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2【 青井失踪事件 】
つぼ浦『』
その他「」
⚠口調が安定していません
突如として街から消えてしまった、アオセンこと青井らだおを探すロスサントスと、血縁の物語
「なんだって?」
その一言から始まる怒涛のファンファーレ、あたりは青い汗を頬に感じながら、沈黙という、怒りと恐怖に襲われていた。青井らだおが失踪したらしい。と言うのも、あくまで憶測。2日ほど前の、青井の「少し遅れます」という無線以降、誰も彼の姿を見ていなかったのだ。
警察官だけならまだしも、街の住人、半グレ、ギャングなど。どこに聞いても「知らない」の一点張りだったとのこと。その中で、餡ブレラのボスであるウェスカーが、昨日、青井らだおと会う約束をしていたらしいのだが、そこに青井は現れなかったそうな。
「なあ、これって本格的に探したほうがいいんじゃないか?」
と、オルカ・トヴォロが唇を震わせながらそう呟いた。本署の中は珍しく沈黙に包まれていて、普段なら掻き消されていたであろうオルカの声でさえ、はっきりと聞こえた。
今、この部屋の中にいる誰もが、この発言に頷いただろう。「怖いよ」なんて、花沢まるんの腕の中に逃げ込むオルカ。これにはさすがのつぼ浦も、疑問を抱いてしまっていた。あれほど献身的だったアオセンが、声だけを残して消えることが起こり得るのだろうか?
そうして、本格的な捜索が始まったわけだが、青井の人望というものを改めて感じることとなる。犯罪数が一気に減ったどころか、手伝いをしてくれる者まで現れたのだ。あの日、何時ごろにあいつはあそこに居て。って。本人の声は誰も聞いちゃいないのに、どこに行っても青井青井。
彼のことは嫌いではなかったが、ここまで名前を出されると、次第にイライラしてしまう。相手はつぼ浦匠という男に、初めて青井の話題を持ちかけているかもしれない。一方で、つぼ浦はと言えば、1日だけで、10、15、と、その単語を聞いていた。
4日が経った頃、つぼ浦は、過度なストレスが原因なのか、頭痛に見舞われた。ガンガンと響く眉間あたりの痛みを中和しようと、真昼間から懸命にタバコをふかしている。
「うるさいよな、街の奴ら。」
と、後ろから声をかけたのは三階堂キミトス。相手も相手で、口から細い煙を焚き上げていた。
「おまえに言うことじゃねーんだがよ、ずうっと青井青井って。組織のやつ、と言うか。ボスがあいつのことを好きすぎんの。」
『続けても良いぜ。』
「良いのか、じゃあ遠慮なく。」
そのまま隣にやってきては、タバコの銘柄何?とか聞いてくる。普段なら殴っているが、今のつぼ浦にそんな気力はなかった。
「別に、帰りたくなったら帰ってくんだろ。確かに連絡もなしに消えるのは不気味で仕方がないが。もう4日だぜ、少し休んだって良い。」
「周りが頑張っているから、それに感化されて、歯止めが効かなくなってるやつ、間違いなくいるよな。特に警察。」
言われてみれば、そうだ。同僚はもちろん、キャップやネルセンまで必死こいてアオセンの話をしている。キャップなんかは特に頑張るような人間ではないから、それが少し気持ち悪い。
『半チャーハンだっけ?まあなんだ、お前んとこのオッサンも忙しそうだよな、毎日本署に来ては情報提供してくれてんだぜ。』
「ヴァンダーマーな?」
『ああ、ヴァンダーマー。』
互いに皮肉を言い合った。かなり気が楽になる。タバコはあっという間に縮れてしまって、もっと長いタバコが欲しくなってしまう。キミトスは、捜索に命をかけているような輩のことを総称してバカと呼ぶようになったらしい。もちろん、彼のボスを除いて。
「捜索、言い始めたのは誰なんだ。」
『俺の同僚』
「マジで?そりゃ、なんか…災難だな。」
『ああ、ほんとに。帰りたくね〜…戻ったらまたアオセンパラダイスだぜ、おはようも言えなくなってんの。』
「挨拶できないって、幼稚園児かよ。」
『まあ、いつもと違う雰囲気しかないから。もしかしたらココ、俺が住んでたロスサントスじゃねーのかもな。』
「なら旅仲間だな、俺たち。」
『ああ、良い知り合いだと思うぜ。』
