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1 【 故郷に帰るだけ 】
つぼ浦「」
ヴァンダーマー『』
⚠口調が安定していません
メタ的描写があります
休暇でも街から消えて欲しくないと思っているヴァンダーマーと、雰囲気をなんとなく察したつぼ浦が、街と今後について話し合うだけの物語
今日は最悪な日だ。そう思った頃には、既に手遅れで。現在22:10、つぼ浦匠、銀行強盗犯の攻撃によりダウン。「グワアアアア!!!」と、いかにもつぼ浦らしい悲鳴と共に、出勤していた警察たちの元に通知が行き届く。やられたのだ。こんな小さな銀行で、負けたのだ。
こういったつぼ浦のダウンは日常茶飯事という程でもないが、よくある事なので、誰も気にしない。「ああ、あいつやられたよ。じゃあ近くに居る俺たちが行くかな。」なんて会話が無線で繰り広げられるだけの事だ。これはつぼ浦に限らず、どの警察にも当てはまる話のこと。
今回は、つぼ浦1人の対応だったこともあり、ほかの警官達が現着した頃には、犯人はもう居ない。すっからかんの銀行を後にしてしまっていた。
「イデデ…。チクショーすみません、やられました。」
「はーい、救急隊呼ぶから、ちょっと待っててね。」
そんな警官トークをしている間に救急隊は来るものだ。それもそのはず、彼らはいつも異常なまでの速度を出している。
「ど〜も~。いやあ、今回もやられちゃいましたねー、お疲れ様です。」
そんなことを言いながら車から顔を出したのは神崎治。いつもの野郎だ。神崎も神崎で、ああつぼ浦だ。なんて思っているに違いない。事実、神崎は心の中で、馬鹿だなあ。と、つぼ浦のことを笑っていた。
確かに正義は格好良いが、どうも、そこに倒れているのがつぼ浦匠。という情報があるだけで、少し笑えてきてしまうのだ。なにせ宿敵。たかがつぼ浦、されどつぼ浦!無事では無いが、回収されたつぼ浦は、淡々と宛先のない文句を神崎にぶつけていた。
…_____
___
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「お大事に〜」なんて、お決まりのセリフが去り際に耳を触れてきた。つぼ浦は振り向いて、それこそいつもの顔で。
「ああ、助かったぜ。ありがとな。」
そんな言葉を吐き捨てた。そしてそのまま、たまたま通りがかったであろう、ましゃかりトラボルタの車に乗り込む。
「いやー奇遇ですねキャップ、助かりました。」
「ああ、私が居て良かったな。」
「7193番向かってくれません?俺の車そこにあるんで。」
ましゃかりトラボルタという名前があるはずなのに、名乗る時は必ずキャップ。どこにいても、なにをしていてもキャップ。不思議だなあ、と思うこともしばしば。まあ、そんなことを気にしている暇があったら、多分5回は病院送りにできる。裏話はあるらしいが、どうだっていい。
「今日はなにしてました?」
なんて言う簡単な話題から会話は盛り上がる。なんてったって、現在の時刻は22:17。もう夜と呼ぶには十分熟した。気になる店ができた、こんなことがあった、なんだって良かった。2人でまわりをからかうのではなく、2人で会話するだけだって、十分なのだ。
「着いたぞつぼつぼ。」
「ああ、はい。ありがとうございますキャップ。」
「413だ。」
「413?はあ、そうなんすね。なんかちょっとよく分かんないすけど。」
「分からない?まあいいだろう。413だ。」
「あーなんか、なんだろな、今日はありがとうございました。」
「ああそうか、100点だ。」
そう言い残して、キャップはその場を去っていった。いつも通りだな、なんて。気付けば手放すことが考えられなくなっていた、大好きなジャグラーに乗り込む。今日は疲れたな、最後に署に戻って、家に帰ろう。無意識のうちにアクセルを踏んだ。
22:36のなんでもない時間が、つぼ浦の動きを止める。たった一通。誰かも分からない人間から、文と呼ぶ字が届いていた。
『拝啓
貴様のことであるから、元気なのには間違いない。「お元気ですか」なんて言う言葉は使わなくても良いだろう。
改めて、ツボウラタクミ、こんな時間に送るものでも無いが、明日の15:30、良ければお茶をしないか。お茶というのは堅苦しい単語ではあるが、テーブルマナーなんてものはない。ただ、その辺にある喫茶店やカフェのような場所で、いつものように話してくれればそれで良い。
