唇を重ねようとしたその瞬間、仁人の手のひらが俺の口を覆った。
「っだめ……////」
「え、キスだめなの?」
「通学路でキスとか……、誰かに見られてたらどうすんの…」
「誰も見てないって。ほら、ちゅ~。」
何とかキスしようと顔を近づけるが、仁人が必死に肩を押し返して来て、それを許してくれない。
「もー、ダメ!ダメだってば!」
「分かった、分かったから 笑」
正直、仁人の力くらいなら、無理矢理ねじ伏せてキスも出来たけど。
可愛い抵抗が見れたので、良しとしよう。
まだちょっと拗ね気味の仁人と、再び足を進める。
口は尖ってるくせに、離れようとしないところが可笑しくて。
思わず小さく笑ってから、口を開いた。
「ねぇ仁人。クリスマスってさ。」
「ん?クリスマス?」
「予定空いてるよね?」
「別に………空いてるけど……」
そっぽ向いたまま、ぼそっと呟く。
期待していたのが丸わかりだった。
「じゃ、クリスマスデートしようね。」
俺がそう言うと、仁人は赤い顔のまま小さな声でこう言った。
「……まぁ、行ってあげなくはないけど///」
嬉しさを隠しているつもりなのかもしれないけど、俺の制服の袖をちょこんと指先で掴んでいた。
その仕草を見て、仁人にとって最高のクリスマスにしようと強く決心した。
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