キミトスは顔を顰めて「お前なあ…。」って。まあ事実だ。仕方がない。一生お前の片思いであれば良い。
『そろそろ行くぜ、じゃあな。』
「ん、また来いよ。」
『ああ、オッサンによろしく伝えといてくれ!!』
振り向かずに走った。小さく「ヴァンダーマーな」と聞こえる。どこまで好きなんだよ、俺は署長の名前すら覚えてないってのによ。気分はかなり良くなった。おそらくただの八つ当たりであろう怒りも収まって、まあ今度銀行で会った時は見逃してやろう。
「匠!顔色良くなったか?さっき辛そうだったから、良かった!」
と、つぼ浦の帰りを迎えたのはオルカだった。つぼ浦でも顔色が悪くなってしまうような本署の空気の中で、どう耐え抜いていたのかは知らないが、オルカの体調は明らか良好であった。
「あのな、ちょっと頑張りすぎてたと思うんだ。だから一緒に遠くに行こう。」
『あー、ああ。行くか。』
「嫌だったか?」
『?なにがだ?空か陸かで迷ってただけだぜ。』
さて、いわゆるデートというものだ。街から少し離れた山の方に、2人で行くことにした。もちろん、つぼ浦のジャグラーでだ。オルカはつぼ浦のジャグラーを大層気に入っているようで、空か陸かを聞いた時、目を輝かせながら「ジャグラーが良い」と、本署から飛び出した。
いつぶりだろうか、私情にこの車を使うのは。もうずっと乗っていなかった。つぼ浦は窓を開けて、風を感じる。心地良い。当然のことながら無線なんてものは切ってしまっていて。オルカにもそれをやるようにと催促した。無線を切ったであろうオルカは、改めて世界の静けさを知る。
「今日の匠はちょっぴりリラックスモードだな。」
『居ないからな、威嚇する相手が。』
「あれ威嚇だったのか……!?」
『ああ、6割型威嚇だ。』
落ち着いた声色で淡々と話を続けた。隣がオルカではなかったら、こんな話はできなかったかもしれない。
少し道が整備されていないところに来ると、2人は車から降りて、肺いっぱいに新鮮な空気を詰め込む。「はあーーー」と、体内を循環した、あまり綺麗ではない空気を口から出して、自然破壊。オルカは両手をバッと上にして、
「うおーーーーッ!!」
と、まあ女性らしくない叫び声を山に投げつける。それを見たつぼ浦が、見本を見せつけてやると言わんばかりの顔で肩を回し始める。肩の力を抜いたと思えば、拳を握りしめて、
「ア゚ーーーーーーーーッッッ!!!!」
山はこの叫び声をきにいらなかったらしく、1秒後に「アーー!」と、そのまま返却してきた。それを聞いたオルカがつぼ浦に、「すげえ、すげえよー」と、悔しさ半分に背中を叩く。満更でもない顔とは、まさにこのことだろう。隠れていない口元が、にやりと上に向く。
すっきりしたことだし帰るか、と。満場一致(2人しかいない)で車に乗り込もうとした矢先のことであった。つぼ浦の足元がきらりと光る。
「匠、足元に何か落ちてるぞ。」
『あ?んだコレ…。』
「ガラスかな?」
太陽光が反射する、小さいものを拾い上げた刹那、2人の顔色は豹変した。なにもなかった肌からは、突然の如く汗がふきだし、オルカは咄嗟に口元を手で覆う。段々荒くなる呼吸音と共に、手の筋肉は痙攣し、興奮して瞳孔が開いていた。
3秒ほどの時間を平らげて、ふと素面に戻った2人は無線機を取り出す。「1」と入力した途端に聴き慣れた声が次々に聞こえ始める中、つぼ裏の一言で、全ての音が消える。
『こちらつぼ浦匠とオルカ・トヴォロ。アオセンの警官バッジを発見。』
きらりと光るものの正体は警官バッジ。この街でコレを常に身につけている警官の方が少ないのだが、そのおかげですぐにそれが青井らだおのものだということがわかった。ザアザアと小さい砂嵐が聞こえる中で、「今いる警察官は全員本署へ足を運ぶように。」署長の声が全てを動かす。
「もしかしてオルカたち、とんでもないものを見つけたのか。」
『ああ、今なら高値で売れるぜ。』
「高値…!?そうじゃない!戻る先はオークション会場じゃなくて本署だからな!」
つぼ浦の次のセリフを聞く気もなく、オルカは急いでジャグラーへ走った。「はやくはやく!」鍵がかかった車を開けて欲しいらしい。しかたないので若干小走りで鍵を開けに行った。
