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だが、彼らが逃げ込もうとする「木の影」も
身を隠すための「岩の影」も
この領域のすべてがルナの意思に支配された戦場だった。
闇の中から、ルナが音もなく実体化する。
彼女の細い指先に握られているのは、影を極限まで凝縮して形成した漆黒の短刀。
一人の暗殺者の背後に、幻影のように現れた彼女は
まるで夜風に舞う花びらのような軽やかな動作で、その男の喉を切り裂いた。
ルナの思念が、氷の針となって暗殺者たちの脳裏を突き刺す。
彼女の動きは、もはや生物的な反射を超越していた。
影から影へ、空間を跳躍するように瞬間移動を繰り返し、物理法則を無視した角度から死の舞踏を振りまいていく。
暗殺者たちが絶望の中で放った毒入りの投げナイフも、必殺の魔法の矢も
ルナが纏う漆黒の影の衣に吸い込まれるようにして、何一つ届かずに消え去っていく。
「化け物め……! 何なんだお前は! 奴隷のガキが、なぜこれほどの……!」
最後の一人となったリーダーが、恐怖に狂乱して大剣を振り下ろす。
重力に任せた、捨て身の一撃。
だが、ルナはそれを避ける動作すら見せない。
彼女はただ、感情の抜け落ちた冷たい青い瞳で、目前の男をじっと見つめた。
その瞬間──
男の背後にあった「屋敷の壁が作った巨大な影」が、深淵の顎のように立ち上がり、彼を丸ごと飲み込んだ。
ゴキリ、という背筋の凍るような嫌な音が闇に響き、それきり深い静寂が森を支配した。
テラスで最後の一口、ワインを飲み干した頃。
足元の影がゆらりと揺れ、静かに波紋を広げた。
そこから現れたルナは、その純白のドレスの裾一つ
返り血で汚すこともなく、俺の膝元に静かに頭を預けてきた。
《……終わりました。ゼノン様》
脳内に響くその声は、つい数秒前まで死神として敵を屠っていたものとは思えないほど
柔らかく、そして俺の体温を求めるような熱を帯びている。
俺は彼女の少し夜風で冷えた頬を、大きな掌で包み込み、ゆっくりと撫で上げた。
「よくやった。さすがはルナだ。手際が良くなったな」
ルナは、まるでお気に入りの挿絵の少女のように
白皙の頬を赤らめて俺の手のひらに顔を擦り寄せる。
その瞳には、先ほど十二人の熟練暗殺者を冷酷に屠った残虐な面影など、もうどこにもない。
ただ、大好きな主人に褒められたことを全身で喜び、甘える一人の少女の姿があるだけだ。
「……褒美に、明日はお前の好きなあの街の店のタルトを買いに行こうか。新作が出てるらしいぞ」
俺がそう言うと、ルナは嬉しそうに目を細め、俺の膝にぎゅっと抱きついてきた。
俺は彼女を抱き寄せ、その銀髪を優しく梳く。
俺は、ルナの髪で揺れる青薔薇の髪飾りに指先で触れ、静かに笑った。