このメールに返事をしてもしなくても構わないが、貴様のことだから読むだけ読んで返事はしないだろう。前記のように、15:30、****番地で待っている。
敬具』
なんだこれ、誰からだこれ。いや、本当になんだこれは。登録されてない番号からだし、なんか怪しいんだよな。そもそもなんで俺の名前と番号を知っているんだ。気持ち悪い。しかも妙に解像度高いし。
まあいいや、明日だろ?多分行ける。どうせ暇だし。大丈夫だ。
そして訪れるは当日。
「おお、来たのか。期待はしていなかったが、こういうところは真面目なんだな。」
つぼ浦の目に映った男、してはやられ、やられはしての男。”例”のキミトスの上司に当たる男だ。どうにも冷静さをこれほどかと見せてくる男は、少し意外そうな雰囲気を漂わせていた。サングラス越しに相手の顔を確認するなり、男はつぼ浦に小さく手を振った。
「ヴァンダーマッ!!」
『ヴァン”ダーマー”だ。』
「ヴァンダーマー!どうした急に、あれお前か?誰かと思ったぜ。」
『いや、わかるだろ。あんな書き方をするのはワシ以外居ない。』
「クソ、よくわかんねえな。」
『まあ良い……。少し、話がしたくてだな。”子供たち”以外と。』
「子供たち?既婚者だったのか。」
『違う。部下のことだ。それくらい誰にだってわかるだろうが。』
「はあ?俺はわからなかったぜ。」
なんて、いつも通りのテンションで、いつものように話を続ける。近頃は、少し周りが優秀だから、こういったギャング共とは犯罪現場で会うよりも、なにもしていない一般市民として出会うことの方が多かった。でも、だからと言って、毎日出会えるわけでもなく。このヴァンダーマーという男とは、おそらく1週間と数日以来の再会だった。1週間以上経ったとて、1年以上暮らしてきたこの街のことを考えると、まあ久しぶりと言う程でもないだろう。
ウエイターと思われる心無き、「ご注文は?」と、待機している。ヴァンダーマーはブラックコーヒーをひとつ注文した後、つぼ浦に視線を送った。つぼ浦は遠慮なく「同じものを」と、その見た目からは考えられない答えを導き出した。
一方、つぼ浦はヴァンダーマーを非常に怪しんでいた。自分を手錠で押さえつけてしまうのではないかと。なにせ、会う度にヴァンダーマーを負かしてしまっていたからだ。そんなことを考えつつも、堂々とヴァンダーマーの目の前に着席するつぼ浦。まあ考えているとは言えど、それが態度に出る男ではなかった。ピリピリと張り付く空気、ヴァンダーマーが先に口を開いた。
『この街についてどう思う。』
「街ィ?別になんとも。いつも通りだぜ、平和だ。」
『違う、そうじゃない。もっと、大きく見た場合の話だ。人間、法律、隣町、なんだっていい。』
「?ああ、この街のすばらしさについて語りたいんだな?」
『……。まあいい、そういうことにしておこう。』
「そういうこともなにも、そうだろうがよ。」
「あー、そうだな。まあ、俺に似合ってるよな。半端者の集まりだ。それでいて懐かしい。」
『懐かしい?』
「昔、思い描いていた世界と似ているんだ。最低限の法律と、最大限のマナーで成り立つ世界。」
つぼ浦は少し眉を眉間に寄せたと思えば、ぱっと表情筋を緩めた。そして、柄にもないことを発言する。
「なんか、良いんだよなあ、人が。俺を認めるってわけではなくて、でも受け入れる?か。受け入れてくれて。」
「あー、俺ってここで暮らしてるつぼ浦匠なんだって、自覚させてくれる。」
「別に俺はそう思わせてくれなんて頼んでないのに、気付けば周りに人がいるんだ。」
「……そうか、そうか! 分かったぞ!! ありがたい存在だ。俺が感謝の矛を向けるべき先だ。ありがとうヴァンダーマー! モヤモヤが晴れた。」
ただひたすらに言葉を並べるつぼ浦を、じいと見つめる。いつもの彼ではない。けれども、確かしそれは彼で。きっと、この宇宙のどこかに存在する小惑星が、彼にそう言えと伝えているんだろう。そしてその小惑星もまた彼で。つぼ浦はそれを理解しているんだ。ヴァンダーマーは、そう納得せざるを得なかった。
『この街は楽しいか。』
「ああ、楽しいぜ。」
なんだこいつ、急に市長みたいなこと言いやがって。と、思うつぼ浦であったが、口に出すのはやめておいた。
『つぼ浦、お前はずっと特殊刑事課…いや、まあ。警察で居るが。飽きないのか?』
「飽きる?なに言ってんだ。俺はここで働くために毎日せっせこ努力という努力を重ねて来たんだぜ。日本で。」
『答えになっていないぞ。』
「ああ、だからなんだ?」
