鷹津は低い声で挨拶を交わし、彼に鋭い視線を向けた。「君が今まで各地で退治してきたゴーストの噂は聞いている。だが、ここは君が思っているほど甘くはない」
「さっそく嫌味か?」鋼谷は眉をひそめた。「あんたが俺を呼び出したってことは、ただの雑用じゃないんだろう?」
鷹津は静かに頷き、資料の束を彼に投げ渡した。その中には、骸教団に関する情報、ホロウギルドの内情、そして錆の都全体に張り巡らされる不可解な噂話がぎっしりと書かれていた。
「君には都にある“影”を排除してもらいたい。骸教団の残党だけじゃない。都に蔓延る異能集団、そして不穏な勢力もだ」鷹津の声は冷たく、彼の目には決意の炎が宿っている。「錆の都は、もはやゴーストだけの問題ではない。生者も死者も、ここでは平穏を奪い合う競争の中にいるんだよ」
鋼谷は資料に目を通し、都知事の言葉を噛みしめた。この都市は腐敗し、住む者たちの魂までも蝕んでいた。死者が彷徨い、異能者たちが生き延びるために争い、無数の組織が密かに力を振るう場所。錆の都は、生者と死者、あらゆる存在が命を削り合う戦場そのものだった。
「俺に頼むとは、人手が足りてないんだな」鋼谷は肩をすくめ、皮肉を交えた口調で言った。
「そう思ってくれて構わん。ただ、君がこれ以上邪魔をするつもりなら、都としても応じる覚悟はある」鷹津の口元が微かに歪み、冷ややかな笑みが浮かんだ。
鋼谷はその言葉に一瞬むっとしたが、すぐに軽く笑い返した。「威勢がいいじゃないか。けど、あんたが頼るべきは俺みたいな“クソゴーストバスター”なんだろ?」
その言葉に鷹津は一瞬黙り込んだが、やがて彼もまた小さく笑った。「まったくだな。お互い、腐りきったこの都の生き残り方を学ばなければならんらしい」
二人の視線が交差し、その場には一瞬の静寂が訪れた。都知事の鷹津剛造とゴーストバスターの鋼谷—対立するようでいて、どこか同じ荒んだ地に生きる者同士の奇妙な共感がそこにはあった。
「さて、仕事に戻るか」と鋼谷がため息混じりに言い放ち、鷹津に背を向けて歩き出した。「だが覚えとけ、俺はあんたの命令で動くんじゃない。あくまで、この都を自分の方法で掃除してやるだけさ」
鷹津は黙ってその背中を見送り、彼の去った後に静かに言った。「好きにやるがいい。だが、結果だけは出してもらうぞ、鋼谷」
こうして、鋼谷と鷹津剛造の不安定な協力関係が始まった。錆の都の運命は、このふたりの手に委ねられつつあった。