道路交通法なんて関係なく、すぐにジャグラーを飛ばした。途中で誰か轢いてしまったかもしれない。でも、そんなことはどうでも良かった。今はただ、本署に戻って希望という名の偶然を、大勢に報告しなければならない。
予想に反して、本署前はとても静かであった。硝子戸の前に立っている署長を見つけて、オルカはすぐさま走り出した。
「署長!」
「おお!来たか、オルカ、つぼつぼ!皆中に居る。」
どうやら自分たちが遅かっただけらしい。
「キセキの世代の名は伊達じゃないな!」
と、嬉しそうな声色でつぼ浦に話しかけるオルカ。
『ああ、お手柄だぜ。』
なんて、サムズアップをするつぼ浦。楽しみだ。これでなにか情報が得られるのであれば、これが使えるのであれば、きっとこの地獄も終わる。
…
……
結果的に、青井らだおの指紋とつぼ浦匠の指紋以外は見つからなかった。
希望と思ったソレは、ただの飾りにすぎなかったのだ。
本書の中は沈黙に包まれる。
こういう時に空気をぶち壊したくなるものなのだが、どうにも壊せそうにない。普段ならソワソワしているキャップでさえも、黙っていたから。
気付けばつぼ浦の頭痛は再来していて、またあのオールバックにお世話になるんじゃないかとハラハラしていた。
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────
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捜索が始まってから1週間が経った頃、青井らだおは突如として無線に現れた。
「すいませ〜ん、ご迷惑をおかけしました。青井、出勤します〜。」
変わらない声色だった。聞いたことのある声だった。少し、怖かった。本署に着くと、そこは1週間ぶりの大賑わいで。輪の中心には当たり前のように青井が立っていた。
『やっと帰ってきたんすか。』
なんて、まあ心の籠もっていない労いの言葉と共にバットを一発お見舞いしてやった。「こら」と怒鳴られることを覚悟していたが、実際そうでもないらしい。青井は少し困惑したようでいた。
彼の人気は本当にすごいもので、帰ってきたのは昼だと言うのに、つぼ浦が殴ったのは昼なのに、夜になってもまだ人が本署の前にたくさんいる。
久々に見るアオセンは心なしか痩せていて、腕とか特に細くて違和感があった。まあ監禁されていたとか、遭難していたとかなら仕方がないか。とか思いつつ、もう遅いので一旦解散することになった。
「つぼ浦ー?」
と言う声が聞こえてきたのは本署の前に佇むアオセンから。暗い駐車場で、手を振っている。
『どうしたんすか!そんなとこ突っ立って!中入りましょーよ!!』
「いやあ、今日は気分じゃないんすわ。ドライブして行かない?」
ドライブとはまた珍しい。でも久しぶりの上司だし、元気そうではあるし。行って損はないと思った。『しゃーないっすね』と、青井の車に乗り込む。助手席も、隣にアオセンが座っていることも、違和感でしかなかったが、我慢した。
青井が車を止めたのは飛行場。なんのためにここに来たのか、ここでなにをするのかもわからない。潮混じりの軟い風が、皮膚という皮膚にこびりつく。青井はそれを、これほどかというまでに体を広げて感じていた。
「あー、いいわー。やっぱ人多いとこういうのできないもんね。」
そう言ってくつろぐ青井を横目に、つぼ浦はこのどうしようもない、訳のわからない心情をどうしようかと迷っていた。ふと、青井の顔がつぼ浦の方へと動く。
「ねえ、俺の素顔知ってるっけ。」
『知らないっすけど、急になんなんすか。』
「ううん、別に。ちょっとこのマスク暑いんだよねー、ムシムシする。」
あっつい、と言いながら滅多に外さない面を下げた。まあ綺麗な茶髪じみた青い髪、予想通りと言うに相応しい目付き、そしてよくわからない汚れ?が、つぼ裏の目には映っていた。
『アオセンの顔ってなんか、汚れてんすね。顔洗った方がいいぜ。』
「模様だよ模様、それ言ったらつぼ浦…だって、足とか汚れてんじゃん。」
『まあ見せるために入れてるんで。隠してたら汚れも同然っすよ。』
「へえ、綺麗な顔の方がいいんだ?」