『だからなんだってなんだ…。ワシはな、飽きるか飽きないかを聞いているんだ。』
「飽きないな、楽しい。」
『最初からそう言えデコ助野郎。』
「なんだコイツ、答えてやったってのによ。」
しばらくの沈黙が続いた。ふわりと香る煎た豆の匂いが、少しづつ2人の元へ近付いて行く。ことりと目の前に置かれたそれは、2つともそっくりなもので。というか、同じものではあるのだが。色や匂い、それから香り、少し配分を間違えるだけでなにもかも変わってしまう、そんな飲み物が、綺麗に2つ、登場した。
つぼ浦はなにも言わずにカップを手に取って、1口分を口に含んだ。そしてコーヒーを元の位置に戻すと、ヴァンダーマーに「飲まないのか?」と、催促。心むくままに、コーヒーの香りを嗅ぐ。そしてそのまま1口。相変わらずの苦味である。酸味なんてものは無い。ただ、1度は経験したことのある苦味が、舌から胃へと伝わって行く。
『飲めるのか、ブラック。』
「飲めるぜ、俺をなんだと思ってやがる。」
『てっきり飲まないのかと。なにせお前はお子ちゃまに見えるからな。』
「ンだとコラ、俺の味覚に文句あるんなら、さっさと舌切れや!」
つぼ浦は、普段ならこの振りに答えるヴァンダーマーが、やれやれ、とだけ。首を横に振る相手に、違和感を覚えた。
『ところで、つぼ浦。』
「なんだ。」
『とある人物からだな、お前がこの街を去ると聞いたんだ。』
「?ああ、少しの間故郷に戻るぜ。家族の顔を見に行くんだ。」
『それは、本当に少しなのか?』
「どういう意味だ。」
ヴァンダーマーの声が震える。この時点で、つぼ浦は8割型呼び出された理由を理解していた。男は寂しいのだ。住民が1人減ってしまう事実に、悲しみの感情を抱いていたのだ。と。
『私が思うに、お前はここを去らなくても良いのでは無いかと思う。』
「なに言ってんだ、リモートと現実で会話するのでは訳が違うぜ。」
『ああ、十分承知している。だがな、何故お前が帰るんだ?向こうが此方に来れば良いだけの事ではないか。』
「あー、うん?」
『だからだな、お前がこれほど稼げているということは、まあ実家の方も成功しているんだろう?』
「してないぜ、多分俺だけだ。稼げてんのは。」
『ほう?』
「俺の叔父もな、ここで働いていたんだがよ、そんなに稼いでなかったらしい。」
可哀想に、そのつぼ浦勲とかいうただのジジイには才能がなかった。匠のほうも、それは十分に理解していることであった。
まだこの街が発展して間もない頃、まだ暴れ放題であったあの頃、その男は現れた。警察として。しかし、警察というには性格や腕前、素業が中々に酷いもので。つぼ浦匠は、つぼ浦勲から様々な武勇伝を教えて貰っていたらしいが、つぼ浦匠が言うには、ほとんど嘘の情報だとのこと。
沢山教えてもらった。とにかく、つぼ浦匠の話を聞きたかったからだ。別に、彼の話が面白いわけではない。ただ、声が聞きたかったのだ。
叫ぶ時はとことん叫び、いちいち鼓膜を刺激しに来るあの声。しかし、落ち着いている状況となれば話は変わる。透き通った、男らしい声が脳に直接やってくる。高いという程高くはなく、だからと言って低いわけではない。まあよく耳に残る声を持っていた。
だから聞きたいという訳でもない。ただこの先、つぼ浦匠の声が聞けなくなってしまうと思うと、無性に腹が立ってしまう。
『行くのか、本当に。』
「ああ、行くぜ。つっても少しの間だけどな。」
『ここでも楽しく過ごせていると言ったが。』
つぼ浦は、今までに見せたことのないくらい大きなため息をついた。まさか、私のために?ため息をついてまで?これまた驚いた。しつこく聞いてみるものだな。
「それとこれとは話がちげーだろーが。」
「あのな、俺は少しの間、故郷に帰るだけなんだ。別にこの街に二度と返ってこないとかねーし。」
「あーまあ、なんだ。」
「俺はこの街が好きだから、また戻るぜ。これは絶対だ。」
『……そうか。』
名残惜しい。気が付けば時刻は18:58、辺りはとっくに暗くなっていて。白いティーカップにこびりついた、コーヒーの茶色い後をじっと眺めてる頃。突然のことながら、つぼ浦が膝を伸ばした。そして一言。
「なんか気付いたら死者増えててヤベーことになってんのな、そろそろ行くぜ。」
つぼ浦は「またな。」の一言を残して去っていった。またな。またな、か。悪くない一言ではないか。てっきり私は、じゃあなと言われると思っていた。ああ、ほんとうに。嘘をつけ、もう私と会うことは長いことないと言うのに……。
『喜ばせおって。』