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#怪異
阿炎快空
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#ダークファンタジー
阿炎快空
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阿炎快空
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こうして磯田の、幻影サーカスでの生活が始まった。
サーカスの団員は、頭が三つあったり、腕の代わりに翼が生えていたり、ところどころ皮膚が透けて人体模型のような見た目だったりといった異形揃いだったが、みんな気のいい連中だった。
それぞれの世界において異端の存在が集った一座には、疑似家族の様な温かさがあった。
大道具やテントを積み、芸人やスタッフを乗せた何台ものトラックは、座長の持つ不思議な力によって次元を越えて、様々な世界を廻った。
真夜中、闇の中を走っていると、徐々に霧が濃くなってくる。
霧を抜けると、そこにはそれまでと異なる世界が広がっている——そんな具合だ。
後に団員達から聞いた噂話によれば——座長はかつては今よりももっと強大な魔力を誇っていたらしいが、自由に次元を渡る術と引き換えに、その力の半分を失ったらしい。
磯田は座長に、元の世界に戻りたいと訴えた。
しかし座長は、
「ふうむ。どうしても、というのなら構わんがね」
と前置きした上で続けた。
「残念ながら君はもう、元の世界から完全に切り離されてしまっている。君を襲った怪異の仕業か、はたまた囲の儀式によるものか、もしくは——」
「囲?」
「ああ——居るんだよ、そういう連中が。とにかく元の世界にはもはや、君のことを憶えている人間も居なければ、君の存在した痕跡もない」
「そ、そんな……」
「それでも戻りたいならば、なるべく雰囲気の良さそうな孤児院の前に置いていくくらいはしてやってもいいが——どうするね?」
サーカスではいろいろなことがあった。
普通の人生では味わえないような出来事を、磯田は山ほど経験した。
時折、舞台に立たせてもらうこともあった。
とは言っても、あくまで座長のアシスタントとしてだが。
「タネも仕掛けもありません」という口上は、大抵の場合はお約束の文言に過ぎない。
しかし、座長の奇術に関しては単なる事実であった。
魔女は嘘がつけない。
座長が「タネも仕掛けもない」と言ったら「タネも仕掛けもない」のだ。
そんなことを知る由もない観客達は、目の前で起こる奇跡の数々に興奮しながら、「いったいどんなトリックを使っているのか」と首を捻っていた。
恋もした。
相手は、アリーシャという名前の少女だ。
彼女は磯田と同じくらいの年齢だが、サーカスでは一年先輩だった。
黒い髪に褐色の肌をしており、ぱっちりした瞳と厚い唇が特徴的な子だ。
アリーシャの故郷では少し前に大きな戦争があり、彼女は戦災孤児として育った。
アリーシャには生まれつき、もうじき怪我や病で死ぬ人間がわかったり、戦争で亡くなった兵士の亡霊を見たりといった不思議な力があった。
そのせいもあって、施設で「呪われた子」として虐待を受けていたのを、座長が助け出したのだ。
磯田とアリーシャは、年も近いうえに似たような境遇だったこともあって、すぐに仲良くなった。
魔術、妖術、呪術、超能力——
呼び方は様々だが、世の中にはそうした不可思議な力を制御できずに振り回されたり、必死に力を抑え込んで自分は普通だと思い込もうとしたり、そもそも自分の中にそんな力が眠っていると気づいていない者達が存在する。
アリーシャもその内の一人だった。
座長は自らのトレーラーハウスに彼女を呼び出し、毎夜、マンツーマンで魔術を教えた。
結果は、座長の予想を大きく上回るものだった。
境の世界の魔女達は、〝夜〟と契約し、嘘を禁じることで強大な力を得る。
しかしアリーシャはそんな手順を踏まずとも、魔女に比肩するほどの力をその身に宿していた。
アリーシャは座長のお気に入りであり、彼女が十五になる頃には、時折、自らの代わりに舞台で奇術を披露させた。
アリーシャのアシスタントも、磯田が務めた。
初舞台の夜。
客席の拍手喝采を聴きながら、磯田とアリーシャは舞台袖ではしゃぎながら抱き合った。
それからすぐに正気に戻り、お互い頬を染めつつ、そそくさと距離を取った。
ある日の事だ。
磯田がいつもの様に一角獣に餌をあげていると、アリーシャが声をかけてきた。
「大丈夫?最近、よく眠れてないんじゃない?」
その通りだった。
磯田はここ数日、頭がぐちゃぐちゃに潰れ、眼窩から片目の飛び出した女に首を絞められる夢に悩まされていた。
目の下には、薄らと隈ができてしまっている。
座長曰く、元の世界から切り離された際、磯田は本来なら自分を守ってくれる存在——即ち、先祖の霊魂との繋がりも同時に断ち切られてしまったらしい。
神隠しにあうと、稀に起こる現象だそうだ。
それにより磯田は、浮遊霊や夢魔といった〝良くないもの〟の影響を受けやすくなっていた。
「一応は座長の力で、本当に危ないものからは守ってもらえてるんだけどね」
苦笑する磯田に、アリーシャは言った。
「もしかしたら、何とかできるかも」
アリーシャもかつては、自らの秘めた力が〝良くないもの〟を引き寄せてしまっていた。
しかし座長から力の使い方を学び、そうした存在を遠ざける方法を学んだのだという。
アリーシャは両手を水をすくう形にして胸の前に持ってくると、長々と呪文を唱え始めた。
徐々に掌の上に青い光が集まり、それはやがてリスの様な生き物となった。
「この子は、イソダを〝良くないもの〟の影響から守ってくれる。きっと悪夢も見なくなるはずだよ」
磯田は、生き物に〝ブルー〟と名前を付けた。
磯田がお礼を言うと、アリーシャははにかむように微笑みながらその場を後にした。
少ししてから、今度は座長が通りかかった。
「おや?その肩に乗せた守護霊獣はどうしたんだね?」
「コイツですか?実はさっき——」
磯田が説明すると、座長はホホウ、と呟き、何故だか嬉しそうに口元を緩めた。
「そうか、アリーシャが——そうか——なるほど——」
「どうしたんですか、ニヤニヤして?」
「フフ——私は嘘がつけない上に、困ったことに口が軽い。後生だから、これ以上質問はしないでくれたまえ」
座長はそれだけ言うと、マントを翻し、鼻歌混じりに去っていった。
アリーシャの使った魔術が、〝相手を心の底から大切に想わないと成功しない〟類のものだと磯田が知るのは、もう少し先のことだ。
コメント
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アリーシャが磯田のために守護霊獣を創った場面、すごく胸にきました。あとで座長が「相手を心の底から大切に想わないと成功しない」って教えてくれるところで、彼女の想いがじんわり伝わってきて…。二人の距離が少しずつ縮まっていく感じが、とても丁寧に描かれていて好きです。サーカスの疑似家族のあたたかさも、いいなと思いました。