なんなんだこいつ、やけに探ってくる。と、青井の問いにはアンサーをくれてやらなかった。むしゃくしゃする。心配させておきながら、ケロッとした状態で1週間ぶりに顔を出して、謝罪もなにもなし。ゆっくり話せると思ったら、署の中に入ることを拒むわ、ドライブに行こうなんて言い出すわ。調子が狂う。
読めない空気だ。と言うよりも、読んだことの無い空気。だから多分、この人はアオセンじゃないんだと思う。と、つぼ浦は目の前にいる男の事を分析していた。
「俺のことどう思ってる?」
『なんすか、今日キモいっすよ。』
「ねーいいじゃん、探してくれてたんでしょう?俺のこと。」
『まあ、ね。嫌いではない。好きかって言われても頷けはしないっすね。別に、誰かをどう思う。みたいな感性は持たない方がいいと思ってるんで。』
「ふーん。」
なんか意外、思ってたのと違う。なんて顔をする青井。実際にそうだ。つぼ浦は確実に誰かを無くさないと、それを大切な者だと認識することができない。闇堕ちするとか、もう二度と会えなくなるとか。そういうのではない限り、周りはあくまで他人であった。
しばらくの間、暗闇に浸っていた。青井はと言うと、相変わらずであった。本人なのに、本人じゃない。不気味と言うよりかは、不思議でたまらない。なんなんだろうなあ、と、久々に見る星空を眺めていた矢先。「じゃあ帰るよ」と、もう一度車に乗り込む青井。なにも感じないまま、今度は後頭座席に乗り込んで。窓の外を眺めて。気づいた頃には本署に戻っていた。
「じゃあ俺、もうちょっと運転楽しんでくるから。」
バイバイと手を振ってまた出ていく青井に手を振りかえす。ああ、なんか、なにを考えれば良いのか、もうわからなくなっていた。安心感なんて言う単語は一切存在せず、違和感だらけになってしまった彼の車を目で追いかけた。見えなくなるまで。
今日は何故かとても疲れた。泊まろう、ここに。
翌朝、本当に早い朝。昨日のメンツは疲れに疲れてぐっすり眠っている朝。私服の青井が、昨日居なかったギャングや半グレ達に必死に頭を下げていた。手を合わせていた。「ごめんね、ごめんね」と。でも多分、こころからの謝罪ではなくて。
つぼ浦の存在に気づけば、すぐに駆け付けて、「バッジ見つけてくれたのつぼ浦らしいね。」なんて。つぼ浦は、昨日の青井が嘘みたいに思えた。
「おはよー、みんなほんとにごめんね、それでありがと。」
アオセン、最近はあの気持ち悪い仮面外すのにハマってそうだな、ていうか、やっぱり違和感がある。でも昨日とは違う。多分、制服を着ていなかったから。この前もアオセンの素顔を見たわけだけど、少し違う。あの時は暗かったから?でも、なんか、なんか。
『アオセンなんか、肌綺麗になりました?』
「ええ?俺の肌いっつもこんな感じよ?」
アオセンはそう言って、不思議そうな顔を俺に見せた。不思議がりたいのはこちら側なのだが、まあ大人だから特別に見逃してやる。
『だから、昨日見せてくれたじゃないっすか、顔。なんか、汚れてたんで覚えてますよ。泣いてるみたいな。』
「あー…ああ!あいつと会ったんだ!」
『アイツゥ…?』
「皆には黙ってたんだけど…会ったならもう良いか。そいつ、俺の弟ね、ラディって言うんだけど。」
どうやら、あの日現れたのは青井らだおではなく、青井ラディという、まあ双子の弟だったらしい。兄であるアオセンのことを滅法嫌っているらしく、少し前も彼の暴言づくしだったそうな。
声も身長も瓜二つで、違うところがあるとすれば、髪色と顔面だけ。あの時、アオセンが中に入ろうとしなかったのは、それが原因だったからだろうか。
この警察署の中で、ラディの顔面を見たのはつぼ浦ただ1人だけである。つまり、つぼ浦が初めて見た青鬼の中の顔面は、本人のものではなく、偽物の顔だったというわけだ。
ラディは警察官の中に、らだおの顔面を知っている者がいたときのために、制服と仮面とを奪ったらしい。彼は個人医、その中でも闇医者の部類で、鍵を持っていなかったのも、きっと中に入らなかった原因のうちの1つだろう。
先輩後輩関係なく抱きつかれ、寂しがられていた青井の背中には、いかにも安心感と信頼を預けてくれている。
最後に、もう当分、彼の名前は聞きたくない。無線は救急隊に繋いで、しばらくの間は本署に近づかないでおこう。そう決心するつぼ浦であった。