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#高校生
第18話 「冬」
九州大会が終わった。
柳城高校に、冬が来る。
グラウンドには冷たい風。
吐く息も白い。
だが練習は止まらなかった。
走る。
振る。
守る。
地味で、苦しい練習が続く。
「冬に逃げたチームは、夏に負ける」
福間監督は何度もそう言った。
小早川啓介は、毎日最後までグラウンドに残った。
捕球。
スローイング。
配球ノート。
そして筋力トレーニング。
九州大会で感じた“差”。
それが頭から離れなかった。
(もっと強くならないと)
ある日の練習後。
ブルペンで一人、壁当てをしていると――
「まだやるんか」
福間監督だった。
「はい」
福間監督はしばらく黙って見ていた。
――パンッ。
――パンッ。
ミットの音だけが響く。
「小早川」
「はい」
「お前、甲子園行きたいか?」
突然の問い。
小早川は即答した。
「行きたいです」
福間監督は小さく頷く。
「なら、“うまい選手”で終わるな」
「勝たせる捕手になれ」
その言葉が胸に刺さる。
勝たせる捕手。
ただ打つだけじゃない。
ただ守るだけじゃない。
“試合を動かす存在”。
その意味を、小早川は考え続けていた。
年が明ける。
2019年。
小早川は二年生になる。
そして春。
柳城高校へ、一人の新入生が入学してくる。
小早川舞。
啓介の妹だった。
「よろしくお願いします!」
野球部へマネージャーとして入部。
部員たちがざわつく。
「え、小早川の妹!?」
「似てねぇ!」
「うるさいです!」
舞が即座に言い返す。
ベンチに笑いが起きる。
その様子を見て、福間監督が少し笑った。
舞はすぐに仕事を覚え始めた。
ボール磨き。
洗濯。
スコア記入。
そして何より――
よく見ていた。
選手の表情。
空気。
流れ。
ある日。
練習試合後。
舞がスコアブックを見ながら言う。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「七回から、配球変えた?」
啓介が驚く。
「……分かるのか?」
舞はうなずく。
「相手、低め捨ててたから」
啓介は少し笑った。
「ちゃんと見てるな」
舞は少し得意そうに笑う。
夕方。
水郷の町を赤く染める夕日。
冬はまだ終わらない。
だが柳城高校野球部は、確実に前へ進んでいた。
そして――
小早川啓介の、本当の勝負の年が始まろうとしていた。
第18話 終
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